学院長の招集
アストラント王国、サブエル学院。
現在、学院の一階に位置する学院会室には、リベルト、リィン、ティナ、ホウ、レイジ、ステラ、ニコル、イルマとエルマ、シャルロッテ、ナナカ、そして学院長と、アイラと関わりのあった面々が揃っていた。
ここへ招集をかけたのは学院長。内容は無論、グレイシアへと去って行ったアイラ達の事である。
「アイラやノワールがいなくなってから間もなく二ヶ月…。なんだか早いものだね…」
「そうですわね…。しかし未だにグレイシアからは何の音沙汰もありませんわ」
「私はまだ昨日のように感じてるわよ。本当、向こうで何してるのかしらね」
リベルトの話にホウとステラが乗る。ティナやリィン、レイジやニコル、そしてナナカも、言葉には出さないものの頷いていた。
(先輩がいなくなった後に何もしなかった人達が何言ってんだか…)
シャルロッテは心の中で呆れていた。
「話を始めて良いかの?」
今回の招集人物である学院長は、話を切り出す。
「今回皆に集まってもらったのは他でもない、アイラ嬢とノワール嬢がグレイシア王国に渡った事に関する事で、皆に言いたい事があるのじゃ。
皆がアイラ嬢やノワール嬢を取り戻さんと動いている事は解っておる。そんな皆に言うべき事ではないかもしれんが…、グレイシアへ行った彼女らの事は、もう諦めた方が良いと思う。彼女らがアストラントへ帰って来る事はもうないと思っておるんじゃ」
学院長の発言に、シャルロッテ以外の面々の表情が強張る。
「が、学院長…。どうしてそんな…」
ナナカは学院長の希望のない発言に、一方的にショックを受けていた。
「わしはな、ノワール嬢は分からんが、アイラ嬢は確実にグレイシア側に寝返ったと推測しておる。
アイラ嬢のこれまでの実績を考えると、頭脳においては相当優秀じゃった。彼女程の頭脳を持てば、政府からの追放計画を事前に察知し、計画を練っていた可能性もないとは言い切れんのじゃ。学院を辞める際の本人の落ち着きようがそれを物語っておる。
そもそも時を戻せば、グリセリア女王が訪問し、アイラ嬢と対談した後に本人が語った内容にも妙に違和感を感じるのじゃ。
当時のアイラ嬢は『グレイシアへ来ないかとと誘われたが断った』と語っておった。しかしもしその時のアイラ嬢の発言が偽りで、本当は承諾しておったとすれば?
わしはあの時から、アイラ嬢がグレイシアへ渡る計画を練っておったのではないかと考えておる。どういう条件をあの女王から提示されたのかは分からんがな」
学院長のアイラ寝返り説に、室内にいる面々は黙り込む。
これはシャルロッテが以前に語った推測とほとんど一緒のものだった。シャルロッテと同じく、学院長もこの推測に着いていたのだ。
「皆がアイラ嬢やノワール嬢を取り戻したい気持ちは良く解る。彼女らの家族の事を思えば尚更じゃ。じゃがな…、そのために真実を深く追求し過ぎてしまって、それがグレイシアに知られれば、アイラ嬢がこちらに牙を向けてくるのではないかと思ってしまってのう。わしとしては、諦めた方が良いと思っておる」
リベルト達の活動に否定的な学院長の言葉に、学院室内は沈黙が流れる。
(こういう時王子が何かしら強く言い返すべきでしょうに。頼りないな~)
シャルロッテは内心リベルトに対してさらに呆れていた。
「わしはこの学院の学院長として、それなりに人生経験を積んだ年寄りとして、皆には充実した人生を歩んでほしいと思っておる。しかし今の皆は、アイラ嬢という存在に囚われておるような気がしてのう。それをそのまま将来に引きずって行かないか心配なのじゃ。ナナカ先生、お主を含めてな」
「学院長…」
そのまま再び沈黙が流れる。
「学院長…、僕は…」
「私は学院長の意見に大いに賛成ですよ」
沈黙を切り、学院長に何かを述べようとしたリベルトだが、それを被せるようにシャルロッテが言葉を発し、学院長の考えに賛同を示した。
被せられたリベルトは、思わず黙ってしまった。
「アイラ先輩やノワール先輩は、おそらくグレイシアで活動していることでしょう。何も音沙汰がないのは、グリセリア女王陛下がまだ公表する時ではないと踏んでいるから。私はそう推測しています。
この先皆さんがアイラ先輩やノワール先輩を取り戻そうと動けば、それはもしかしたらアイラ先輩やノワール先輩の耳にも届くかもしれません。
でも万が一、皆さんの行動がその時のアイラ先輩にとって都合の悪い事だったら?もしアイラ先輩の不満や怒りを買ってしまうきっかけになったら?
皆さん思い出してください。学院祭の時、アイラ先輩によって精神まで壊された連中の事を。アイラ先輩は敵と定めた者に対してあんなにも容赦なく叩き壊すんです。
もし先輩方や…、いや、政府も含めてその行動が、アイラ先輩にとって害するものになり、邪魔と判断されたら?私はその時、アストラントの歴史に幕が降りると思いますよ」
「ま、幕が降りるって…」
「いくらなんでもそれは大きく言い過ぎじゃあ…」
シャルロッテの話に対し、ニコルとレイジは戸惑う。
「ありえない事ではないと思います。アイラ先輩やノワール先輩が学院にいた頃のままでいるはずがない。必ず大きな力を持つはずです。可能性は大いにあると思います。まぁ、全て推測ですけど」
シャルロッテは大袈裟ではない事を主張し、最後にあくまで推測である事を付け加えた。
「シャルロッテ。お主はアイラ嬢の弟子としても名高い。彼女もまた、お主の能力を認めていたはずじゃ。そんなお主にだからこそ聞くが、今後もし何らかのかたちでアイラ嬢がお主の前に現れ、牙を向けてきたら、逆に仲間として誘って来たら、お主はどうする?」
「もしもアイラ先輩が私を敵と定めたなら、私はその時行っている全ての活動から手を引きます。それでも納得されなければ、自害することだって躊躇いません。逆に手を差し伸べてくださるのなら、私は喜んでアイラ先輩の部下になりますよ」
アイラに対するシャルロッテの忠誠心に、周囲の者達は皆あ然となる。
「シャルロッテちゃん…、どうしてそこまでアイラちゃんのことを…」
いち早く疑問が浮かんだナナカは、その疑問をシャルロッテに問う。
「アイラ先輩は私を変えてくれました。特に取り柄のない私を、学院会会長の立場まで押し上げてくれました
アイラ先輩と出会ってからアイラ先輩に憧れて、近づきたいと思って自分でいろんな知識を片っ端から勉強して、いつか認めてもらうために必死でした。言われた事も些細な言葉も全て一字一句頭に叩き込みました。アイラ先輩はそんな私の事をよく見てくれていて、いつも笑顔で褒めてくれました。
私が新たに開催しようとしている催しも、学院会内の改革も、私の役員に対する扱い方も、全てアイラ先輩が教えてくださった事を基礎に私の中で組み立てたものなんです。アイラ先輩に褒められたい、笑顔を見たいという一心で作り上げてきたものなんです。
アイラ先輩と出会ってなかったら、私は今こんなに意義のある日々は送れてなかったはずです。友人達と接しながら、嫌でもなくしかし特に何もない刺激のない生活をしていた事でしょう。
私にとってアイラ先輩は尊敬する存在であり、憧れであり、目標なんです。そんな人の傍でもう一度仕事ができるのなら、これほど夢のような事ってないじゃないですか。
だから私はアイラ先輩が何をしていようと賛成ですし、アイラ先輩にとっての障害は私にとっても障害です。
私は常にアイラ先輩の味方です。どんな時だって力になります。皆さんは私の忠誠心をご理解出来ないでしょうけど、これが今の私なんです」
シャルロッテはひと通り自分の気持ちを言い切ると、手荷物をもって学院室の扉へ向かった。
「学院長、もう良いですよね?私は王子殿下が筆頭で行っている活動に関しては協力していませんし、私まだやることあるので」
「う、うむ」
シャルロッテは学院長に退室許可を受けた後、一礼して学院会室から去って行った。
シャルロッテのアイラに対する異常なまでの忠誠心と執着に、他の面々は完全に言葉を失っていた。
(アイラ嬢、自分の弟子に一体何を吹き込んだのじゃ…。いずれシャルロッテがここを巣立ったら、そのままグレイシアへ行きかねんのう…)
学院長は内心で、シャルロッテがいずれアイラと同じような道筋を辿る可能性を危惧していた。
結局リベルトも自分の意見の内容をすっかり忘れてしまい、変な空気のまま解散となった。
※2020年5月10日追記
活動報告にて緊急のお知らせがございます。




