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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第九章 領地視察へ
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代表者との会話。そして、師と弟子の再会

 キオサさんの案内で広めの部屋に通された私達は、キオサさんと向かい合う位置に座る。飲み物も出してくれた。

 アルテがトイレから戻ってくるのを待つつもりだったんだけど、アテーナいわくアルテは一度トイレに入ると30分は出て来ないとのこと。…なんでそんなにトイレ長いのよ。痔にならないのかしら?


「まずは魔物襲撃による戦闘の加勢および仲間を救っていただき、ありがとうございました。感謝申し上げます」

「いえいえ、大したことはしておりませんよ」


 私はキオサさんの礼を流した。表向きは謙虚さを見せるため。本心は警戒心から。


「それでは単刀直入にお伺いしますが、あなた方はどちら様で、何のご用件でここへ来られたのですか?」


 キオサさんは真剣な表情で私達に問う。


「その質問に答える前に、一つだけよろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」


 私は目線を窓の方へ動かす。キオサさんの真後ろにある窓には、外からこっちを覗き込んでいる人達の姿があって、非常に落ち着かない。


「そちらの方々を何とかしていただけませんか?」

「…そうですね。すいません。少々お待ちを」


 真剣な表情だったキオサさんは後ろを向いて確認した後、一変して苦笑いを見せ、窓の方へ向かった。その直後、覗き込んでいた人達が「ヤベッ」っていう顔になった。


「破壊された所の修復をするよう言ったでしょう!何を勝手に覗き込んでるんですか!」


 キオサさんが一喝すると、覗き込んだ人達は慌てて離れて行った。


「すいません。これで大丈夫ですので」

「ええ、ありがとうございます。それで先程の質問なのですが…」


 傍聴者がいなくなったところで、私は話を戻す。


「私はアイラ・ハミルトンと申します。グレイシア王国において、侯爵位を持っております」

「貴族侯爵の方ですか…」

「私の周りにいる彼女達は、皆私の部下です」

「侯爵たるあなたにお仕えする者達ということですね」

「はい、そうです。それで私達がここへ来た理由ですが、それにお答えするには少し経緯を話さなくてはいけません」

「経緯?」

「はい。キオサさんは、元々この地を治めていた者が王家に反旗を翻そうとして失敗し、処刑された事はご存じでしょうか?」

「はい、存じ上げております」

「その後この地はグレイシア政府が直接管理しておりました。そのため領主が不在になって以降、視察などは行われずにそのままになっておりました。

 しかし現在は事情が変わりました。実は私が爵位を賜ったのがつい最近でして、グリセリア女王陛下より領地を与えられました。その範囲の中にこの場所も含まれておりまして、事前に領地内を廻った調査団からの報告で、廃村になっているはずの村に人がいると聞きまして…」

「それで調べるためにここへ来た、と…」

「はい」


 キオサさんは少しの間、考える素振りを見せた。


「その調査団という方々は、もしかして少し前にここへ訪ねてきた者達でしょうか?」

「おそらくそうだと思います。突然襲われそうになったと聞きましたが」

「あー…、あれはですね…」


 キオサさんは何故か急に苦笑いを浮かべた。


「その視察団の方々が訪れた際に、近くにいた子供達が喧嘩をして一部の子が泣いていたらしく、それを見た大人達が調査団の方々が泣かしたと勘違いしたようなのです。だいぶ時間が経ってから調査団の方々が無関係だったと分かりまして…。すいませんが調査団の方々にごめんなさいとお伝えください」


 どうやら調査団は完全なとばっちりで攻撃されたらしい。


「そういうことでしたか。こちらに非がないようで安心しました。謝罪していたことは伝えておきます。

 それで、私が質問にお答えした以上、私の質問にも答えてくださいますよね?」

「もちろん、どうぞ」

「それではこちらも似たようなことをお聞きしますが、皆さんは何者で、何故ここに居着いているのですか?」


 私の質問にキオサさんは再び考える素振りを見せた。


「何者か、と聞かれましても返しようがないのです。少なくとも皆特に権力などはない平民だとしか…。ここにいる者達は私を含めて出身地もここへ来た経緯もバラバラなので何とも言いようが…。

 ただ一つだけハッキリ言えるのが、全員アストラントを経由してここまで来たということですね」


 なにその複雑な関係性。それってもう一人ひとり聴取していかないと片付かないじゃん。

 アストラント王国を経由してここまで来たのは理解出来たけど、その場合必ず王都フェルゼンを通るはずよね?なんで王都で留まらなかったのかしら?後ろめたい理由でもあんのかな?


「そうですか…。ではせめて、キオサさんがここに居着く理由を教えていただいてもよろしいですか?言いたくないのであれば大丈夫ですが」

「私ですか?私は行く宛がなく、ひたすら彷徨うように歩き続けてここに来ました」

「行く宛?」


 ということは、何らかの理由で居場所を失ったと。


「アイラさんや皆さんは、アストラント王国をご存じですよね?」

「ええ、隣国ですらかね」


 まさかの生まれ故郷の国名が出てきた。


「私は元々、アストラント王国のエドノミヤという地を治めるテミナガ侯爵家の屋敷で働いておりました。これでも役人として領主に対して意見出来る立場におりました」


 またもやまさかのホウの家の使いだった。


「しかしある時、私の部下が不祥事を起こしまして、その事で仲が悪かった同僚にはめられるかたちで指導責任を取らされ、私は追い出されて職を失いました」


 クビになって居場所を追われたと。そんなになる程の不祥事って、部下の人は一体何をしたのやら。


「私は元々孤児でして、実家がなく親戚もおらず、育った孤児院はなくなってしまっていて、彷徨ううちにグレイシアへと足を踏み入れ、この村へ辿り着きました。

 私が来た頃にはこの村は既に廃村になっていましたが、村から離れていなかった住人の方が私を保護してくださいまして、以降ここに住むようになりました。田畑などはそのまま残っていましたので、自給自足で生活していました」


 領主がいなくなって廃村確定になった後も住み続けた村人がいたんだ…!その人のおかげでキオサさんはここに住むようになったってわけか。他の人も同じような経緯なのかな…?


「その、キオサさんを保護したという住人の方は?」

「最近亡くなりました。もうかなりの歳でしたし、だいぶ弱っていましたので…。お墓は村の近くにあります」

「そうですか…」


 離れなかった住人がいた事はセリアにも伝えなきゃ。ここの事はセリアやオルシズさんに相談しないとダメかな?おそらく反乱とかの危険性はなさそうだけど。


「教えていただきありがとうございました。しかし皆さんの理由が異なる以上、改めて調査団を派遣して皆さんの事を調べなければいけません。キオサさんだけでもご理解いただけると幸いです」


 キオサさんは軽く頷いた。


「実は最近話していたことなのですが、以前に調査団の方々が来ようとしていたことを受けて、そろそろここでの今の生活に限界が来るのではないかという話が持ち上がっていました。

 こうして新たな領主様が来られた以上、その時期は来たと私は思っています。皆には私から話しておきます。変に抵抗してしまっては、独裁的で有名な女王陛下が何をしてくるか分かりませんから」

「あはは…。女王陛下はああ見えて優しいんですよ?私は少なくとも今のところ村にいる皆さんが悪い方々ではないと認識しています。女王陛下と政府へも、私から皆さんの今後の生活が保障されるよう頼んでおきます。

 国に無許可で住み着く事は違法ですが、皆さんのそれぞれの事情もあるかと思いますので、監獄行きにはならないようにしておきます。そのためにもこちらの事に全面的に協力していただきますようお願いします」

「ありがとうございます。偉大なるハルク神に誓って、危険行為を働く者達ではないと誓います」


 私は目に神力を集中させてキオサさんを見る。こうする事によって『虚偽探知能力』という、その人が嘘をついてないか確認できる能力が発動できる。


(うん…、本心みたい)


 嘘だったらガンガン追及していくつもりだったけど。


「お待たせしました~」

「今更戻って来たの?あんた…」


 今になってアルテがトイレから戻ってきた。ホントにトイレ長いな。


 とりあえず政府の人間として聞きたいことは聞けたので、私は個人的に聞きたいことを聞いてみることにした。


「あの、これは私の個人的な質問なのですが…」

「はい?」

「キオサさんはエドノミヤで働いていたのであれば、テミナガ家の家族とも面識があったということですよね?」

「そうですね。よく話してはいましたよ」

「では、ホウ・テミナガ令嬢とも?」

「存じていますし、よく話していましたよ。懐かしいです。しかし何故アイラさんがホウお嬢様をご存じなので?アイラさんはグレイシアの方ですよね?」

「実は私、生まれ育ちはアストラントなんです。元々はリースタイン子爵家にいました」

「え!?ということは、元々アストラント貴族だったのですか!?」

「ええ、そうです。ホウ令嬢とは学友の仲でした。しかしある事件がきっかけで、私はグレイシアへ移りまして」

「ある事件?」


 私はアストラントの借金問題と、グレイシア移住の経緯を話した。


「ではアイラさんは実質的にアストラント政府によって追放されたということですか…。それで元々あなたを引き込もうとしていたグリセリア女王陛下に拾ってもらったと」

「大まかに言えばそういうことになります」

「それってどの程度前の出来事ですか?」

「およそ二ヶ月前です」

「に、二ヶ月!?それでもう爵位と領地を与えられたのですか!?」

「はい、まあ。でも物事の進みが早すぎて、未だに自軍を持てていないのが欠点なんですけどね。あはは」


 私はちょっと笑ってみたけど、キオサさんは呆然としてる。


「アイラお嬢様。私から発言よろしいでしょうか?」

「ん?どしたの?シャロル」

「アイラ…お嬢様?」


 今までずっと私とキオサさんの会話を聞くだけに徹していたシャロルが、急に発言許可を求めてきた。

 同時に私をお嬢様呼ばわりしたシャロルに対して、キオサさんが疑問符を浮かべている。


「あ、彼女は私のメイドなんですよ。幼少の頃から仕えてくれていまして、リースタイン家にいた頃からの名残で、私をお嬢様と呼ぶんです。今は視察の関係でメイド服じゃないですけどね」

「メイドのシャロルと申します」


 私はキオサさんに説明して、シャロルは名乗ってお辞儀した。


「使用人なのですか!?でも魔物と戦っていましたよね?」

「彼女は暗殺者としての顔も持っています。戦闘はお手の物ですよ」

「そ、そうなのですか…」


 使用人は戦闘出来ないというがこの世界での一般的な認識。キオサさんが驚くのも無理もない。


「それでシャロル。何か言いたいことがあるの?」

「はい。先の魔物との戦闘におきまして、私と同様に隠密術を使って戦っていたご老人がおりました。私はそのご老人の容姿と動き方に覚えがありまして、気になっております。私の我儘ではありますが、そのご老人と改めてお会いしてみたいのです。先程は接することが出来ませんでしたので」


 そういえば戦闘前にも動きに覚えがあるとか言ってたもんね。でも容姿にまで見覚えがあったのか…。


「解りました。別に会う分には問題ありませんよ。でしたらここにお呼びしますね」

「あ、いえ。キオサさん。私達も長居するわけにいきませんので、私達から外に出ます。その方にお会いしましたら、そのままお暇しますので」

「そうですか。解りました。それでは外へ出ましょう」






 建物の外に出た直後、さっき怪我を直した男性の奥さんが門の前にいた。


「あの、主人を助けていただいて、本当にありがとうございました!なんと感謝したら良いか…」


 奥さんは私に深々と頭を下げてきた。


「ご主人の容体は大丈夫そうですか?」

「はい。安静にしていますが、意識はハッキリしていますし、今のところは何の異常もありません」

「なら安心しました。無事で良かったです」


 私は奥さんに笑顔を向けた。


「無事だったのは何よりじゃ。わしはあの傷を治したその能力が気になるがのう」


 近くにいたお爺さんが突然話に入って来た。…て、確かこのお爺さんがシャロルが覚えがあるって言ってた人じゃん。


「丁度良かったです。ギルディスさん。こちらの方がギルディスさんにお会いしたいと」

「わしにか?」


 キオサさんの説明と同時に、シャロルがギルディスとかいうお爺さんの前に出て一礼する。

 ……ちょっと待って。ギルディスって名前で隠密術が使えるって、もしかして…。


「少々お尋ね致しますが、あなたはギルディス・ゴリアンさんでお間違いありませんか?暗殺者の」

「いかにもそうじゃが…。ふむ、わしもお前さんとどこかで会った気がするのう」


 やっぱり!ギルディス・ゴリアン!正義の暗殺者!この人がシャロルの師匠だ!


「…師匠?やはり師匠でしたか!」


 シャロルが師匠と言った瞬間、ギルディスさんもハッと何かを思い出した表情になった。


「お前さん…、もしやシャロルか?」

「はい!そうです!お久しぶりです!覚えていてくださったのですね!嬉しいです!」

「おお~!やはりそうか!大きくなったの~!」


 シャロルとギルディスさんはテンション上げて喜んでる。

 アテーナとアルテとキリカも察したみたいで、何も言わずに二人を眺めている。対してキオサさんとさっきの奥さんはポカーンとしてる。


「シャロル、この人があなたの師匠ね?」

「はい、お嬢様。この方こそ、私に隠密術と暗殺術を教えてくださった方。ギルディス・ゴリアンさんです」


 シャロルは嬉しそうな表情で、私にギルディスさんを紹介した。


「ギルディスさん、彼女とは顔見知りで?」

「昔アストラントで正体を隠して三人の少女に隠密術と暗殺術を教えたことがあってのう。表向きは護身術にしておったが。彼女はその時の三人の一人じゃ」

「そうだったのですか…」


 キオサさんはギルディスさんに確認して納得した。しかしまぁ、まさか正義の暗殺者がこんな所にいるとはね。


「しかし何故お前さんがグレイシアに?アストラントからは離れたのか?」

「あ、それはですね…」


 シャロルはギルディスさんにここまでの経緯を簡潔に説明した。


「なるほどのう…。それで今となっては新しい貴族当主の専属メイドというわけじゃな?立派になってくれて何よりじゃ」

「私としてはまだメイドとしても暗殺者としてももっと上に行けると思っております。成長し続けないと私の主について行けませんから」


 シャロルはまだ高みを目指すの~?もう十分だと思うんだけど…。あんまり成長し過ぎなメイドってのもどうなのよ…。


「うむ、良い向上心じゃ。先の魔物との戦闘、わしはお前さんの動きを見て直感的に敵わんと思った。あんな小さな子供じゃった子が師の実力を超えてくれた事は嬉しい限りじゃ。それでいてまだ上を目指すのであれば、お前さんに教える事はもうないのかもしれんのう」

「そんなことありません!師匠がいなくなってしまったあの時から、ご教授いただきたい事がたくさんあるのです。私からすれば、まだまだ師匠の背中は高いですよ」

「ほっほっほ。その言葉は嬉しい限りじゃが、わしも歳をとってしまったからのう。あの頃より実力も落ちてしまったし、暗殺者も引退したから、模擬戦は出来んぞ?」

「フフフ…、話し方もゆったり口調ですものね。当時は淡々としてらっしゃったのに」

「今となってはただの老いぼれじゃ」

「ただの老いぼれなら魔物と戦闘出来ませんよ。そんなこと言って、まだ暗殺者としての力はあるのでしょう?」

「お前さん、わしを無理にでも動かすつもりじゃな?やれやれ…、年寄にはもっと優しくするべきじゃぞ?」

「あらあら?私は模擬戦的な事は一言も言っていませんよ?座学でも十分修行でしょう?」


 ……二人の会話が終わらない。これじゃキリがない。


「あの、二人とも…」

「他の二人はどうしておるんじゃ?シャーリィの奴は何やら騒ぎを起こしておるようじゃが…」

「シャーリィとナタリアとは疎遠になりました。シャーリィが暗殺しまくってる事は私も知っていますが、もう長い事会っていません。ナタリアに関してはどこで何をしているのかも分かりませんし…」

「ちょっと?もしも~し」

「そうか…。しかしシャーリィの奴め…、わしと同じような騒ぎを起こしおって…。師の真似事をしてどうするつもりじゃ…」

「彼女は当時から読めない性格をしていましたからね。私も何が目的なのか皆目見当もつきません」


 ダメだこりゃ…。全く聞いてない。


「これは止まりそうにありませんね。もうしばらく待機しますか?」

「そうね…。キオサさん、もう少しだけここにいても?」

「大丈夫ですよ。そもそもこれからはあなた様の土地になるのですから、私に確認する必要はありませんよ。それに…、あんなに話に夢中になっていては、しばらく他の人の話を聞かないでしょうから」


 キリカからの確認で、私は二人の会話がある程度落ち着くのを待つことにした。

 キオサさんは滞在延長を許可してくれた上で、久々の再会で盛り上がるシャロルとギルディスさんを見て苦笑いしていた。


 結局、シャロルとギルディスさんの会話は一時間以上待っても止まる気配はなかった。

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