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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第九章 領地視察へ
231/395

片方踏み込み、片方戦闘

後半は視点がアイラから外れます。

 洞窟近辺の視察を終えた私達は、一旦洞窟へ戻って、小休憩後に再出発。

 同行メンバーも変更し、シャロル、キリカ、アテーナ、アルテは引き続き同行。

 オリジン様だけ同行してた精霊陣は、オリジン様には引き続き同行してもらい、追加でアグナさんとネロアさんが同行することになった。

 エキドナさんが同行してた神獣陣営は、エキドナさんとフェニックスが交代。エキドナさんには留守番してもらい、フェニックスが同行する。


 次なる視察内容は、報告にあった謎の集団がいる廃村と、山奥で誰かが住んでいるという一軒家。この二ヶ所へ一直線に向かって調べる。

 それぞれの目的地へはそれなりに距離があるため、フェニックスに乗って空を移動する。また、オリジン様とアグナさんとネロアさんには目的地へ先行してもらい、様子を窺ってもらう。


 まず向かうは廃村に住む謎の集団。報告上実態は不明だけど、調査団が襲われかけている事も踏まえると、警戒はしなければならない。

 何らかの事情でそこに住むことを余儀なくされ、真っ当に住んでいるならそれで良し。そうでなければ排除あるのみ。流血沙汰も持さないつもり。





 目的地の村を目視できる程の距離でフェニックスに降下してもらい、村へ踏み込む体勢を整える。あ、そういえばみんなに一言言うの忘れてた。


「みんな、言い忘れたんだけど、踏み込む際はみんなは待機で。私一人で行くわ」

<<<えっ!?>>>


 私の発言にみんな当然ながら驚く。私は意見が上がらないうちに理由を述べる。


「調査団が攻撃を受けかけたように、私達も近づけば攻撃される可能性があるわ。その確率は複数人で行けば上がると思うの。

 だからここはみんなで行くんじゃなくて、あえて私一人で行って油断を誘うわ。本当に戦闘に入った場合は念話で呼ぶわね。危険は承知の上。でも領主ならその程度の事出来ないとね」


 私が理由を述べてる間、シャロルが何度も何かを言おうとする仕草をを見せたけど、私は隙を与えずに言い切った。


「私は異論ありません」

「同じく」


 アテーナとアルテは賛成してくれた。


「状況次第によっては、私が竜化して一気に攻め入ることも出来ましょう。どうかお気を付けて」


 キリカも賛成。しかも竜化する気満々。


「…私は出来るだけ接近し、物陰に潜みます。お気を付けて」


 シャロルは納得いってなさそうだけど、渋々受け入れてくれた。…あ、そうだ。


「シャロル。万が一戦闘になったら、周囲を廻って糸を張り巡らせて囲って。学院の時みたいに」

「…!はい、承知致しました。お任せください」


 シャロルにサブエル学院での乱闘事件の時と同じことを指示すると、シャロルはちょっと嬉しそうな表情を浮かべた。


「私はここで待機しております。必要になりましたらお呼びください」


 フェニックスはこのまま待機みたい。


「アイラさん」


 ここで目の前にオリジン様とアグナさんとネロアさんが現れた。


「皆さん、先行してくださってありがとうございます。どうでした?」

「やはり盗賊のような輩でなければ、反政府組織のようにも見えません」

「確認する限り、女性や子供、年寄までいるわよ。なんだかもう立派な一つの村ね」


 オリジン様とアグナさんの報告によると、やっぱり武装組織でもない上に老若男女問わず村にいるってわけか。でもそうなると、調査団が攻撃された理由が分からない。


「それでもってちょうど今、村が魔物の襲撃を受けているようですがどうしますか?」

「はいぃ!?もっと早く言ってくださいよ!」


 笑顔で他人事のように魔物襲撃を報告してきたネロアさんに、私は驚きながらツッコむ。


「魔物でも私一人で倒せそうだけど、村にいる集団の命がかかわるとなると…。ええい、もう!一人で行くとか言ってる場合じゃないわ!フェニックスはそのまま待機!精霊様方は身を隠して村の近くにいてください!他のみんなは私と一緒に村へ踏み込むわよ!村の連中に加勢します!」

「承知致しました」

「先程の挽回を今!」

「御意」

「村にトイレないかな…?」


 ということで結局私一人ではなく、シャロルとキリカとアテーナとアルテも一緒に村へ踏み込むことになった。…アルテはトイレ行きたいの?





*************************************





 グリセリア、ノワール視察団一行。


「馬車の速度はこのまま一定で。各自体力を温存しておけ。異常を感じたらすぐに周囲に申し出ろ」

<<<はっ!>>>


 視察団を乗せた馬車は速度を大幅に上げることなく、かと言って遅くもない速度で道を走る。

 ノワール視察団一行は現在、ノワールの領地を視察中…ではなく、まっすぐに王都フェルゼンのノーバイン城へ向かっていた。

 豪雨が治まった後、豪雨の最中でグリセリアが予想していた事態が的中。二人の兵士が体調を崩してしまったのだ。

 体調を崩した兵士は両名ともに発熱症状や倦怠感、咳等の症状がみられ、同行していた医療班の診察結果と視察の進行状況からグリセリアとノワールは視察の中止を決定した。

 これは、体調不良者の症状が他の兵士へ感染してしまうと視察どころではないという感染リスクからの判断であった。

 体調を崩した二人の兵士は一台の馬車に乗せて、他の兵士に感染しないよう隔離。グリセリアは必要な時以外は外に出て来ないよう命じた。


「今のところ順調に王都へ向かえてますね。このまま城へ到着出来れば良いのですが…」

「そう簡単に行かない気がするんだよなぁ…。何かが起こりそうな予感が…」

「ノワール殿、陛下、不吉な事おっしゃらないでください」


 ノワールとグリセリアは、このまま何事もなくノーバイン城へ着けるかどうか不安がり、アリスは二人の言葉を非難していた。

 現在馬車は一定速度で走ってはいるものの、病人の負担を考え、全力では走れない状況となっている。そうなると野獣や魔物が追跡してくる可能性もあるため、視察団は一層警戒を強めていた。

 ノワールとアリスも不測の事態を考え、鎧姿で常時戦闘に備えていた。


「しかしこりゃあ、馬にも人にも負担の少ない馬車を開発しなきゃダメかな~…。……ん?」


 グリセリアは、僅かに何かが追跡してきている気配を感じ取った。


「総員、馬車を止めろ」


 グリセリアは馬車を止めさせ、自ら外へ出た。


「陛下?どうされました?」

「ちょっと静かにしてて」


 突然のグリセリアの行動に、アリスは馬車を降りてグリセリアに問う。ノワールも続いて馬車から降りた。他の兵士達も、何事かと馬車から降りてくる。


(やっぱ何かいるな…。気のせいじゃない。人や動物の視線でもない)


 グリセリアは目を瞑って集中力を高め、感じる謎の気配の位置や正体を掴もうとする。


(気配は右側?いや、左にもいるな…)


 グリセリアはアイラと同様、強力な魔力と神力を保持している。制御面こそ圧倒的にアイラの方が上だが、そういった能力のおかげで、常人では気付けない薄い気配に気づくことが出来ていた。

 そう、アイラなら何度か遭遇している、あの存在である。


「…そういうことですか。ノワール、迎撃態勢に入ります」


 アイラとグリセリアほどの力はないものの、半精霊化して精霊達から修行を受けた身であるノワールもまた、周囲にいる存在の気配に気付き、異空間収納からアリアンソードを取り出して戦闘態勢に入った。


「ノワール殿まで…。一体どうしたのですか?」

「アリスさん、近くに何か嫌な気配があります。戦闘になるかもしれません。迎撃準備を」

「…解りました。兵士全員戦闘態勢へ。体調不良の二名は外へ出ないようお願いします」

<<<は、はは…?>>>


 状況が掴めず困惑していたアリスだったが、グリセリアとノワールの真剣な表情から只ならぬ事態を感じ取り、剣を抜いて戦闘態勢に入ったと同時に周囲の兵士へ指示を送った。

 その兵士達は未だ状況を掴めぬまま困惑しており、体調不良の兵士二人も、馬車の中から外を覗き見ていた。


(…ん?移動してる奴がいる。近づいてきてる?気配の位置からそのまままっすぐ辿ったとすると…、まずい!)


 位置を特定していた気配の移動を察知したグリセリアは、その移動先を予想。その予想先には、後方に立つ三人の兵士の姿があった。

 グリセリアはすぐに後方へ移動。兵士に向かって叫ぶ。


「お前ら伏せろーっ!」

「「「え?」」」


 グリセリアが叫び、その声に兵士達が反応したと同時に、草陰から魔物が出現。一人の兵士に向かって襲い掛かろうとしていた。


「う、うわああぁぁぁぁぁ!」

「てりゃああぁぁぁぁ!!」


 兵士は驚きと恐怖で絶叫し、同時に到着目前だったグリセリアは、そのまま魔物に向かって飛び蹴りした。

 グリセリアの飛び蹴りは見事魔物に命中。魔物は蹴り飛ばされたが、消滅には至らなかった。


「無事か?」

「は、はい…」

「ならば立て。迎撃するぞ」


 グリセリアは魔物に警戒しつつ兵士の無事を確認。怪我を負っていないことを確認し、兵士に応戦するよう命令した。

 しかし襲われかけた兵士も、傍にいた二人の兵士も、腰を抜かして動けなくなっていた。


 直後、周囲に複数の魔物が一斉に出現。囲まれるかたちとなった。


「う…、うわ…。ま、魔物…」

「マジかよ…、おい…」

「嘘…、こんな時に…」


 兵士達は突然の魔物登場に、完全にうろたえていた。


「気配の正体は魔物でしたか。相手にとって不足なし!」

「精霊窟での修行の成果、ここで試すとしましょう」

「私の力、どこまで使えるか試すとするか」


 兵士達とは対照的に、アリス、ノワール、グリセリアの三人は、完全に闘心に火が点いた。


 魔物達は、ジリジリと少しずつ迫ってくる。


「グレイシア王国の騎士達よ!今こそお前たちの強さを見せろ!魔物達にグレイシアの騎士ここにありという力を見せてやれ!」


 グリセリアは兵士達を鼓舞し、奮い立たせようとしたが、兵士達は動かない。

 馬車から外を覗き見ていた体調不良の兵士二人は馬車の中で震え、外にいる兵士達もある兵士は腰を抜かして怯え、ある兵士は立ったまま放心状態となっていた。


「はぁ…、しゃーない。アリス!ノワール!私らだけで兵士と馬と馬車を守り抜くよ!」

「「御意!」」


 結局動ける状態の女性三人だけが奮起。魔物との戦闘を開始した。










「ほらほら~、こっちだよ~」


 グリセリアは複数の魔物を挑発。自分がターゲットになるよう仕向ける。が、仕向け方が変顔だったり野次ったりなど、非常にガキっぽい。


「はい、いっちょ上がり」


 そして向かってきた魔物達を無条件斬断で一気に斬り刻み、斬られた魔物達は消滅した。


「はい、縦に、横に、斜めに、八つ裂きに。あ~、それそれ」


 グリセリアはその後も次々と無条件斬断で魔物を消滅させていく。とてもリズミカルに能力を発動させるグリセリアだが、何故か動きが盆踊り。しかもヘタクソ。


「偉大なる神となった方の継承技術…、くらいなさいっ!」


 ノワールはアリアンソードを振って空間波動衝撃を展開。この特殊で広範囲に及ぶ強力な攻撃を食らった魔物達は吹き飛ばされ、胴体がバラバラになって消滅した。


「連撃!はぁっ!」


 そしてノワールは、オリジンを敗北させ、かつてのハルクリーゼすら実行不可能だったアリアンソードの連続攻撃を繰り出す。

 ノワールは片手のみで指先手首でアリアンソードを器用に動かし、全く隙のない波動衝撃を起こし続けた。しかも周囲の仲間や草木には全く影響を受けない攻撃の仕方で、魔物達はなす術なく次々消滅していく。


「せいっ!はあぁっ!」


 アリスは一体の魔物と一騎打ちを繰り広げていた。

 本来人間の力では魔物に手も足も出ない。だが普段から鍛錬や模擬戦を怠らず、さらにグリセリアの神力が浸透していたアリスは、魔物と互角の勝負ができるまでになっていた。


「試しに魔法もー…、せりゃあー!うわぁ~!あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」


 グリセリアは今までほぼ使って来なかった魔法を使おうと、火属性魔法を展開し繰り出した。

 魔法を魔物に直撃させることには成功したものの、発動時の力加減が上手く行かず、強力過ぎたために自分自身まで引火しそうになったのだった。



「あ、あぶね~…。自分まで燃えるところだった…」


 グリセリアは自分の胸を擦ってドキドキを落ち着かせながら、苦笑いの表情を浮かべた。


「な、なんだ…?何が起こってるんだ?」

「アリス殿は魔物と互角…。女王陛下とノワール様は魔物を次々と…」

「普通寄ってたからないと勝てない奴らだぞ…?」

「ありえねえ強さだ…。本当に人間技か…?」


 魔物と互角に戦い、一騎打ちを繰り広げるアリス。

 謎の斬撃と強力で不気味な色の魔法で魔物を屠るグリセリア。

 大剣を超える大きさの武器から強力な波動を放ち、一度に複数の魔物を消滅させていくノワール。

 彼女達三人の常識外れな強さに、馬車の周囲にいる兵士達は皆呆然としていた。


(あれが…、ノワールさんの武器…。ノワールさんの戦い方…。ノワールさんの戦う姿…。なんて強く美しいんだ…)


 呆然とする兵士達に混じり、ノワールに恋するジオをまた、ノワールの戦う姿に呆然とすると同時に、そんなノワールに見惚れていた。


「これでラスト!」

「はあぁぁぁ!」


 グリセリアは最後に自身の眼前に残った最後の魔物を、無条件斬断でズタズタに斬り裂いて戦闘を終えた。

 同時にノワールも、高く飛び上がってアリアンソードを高位置から魔物へ振り下ろし、波動衝撃の発動とともに魔物を縦に真っ二つにして消滅させ、戦闘を終えた。


 グリセリアもノワールも余裕の勝利であり、その背には上に立つ者としてのカリスマ性がこれでもかと言わんばかりに溢れ出ていた。

 それを見た兵士達は、先程とは別の意味で呆然としていた。


「ぐうぅぅぅぅ…、やあぁぁぁぁ!!」


 アリスは魔物と力のせめぎ合いとなり、渾身の力で押し切った。


「くらえぇぇぇぇ!!」


 押し切ったアリスは魔物の一瞬の隙を見逃さずに剣を突き刺し、魔物は力なく倒れ消滅した。

 こうして魔物は全て消滅。三人の若き女性が、仲間と馬車を無傷で守り切った。


「アリス、グッド!やるじゃん」

「はぁ…、はぁ…。ありがとう…、ございます…」


 アリスの最後の一撃を見ていたグリセリアは、親指を立ててアリスに称賛を送った。

 アリスはお礼を述べるも、だいぶ息切れしていた。


「もう気配は感じられません。掃討完了と見て良いでしょう」

「そだね。よしっ!完全勝利!」


 周囲を警戒していたノワールは、既に魔物はいないと判断。グリセリアも既に気配を感じておらず、勝利を祝して拳を空へ上げた。


「…で?お前らはいつまでそうしてるんだ?」


 急に女王モードに切り替えたグリセリアは、未だに放心状態だったり腰を抜かしたままの状態である兵士達に目を移し、冷たい目で兵士達を見る。

 女王の冷たい視線を浴びた兵士達は、魔物が現れた時以上に顔を青くした。


「陛下、兵士達の気持ちをお察しください。皆突然の事態で身体に力が入らなかったのですよ」

「そんなの言い訳にすらならん!何のためにいるんだ貴様らは!何のために騎士になったんだ!これでここに民間人や要人がいたらどうするんだ!ましてや武器すら構えず、腰を抜かすとは何事だ!」


 怒るグリセリアを息切れから回復したアリスが落ち着かそうとするが、グリセリアは聞かずに兵士達へ説教を始めた。


「陛下、今説教をしても仕方のないことです。そういうことは城に戻ってからいくらでも出来ましょう。今は帰還を最優先しませんか?」

「ノワール殿のおっしゃる通りです。陛下、今は落ち着いてください」

「…分かったよ。さっさと立て。移動再開するぞ」


 ノワールもグリセリアを落ち着かそうと声をかけ、アリスもノワールの言葉に乗り、グリセリアはようやく説教を止めた。

 一人サッサと馬車に乗り込んだグリセリアを皆が見送ると、兵士達はゆっくり動き始めた。しかし表情は非常に暗く、士気はかなり下がっていた。


「ジオさん、大丈夫ですか?」


 ノワールはジオのもとに寄り、ジオへ声をかけた。


「ノワールさん…。すいません…、自分がいながら何もできず…」

「大丈夫ですよ。魔物と遭遇してしまってはそうなってしまうのも無理ありません。どうか気をおとさないで」


 ジオはノワールへ謝罪するも、ノワールは落ち込むジオへ笑顔を向けて気を落とさないよう励ました。


「ほらー!早くしろー!移動再開ー!」

「陛下、そう急かさないでください。…申し訳ありませんが手をお貸しいただけますか?」

「あぁ、ごめん。大丈夫?」


 馬車の窓から周囲の兵士達を急かすグリセリアだったが、アリスが急かさないよう進言。そのアリスも魔物との一騎打ちで体力をかなり使い込んでおり、足元フラフラ状態で馬車へ乗り込もうとした。しかし足元がおぼつかないためにグリセリアへ協力を要請。グリセリアはすぐに落ち着いてアリスに手を貸した。


 そんなアリスが馬車へ乗り込んだ後、ノワールは自分が馬車へ乗る前に、未だ馬車に乗り込めずにいた兵士達へ声をかけた。


「皆さん、万が一身体に異常が出たらすぐに教えてください。今回の魔物出現によって精神面まで崩れている可能性があります。今はまだ身体が興奮状態になっていると思いますので何ともないとは思いますが、時間とともに異変をきたす可能性は十分にあります。ですので無理だけはしませんよう。

 陛下は急げと申しておりますが、焦らずゆっくりで構いません。城まではそう遠くないはずです。もう少しの辛抱です。

 それから、皆さんはこれで魔物とまともに遭遇したことになります。今日のことをどうか忘れず、将来再び魔物と対峙した時の教訓にしてください。

 これを教訓とし、自分が守るべきものが何かを知ることが出来れば、必ず強くなれます。私はそう信じています。

 ずっと言いそびれていましたが、今のように気を落とした時、何か困った時などがあれば、遠慮なくおっしゃってくださって構いません。私でよければいくらでも相談に乗りますからね?」


 ノワールはグリセリアとは対照的に兵士達に気遣いを見せ、優しく微笑んで上に立つ者として自身の考えを伝え、最後に笑顔を見せた。

 ノワールの言葉を聞き、笑顔を見て、兵士達の動きは止まっていた。しかしそれは負の感情からではなく、ノワールから感じる優しさと温かさからであった。


(もし自分が兵士達の立場だったら、お姉さまやアイラ様はこうしてくるでしょうね)


 ノワールのこの行動と言動は、自分が兵士達の立場だった場合を想像した上での自分を導いてくれたレイリーとアイラを参考にした行動だった。


 そうして馬車へ乗り込んだノワールを、兵士達はみんなで見ていた。


「ノワール様は…、優しいな…」

「そうだな…。俺達なんかにあんな笑顔見せてくれて…。優しい言葉かけてくれて…」


 魔物に恐怖し、グリセリアに怒られ完全に気落ちしていた兵士達の心には、ノワールの言葉と笑顔が深く沁みていた。


「あんなに戦闘強いのに、強さや迫力よりも優しさが際立つってスゴイな…」

「まるで聖女様だな…」

「だな。それなら『剛陽の聖女』様ってか?」

「なんだそれ?どういう意味だ?」

「鋼のように強く、陽の光のように優しく温かい聖女。みたいな感じで思い付いた」

「それ良いな。ノワール様にピッタリだ」

「俺、ここの領地開拓が始まったら、こっちに異動願い出そうかな…」

「俺も!俺もこっちに行く!」

「私も私も!」


 すっかり士気を取り戻した兵士達は、ノワールを聖女呼ばわりして勝手に通り名まで付けて盛り上がっていた。


(ノワールさん、これから人気者になりそうだな…)


 ジオはなんとなく複雑な気分で、盛り上がる兵士達を見ていた。


「そこー!喋ってないでさっさと動けー!」


 そして馬車の窓から怒ってきたグリセリアの声で、兵士達に士気は再び落ちたのだった。

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