加勢
視点がアイラへ戻ります。
村へと高速で向かう私達。出来るだけ急いで村へと入る。犠牲者とか出てなければ良いんだけど…。
「ここから村の中ね…」
私は一旦止まって周囲を見渡す。同行してるみんなも私に合わせて止まる。
村にある建物はボロボロだけど修繕されたであろう痕跡もあって、建物のみならず地面の状態からしてみても、明らかに生活感があった。疑うわけじゃないけど、この廃村に人が住んでることは間違いないみたい。
(アイラさん)
(はい、なんですか?)
ここでオリジン様から念話が入った。
(魔物との戦闘ですが、かなり苦戦しているようです。今アイラさん方がいる位置から最も奥の地点で攻防が繰り広げられています。戦闘している者以外の逃げ場所も確保できないようで、村の集団全員が戦闘している傍で身を寄せ合ってる状況です。目標地点を送ります。そちらへ向かってください)
(解りました。ありがとうございます)
オリジン様いわく、けっこうヤバイ状況かもしれないとのこと。
「オリジン様からの情報で、魔物相手に追い詰められてるみたいよ。目標地点をオリジン様が座標送受能力で送ってくれたわ。急ぎましょう」
「全滅してないだけまだ良いですね。ところでトイレ…」
「アルテ、我慢して」
私はオリジン様との念話のやりとりをみんなに教えて、目標地点へ進行を再開。アルテは未だにトイレ行きたがってるけど、アテーナが止めた。なんでそんな急にトイレ行きたがってるのかしら?お腹痛いのかな?
ちなみに『座標送受能力』とは、特訓で教えてもらった能力の一つで、神力を持つ者、精霊、神獣、神龍のみが扱うことの出来る能力。
この能力を発動すると、自分のいる位置とその周辺が自動的に頭の中で地図化され、同じ能力を持つ者へ念話魔法と同じ感じで送ることが出来るっていう能力。受ける側も、受け取ると頭の中で勝手に地図が浮かんで、直感的に向かうべき目的地が分かる。前世の世界的に言うなら、衛星写真が直接脳内入り込んできた感じ。…分かりずらいか。
そんなわけで、私は今オリジン様のおかげでどこに向かえば良いか分かってるってわけ。もちろん私から精霊や神獣、アテーナやアルテとかの天神界メンバーに対して目標地点を送ることも出来る。セリアもいずれ覚えてくれれば使えるはず。
村の奥へ進むと、建物とかが一部壊れてたりしてる。見た感じ明らかに最近壊れたばかり。もしかしたらここから別場所へ戦闘が移ったのかも。
「…!いた、あそこ!」
「どうやら人々全員あそこにいるようですが…」
「危険な状態であることだけは確かなようですね」
私達は状況把握のため、再び一旦立ち止まる。周囲を見ないと、魔物がまだどこに潜んでるか分からないし。
シャロルとキリカの言う通り、小さな子供からお年寄りまでみんあ寄り添ってひと塊になっていて、その奥では数人の人が魔物に立ち向かってるけど完全に追い込まれてる。最も奥の場所では、女性が一人で複数の魔物の相手をしてる。あれは危険だわ。でもここまで持ちこたえてるとなると、強者がいるっぽいわね。
「…ん?」
「シャロル?どうかした?」
「あの者…、動きに覚えがあるような気がします…」
戦っている者の中でシャロルが指差したのは、素早い身のこなしで動く男性の老人だった。多分隠密術を持つ人なんだろうけど、とても年とは思えない動き。シャロルはその老人の動きに覚えがあるみたい。
「くそっ!このっ!」
「畜生っ!なにか打開策は…!」
「ぐおっ!くっ…!まだ大丈夫だ…!」
追い詰められtる中で一人怪我人発生。まだ動けるようだけど。
(急に乱入しちゃ余計混乱させるわ。私が先行でゆっくり近づくわよ)
((((御意))))
私は念話で四人に指示を送り、私は一足先行で近づく。
「お母さん、怖いよ~」
「大丈夫よ。きっと大丈夫だから…」
「そーよね~。怖いわよねぇ。魔物って」
私は一番手前で怯えて泣きべそかいていた少女とその母親の隣に座り、しれっと話に参加する。突然の私の登場に、その親子や周囲の人達もビックリして固まった。
そんな周囲の反応を気にすることなく、私は怯えていた少女の頭を撫でた。
「でも大丈夫。もう怖くなくなるからね」
私は少女に笑顔を見せた。
「え、えっと…。あ、あなたは?」
「私のことは後ですよ。今は現状打破が優先でしょ?」
私はその場で立ち上がり、後ろをチラッと見る。背後では、既に四人が戦闘態勢に入っていた。
「さて、行くわよ」
「「「「御意」」」」
私は四人に声をかけ、みんなで同時に高速移動を開始。未だ呆然としている集団を超え、魔物と戦っている者達への加勢に入った。
私はまず一番手前にいた魔物を飛び蹴りして消滅させた後、私の髪の下の方にある髪留めから突起を取り、ブーメランの投げ方で魔物に向かって投げる。
私が投げたブーメランは見事に魔物を貫通。ブーメランは私のもとに戻って来て、魔物は消滅した。神獣からの贈り物だったこれ初めて実戦投入したけど、魔物を消滅させられるんだからけっこう強力だわ。
移動しながら髪留めをもとに戻した後、複数の魔物の相手をしていた女性のもとへ方向を定める。女性はちょうど、一瞬の隙を突かれて危ない状態になっていた。
私は今まさに女性に襲い掛かろうとしていた魔物と、その他二体程の魔物に雷の魔法を落とし、消滅させて女性の背後に回り込んだ。
「加勢しますよ」
「どこのどなた方か存じませんが、ご加勢感謝します」
加勢に感謝されたところで、私は光速移動を開始。『高速』じゃなくて『光速』ね。そんで常人じゃ絶対捉えられない速さで魔物を屠る。この間、他の四人もしっかり戦闘してる。
アテーナとアルテは前回魔物と遭遇した時と変わらない動きで次々魔物を屠っている。
シャロルは前回失敗した糸縛りが上手くいってるようで、隠密術で魔物の動きを翻弄させては糸で縛り、動けなくなったところをナイフでバッサリ。消滅に成功していた。動きも老人より速い。
キリカは前回とは動きを変え、超近距離でハーブの音を奏でて攻撃してる。あんな近距離で音の刃放ったらそりゃあ魔物も避けようないけど、キリカ自身も危ない気が…。
そんな感じで私が最後に一体を爆発系闇魔法で消滅させて、襲撃していた魔物達は全滅した。闇を持って闇を制す、みたいな?…上手くないか。
周辺に魔物の気配は感じられず、多分ここにいた魔物が出現していた全てみたい。あとは何かあったら精霊達とフェニックスが伝えてくれるはず。
「掃討完了。もう魔物はいなさそうよ」
「そのようですね。私はトイレ…」
「あなた!しっかりして!」
私の発言に頷いたアルテは、またトイレって言おうとしたけど、直後女性の悲痛な声が聞こえた。
その方を見ると、女性の傍で男性が倒れていた。そういえば私達が加勢した直後に視界の端で誰か攻撃食らってたような気がしたんだよね。
「お父さん!お父さん!」
少女が泣き叫んでる。ていうかこの女性と女の子、さっきの親子じゃん。
「はいはい、どいてどいてー」
私は倒れている男性の周囲に集まっている人達を強制的にどかし、男性の横に座った。
男性は腹部がバックリ切れていて、内部の骨まで見えていた。かなりの重症。出血も酷い。これでよく意識保ってるわね。
「すまん…、俺は…、ここまで…みたいだ…。あとの事は…、頼む…」
「あなた!いや…、いや!そんなこと言わないで!」
「お父さん!お父さん!」
男性はもう命尽きることを悟ってるみたい。それを聞いた奥さんは必死に首を横に振ってるし、少女も泣きわめいてる。周囲の人達も諦めの表情。まぁ、魔物にやられてこの重症ならそれもそうか。
「ちょっと失礼するわよ」
私は怪我をしている場所に手をかざし、治癒魔法を発動する。私にかかればこんな重症でも治すの簡単。治癒魔法が複数種類あることも教えてもらったし、神力除いても魔力が強いから効力もデカイ。でも出血した血を戻せないのが欠点なんだよねぇ。そういった能力はないってオリジン様言ってたし、自分で何とか開発できないかしら?
私の手に形成された魔法陣と、修復されていく男性の怪我の光を見た周囲の人達はみんな静まり返っていた。男性も奥さんも娘も静かになった。
「はい、怪我の修復完了です。もう痛みはないと思いますけど、怪我の影響で大量に血を流してしまっているはずですから、しばらくは絶対安静をお薦めします」
私の説明に男性も周囲もポカーンとしてる。…いや、誰か何か言ってくれないと困るんだけど…。
チラッとシャロル達四人を見ると、みんな今のやり取りが終わるのを待ってるみたい。何もせずにただ立ってる。でもアルテだけお腹擦ってる。やっぱお腹痛いんじゃ…。
「え?…あ、あれ?痛くない…。治ってる…?」
「はい。治癒魔法で治しておきました。あ、私医学の知識とはないんで、これ以上は詳しく説明できませんからね?じゃ、お大事に」
私は男性の反応を確認した上で、一方的に集団から抜けた。多くの視線の耐久時間がもう限界。
私は集団から離れて十秒くらい経った後、ようやく男性が助かった事の歓喜の声が聞こえた。
「ちょっとだけ…、良いことしたかな?」
「十分良いことをしたと思いますよ」
シャロルは笑顔で称えてくれた。一応人助けしたんだし、ようやく自分の能力を人のために使えた気がする。
「にしてもこれじゃあ話しずらいかしらね?」
「そうですね。出直した方が良い気もします」
「トイレ~…」
「アルテ、もう少し我慢」
こんな状況下で領地のこと話すのは何とも抵抗がある。キリカもその考えに賛成してるし。アルテの事はもうアテーナに任せておこう…。
「じゃあ、ここへは後日出直しってことで」
ここに人が住んでいる事が確認出来た以上、後日また会いに行ける。今回は日を改めることにした。
「お待ちください」
…と思って去ろうとしたら、さっきの魔物戦闘で一番多くの魔物を相手にしてた女性が呼び止めてきた。
私達が振り向くと、女性はゆっくり近づいてきた。改めて見ると大人っぽい雰囲気で、整った顔立ちの美人さん。頼れるお姉さんって感じ。
さっきは思わなかったけど、容姿的にとても武器を持って戦う人とは思えない。私も彼女の美貌に負けないよう、品を出して微笑む。
「こちらに用があって来たのですが、今はとてもお話できる状況ではなさそうですね。また出直します。では」
私達が去ろうとすると、女性は小走りで私達の前に回り込んで来た。
「お待ちください。助太刀いただいた上に命まで助けていただいて、それでいて一方的に去ろうなど、それでは我々が納得出来ません。
少しお話いただけませんか?それが無理なのであれば、せめてどちら様なのか、それとご用件をお教えいただけませんか?」
女性は私達を引き止めに入ってる。警戒上、見ず知らずの私達をこのまま見逃すわけにいかないんでしょうね。
「解りました。そちらが良いのであれば、お話しましょう。それと、そちらの長、または代理の者でもおられるのであれば、そちらも交えてお話したいのですが」
「では、こちらへご案内します。それと代表は私です。キオサ・オウサキと申します」
この人がここの集団を指揮してる人だったんだ。ちょっと意外。
「キオサさんですね。私はアイラと申します。他の者の紹介は後程。それと…」
チラッとアルテを見ると、「トイレ~!」と訴えるような眼差しで私を見てた。
「彼女がお手洗いに行きたいようで…。そちらを先に案内してもらって良いですか?」
「分かりました。でしたら案内先にトイレがありますので…」
私達は一軒の家に案内され、同時にアルテがトイレに駆けて行った。




