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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第九章 領地視察へ
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セイレーンの過去

 アテーナとアルテの平均睡眠時間を聞いた後、シャロルとキリカは二人にもっと寝るべきだと諭していた。

 私は話に混ざらず、星空を眺めてゆっくりしていた。


(極楽とはこういう事ね~。ホント最高~…)


 セイレーンは四人のやり取りをニコニコしながら眺めている。

 せっかく一緒にいるので、私はセイレーンと会話する事にした。


「ねぇ、セイレーン。あなたって今どの程度生きてるの?」

「正確な年数は覚えてませんけど、およそ1500年くらいですね」


 うわぁ…、やっぱ長く生きてるな…。でもハルク様やオリジン様がいた頃よりも後に生まれたのね。


「神獣ってどういう条件で神獣化するの?全く見当つかないんだけど」

「うーん、分からないんですよねぇ…」

「分からない?」

「はい。えっと、私は元々普通の平民で、特に目立ったものもない普通の家に生まれました」


 なんか勝手に語り出した。まぁ、とりあえず聞いてみるか。


「私は双子姉妹の姉として生まれ、妹と仲良く毎日を過ごしていました。それはもう平凡な幸せという言葉が相応しい環境でした。

 しかしそんな生活は、ある日突然崩れ去りました。家が火災に会い、全焼してしまったんです。

 当時私と妹は遊びに出かけていたため、火災には巻き込まれませんでした。でも両親は…」


 セイレーンはそこで言葉を止めた。おそらく両親は火災で亡くなったんだろう。


「その後私と妹は施設で育ち、一緒に支え合ってきました。

 でも17歳か18歳の頃でしたか。働き始めた頃に、私と妹にある同僚が関わるようになりました。しかし同僚が関わる事は何ら不自然な事ではありません。ごく当たり前な事です。

 でも私はそれから間もなく気付いてしまったんです。その同僚が窃盗や詐欺を働いている悪者で、名前や身分を偽って仕事場にいるという事に」


 ありゃ…、その人は犯罪者だったんだ。セイレーンだけがそれに気付いたのね。


「妹はその人物と非常に仲良くしていました。ですが不安で仕方なかった私は、妹にその事を伝えて縁を切るよう進言しました。でも妹は聞いてくれず…」


 気付いたのはセイレーンだけで、決定的な証拠もないんだから、そうなって当然よね。


「その後妹はどうやらその人物にその事を愚痴として話してしまったようで、私はその人物から狙われるようになったんです。実際何度か脅されました」


 妹さん…。さすがにそれはないわ…。お姉さんに命の危険が及んでるというのに…。


「このままだと本気で危険だという事を認識した私は、長年共に歩んできた妹と決別する決心をしました。仕事も辞めて、どこか遠くへ行こうと。

 しかしそう決めた矢先、私が当時いた国と隣国との戦争が勃発しました」


 事態が混沌を極めてる…。ハルク様やオリジン様がいた頃から500年先だからね…。時が経てば戦争もまた起きるか。歴史は繰り返すって言うし…。


「私も妹も例の悪者も、安全が確保できる場所へ避難するため逃げるように移動を開始しました。

 ですが私は戦争以外の意味でもいつどうなるか分からない危険性から、逃げ始めた時点で妹に一方的に別れを告げ、一人で故郷を去りました」


 状況的にセイレーンはまともな説明もしなかったんだろうね。妹さん困惑しただろうな。


「目的地も行く宛もなく彷徨った私が辿り着いた場所は、幼かった頃妹と一緒に両親に連れて行ってもらったとある岬でした。

 幼い頃見た美しい光景はよく覚えていて、私のとっては思い出深い場所でした。…でも、私がその時見た光景は、とても残酷なものでした。

 海の方で、戦いが起きていたんです。轟音を鳴らし互いの船を沈めんとする海軍達の姿が…、見えていたんです」


 海戦が繰り広げられてたのね。この世界は大砲じゃなくて魔法の撃ち合いが主力だから、轟音は魔法が船に直撃した音かな?岬から見えてたって事は、かなり浅瀬で戦ってたのね。


「私の大切な思い出の場所の目の前で殺し合いが行われていて、私はその時の光景と幼い頃の光景が頭の中でグチャグチャになって、もう訳が分からなくなりました。

 唯一明確に思っていた事は一つだけ。このきれいな海をこれ以上汚さないでほしい。戦争なんてダメなんだって。ただそれだけでした」


 嫌な状態だよね…。本当、戦争はダメだ。


「私は訳もなくただ叫びました。ただ争いをやめてほしい。それだけを願って。言葉にならないような、どこにも届きもしない声を、ずっと…」


 当時のセイレーンは完全にパニック状態だったのかしらね…。


「しかし途中で急に声が出なくなったんです。直後急激に息が苦しくなって、私は意識を失いました」


 叫び続けた事による何かの発作かな?それとも何かの病?


「意識が戻って目を覚ますと、辺りは暗闇になっていて空には星が輝いていました。

 海には船の残骸と、崖下に打ち上げられた兵士らしき人の遺体が確認できましたが、波と風の音以外は何の聞こえませんでした」


 目を覚ましたら夜だったのね。戦いも終わってたんだ。でも死体見て驚かなかったの?


「意識が覚醒していくうちに背中に違和感があることに気付きまして、手探りで確認してみたらこのように翼が生えていました」

「てことは、意識がない間に神獣化してたってこと?」

「みたいなんです。当時の私は自分に何が起こったのか分からなかったんですけど、その時何故か直感的に人と会わない方が良いと思ったんです」


 そりゃ会わない方が良いでしょうね。戦争で大混乱してるところに翼生えてる人が現れたら大変だもんね。


「そこから移動を開始した私は、それ以降ずっと山奥や深い森の中といった人が近づかない場所に身を潜め続けました。

 そんな時に偶然出会ったフェニックスさんのおかげで、自分が神獣という伝説の存在になっている事を自覚しました。私が持つ能力を覚えたのもその時ですね」


 フェニックスが教えたんだ。もし会っていなかったら、セイレーンは今ここにいなかったのかも。


「それからはフェニックスさんの紹介で神獣方と知り合いまして、私は神獣としての在り方やすべき事を基礎から学び、人間だった頃の名を捨てセイレーンと名乗るようになりました」


 あ、セイレーンって本名じゃないんだ。


「それから十年の時が流れた頃、戦争が終結した事を知りました。そしてそれと同じ頃、とある山道を移動していた時に、偶然にも妹を見つけました」


 おお~、これは感動の再会かな?


「私は遠くから妹の様子を窺っていましたが、妹はとても痩せ細って弱々しく、歩くのもフラフラしていました。

 見ていて分かったのですが、妹はどうやら病気になっていたらしく、しかし戦争の影響でロクな治療も受けられない状態だったようなのです。

 私も心配ではあったのですが、神獣となってしまっていた以上、会おうにも会いにくく…」


 そっか…。神獣は伝説の存在って言われてる上に神獣側も人に姿を見せる事はないから、会って良いか分からなかったんだ…。

 私みたいに契約者がいれば、その周囲の人には姿を見せるみたいだけど。その辺の基準ってどうなってるんだろ?


「会いに行けないまま時が経ち、妹はいよいよ倒れて寝たきりになってしまいました。

 もう妹にはあまり時間がないと感じた私は、会う決心を固めて、妹の周囲に何も気配がない時を見計らって会いに行きました」


 やっと再会か…。セイレーンも色々考えて決心したんだろうなぁ…。


「妹の前に出た時、妹に抱き着かれて大泣きされました。落ち着かすの大変でしたよ」


 妹さんは嬉しかったんだろうね。きっとずっとお姉さんの事心配してたんだ。


「私は自分が神獣化した事を妹に打ち明けました。対して妹は、以前に私の警告を無視した事を謝ってきました」


 謝ってきたってことは、妹さんも同僚が悪者だったって気付いたんだね。


「妹は私が別れてからしばらく経って同僚の本性に気付いたそうです。直後妹と悪者がいた場所は戦火に巻き込まれ、妹は何とか逃げたそうですが、悪者は亡くなったとの事でした」


 妹さんだけ助かったんだね。悪者は因果応報かな?


「私はあまり長くその場に留まるわけにいかなかったので、少しして妹と別れました。

 その後もこっそり妹の事を見ていましたが、一ヶ月程して妹は亡くなりました」


 セイレーンの思った通り、妹さんは長くなかったんだ…。でも一度別れた自分のお姉さんと再会出来たんだから、妹さんに悔いはなかったんだろうな…。


「以降再び人里から離れ移動をしていた私は、ある日当時の神獣達から招集をかけられ、指定地へ向かいました。

 そこで精霊方と神獣が全て集まり、再び同じ国が戦争を再勃発させようとしている事を知りました」


 またかい。1500年前の歴史資料ってほぼ残されてないから分かんないけど、当時両国は何が気に入らなかったのかしら?


「集会では戦争の被害が届かない地域に逃げるとの結論でしたが、戦争経験者だった私は頭に来まして、自分の能力で影から衝突しかけていた両国軍へ猛攻撃しました。

 そしたら両国とも戦争しなくなりましたけど、後で神獣達からメッチャ怒られました」


 勝手にやったんだからそりゃ怒られるわね。でもそのおかげで戦争回避出来たんだから、結果オーライな気が…。


「とまぁ、話が逸れましたけど、結局神獣化の理由は分からないんです」

「もの凄い回り方して元々の回答に戻って来たわね…。ていうか神獣化した理由が分からない説明じゃなくて丸々あなたの過去話じゃないの…」

「はい。話変わってましたね。あはははは」


 変わったっていうか、初めから過去の話だったけど。


「あの、話聞いていて思ったのですが…」


 キリカが急にセイレーンへ声をかけてきた。みんないつの間にか話を聞いていたらしい。


「セイレーンさんの神獣としての能力とは、どういったものですか?」


 言われてみれば、まだセイレーンが持つ能力を聞いていない。いや、他の精霊やら神獣やら、私の中にいる神龍の能力すら知らんけど。


「私の能力ですか?『操破壊声そうはかいせい』ていう能力です」


 なんか難しい名前が出てきたぞ?


「簡単に説明しますと、定めた目標および範囲に対し、声を使って様々な事が出来ます。例えば声を使って物を破壊したり、生物を洗脳させたり、生物を殺す特殊な周波を発生させたり。とにかく色々です」


 声だけで何でも出来るわけか。…怖。


「今お見せできるとすれば…。皆さん、あそこに岩がありますよね?あれに注目してください」


 セイレーンは岩を見るよう指示してきた。例を見せてくれるらしい。


「いきますよ~」


 直後、一瞬だけ耳鳴りのような音を感じ取った。その瞬間、セイレーンが注目するよう言っていた岩のてっぺんが突然砕けた。


「これが私の能力です。魔法ではありませんし、普通の人間には出来ません」

「一瞬耳がキーン!てしたのですが…」

「すごいですね…。声だけであのような…」


 キリカは耳を抑えて戸惑いの表情を浮かべ、シャロルは率直なコメントをしている。

 でも私は一つだけ気になった。


「あなたの能力は解ったけど、背中の翼とはどういう関係があるの?」

「その関係性も謎なんです。翼のおかげで飛行出来るようにはなりましたけど」


 翼の存在理由も不明か…。神獣化した事自体不明なのも変よね…。他の神獣達なら何か分かるかしら?


「ところで私から皆さんに一言良いですか?」

「良いわよ。なに?」


 セイレーンの確認に私はオッケーを出す。


「……そろそろ上がりません?」

「あー…」


 苦笑いで温泉から上がる事を提案してきたセイレーン。思えばもうだいぶ長く浸かってる…。


「私、少々のぼせたかもしれません…。お先に上がります…」

「私も少々入り過ぎた気が…」

「アルテ~!起きて~!」

「ん~…?」


 シャロルとキリカはのぼせたみたいで、少しフラフラしながら出て行った。

 アテーナはアルテを起こしたものの、アルテは熟睡してたのか寝ぼけている。

 私とセイレーンも温泉から上がった。


 身体を異空間収納から取り出したタオルで拭き、服を着る。


「そういえば、セイレーンは自分が人間だった頃の名前って憶えてる?」

「憶えてますよ。ヒルダです。ヒルダ・ルークス」


 もう1500年経ってるのに自分の本名覚えてるんだ…。アテーナは忘れてしまったのに。


「あ、そうそう。さっきの操破壊声なんですけど、アイラ様も覚えられますよ」

「え!?私も使える能力なの?」

「はい。明日の特訓項目に入ってるので、私がお教えしますね」


 明日の特訓内容に操破壊声があるらしい。私、あんな技出来るかなぁ?


「ちなみにあの能力を全力で出すとどうなるの?」

「国の王都みたいな大きな街の、端から端までの建物の窓全破壊と、外や室内構わず街中にいる生物一斉殺害が出来ますよ。もちろん、ほとんど音もなく、ね…」


 なんかセイレーンがドヤ顔でキメてる。

 しかし使い方次第じゃとんでもない兵器になるわね…。セイレーンの回答からすると、全力で出した事があるっぽいな。





 その後私はのぼせてしまったシャロルを、セイレーンはキリカを支えて、アテーナは未だ寝ぼけてるアルテを引きずってフェニックスのもとへ行き、アグナさんとネロアさんとも合流して洞窟へと戻った。

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