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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第八章 次の道へ進む時
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公開処刑

視点がアイラから外れます。

 竜族が住まう島国、シュバルラング龍帝国。

 アイラの手によって再編された龍帝国新政府は、首相となったランを中心に国の安定化を目指し、幾度も会議が重ねられた。そしてその会議で決まったある事が、今まさに実行されようとしていた。


 それは『大罪人コアトルおよびその協力者の公開処刑』というもの。


 ドラゴ宮殿広場の前には簡易処刑台が高く造られ、その前には大勢の龍帝国国民。処刑台の上には死刑囚達が手足を縛られた状態で座っていた。


 龍帝であるアイラがグレイシアへ帰って行った後、最初の会議で上がった最初の議題が、コアトル達の判決をどうするかというものだった。そこでランが発案したのが、出来るだけ多くの者から意見を募る案。

 役人や兵士、国民からも意見を集め、そうして集まった意見と今までコアトル達が行ってきた横暴を振り返って検討した結果、公開処刑が妥当という答えが出た。

 この事は会議で満場一致。会議不参加の役人や兵士、政務に関わらない国民からも反対の声は上がらず、アッサリ死刑執行の日を迎えた。


「お前が…、お前がもっとうまくやっていればこんな目に遭わずに済んだのに!お前が誘ったから話に乗ったんだぞ!なのに…、なのにこんな状態にしやがって!どうしてくれるんだよ!」


 処刑台で声を張り上げているのは、コアトルの側近だった死刑囚の一人。彼の声に対して、コアトルは何も答えない。否、答えられない。


 アイラにコテンパンにされたコアトルは牢屋に投獄されたが、その後は怪我の治療も満足にされず、そのまま放置されていた。

 さらにコアトルに恨みを持っていた複数の役人がコアトルへ暴行を働き、さらには拷問まで行った。しかも食事や水分すらまともに与えられない状態であった。

 これはランが生贄として幽閉されていた時よりも遥かに状態が酷く、この状況が長期間続いた結果コアトルは五感全てを失い、意思表示をする事も、周囲の状況を確認する事も一切できなくなった。

 つまりコアトルは何も分からぬまま、ましてや自分が処刑台にいて、これから処刑されようとしている事すら分からないでいる。


 また、アイラはコアトルが五感を失うまでになっている事は知らない。これはキリカがそういった情報がアイラへ行き渡らないように操作していたためである。

 キリカはアイラにコアトルの状態を知られる事を恐れていた。知られて何か言われるのが怖かったという理由から、徹底的な隠蔽を図っていたのだ。






 死刑執行の時間となり、ランの指示でコアトルの協力者は次々と兵士によって首を刎ねられた。

 そして最後にコアトルだけが残った状態になると、コアトルの横の死刑執行役が立つ位置にランが立った。

 ランは片手に剣を持ち、今ややつれて変わり果てたコアトルを見下す。


「…愚かね」


 ランは小声でコアトルに声をかける。もちろんコアトルにその声が届く事はない。


「お前のせいで国が荒れ、苦しむ人達が大勢いた。今回処刑された者達も、お前がいなければ死なずに済んだかもね。

 己の栄華を極めようとしたお前の企みは、お前が利用しようとしたアイラ龍帝陛下によって崩された。そしてお前は絶望の底に沈んだ。

 絶望。それはお前が私に感じさせたもの。私はアイラ様のおかげで絶望から救われた。でもお前には誰一人救いの手を伸ばそうとしない。

 私は救われ、必要としてくれる人達がいてくれた。対してお前は全てから見放された。これこそ因果応報ね。

 今この国…、いや、この世界はお前を必要としていない。だからそんな愚かなお前に、せめて私が引導を渡してあげる。

 これからの龍帝国は私が導く。だから安心して地獄に落ちて…」


 ランはそこで言葉を切ると、持っていた剣を高く上げた。その間、周囲は皆黙って見ている。


「…さようなら」


 ランは冷たい表情で呟き、剣をコアトルの首へ振り下ろした。そして…。


<<<わああぁぁぁぁぁぁ!!!>>>


 国民から歓声が起きた。

 ランは後の事を兵士に任せ処刑台を降り、降りた直後に空を見上げて目を瞑った。


(私もとうとう命を奪っちゃったな…。でもこれでこれから務めていくための覚悟は出来た。

 コアトルの犠牲になった方、コアトルは死にました。だから安心して眠ってください…)


 皆が歓喜に沸き立つ中、ランは心の中でコアトルの影響で亡くなった者達や、今回処刑された者達の鎮魂を祈るのだった。





*************************************





 ランがコアトルを処刑した時、処刑台から少し離れた位置でその光景を眺めていた人物が三人。ダーナ、オリガ、サララの仲良し三人組である。


「これが、今後歴史にどう語られるのかな…」

「さあな…。ただ、これで皆が納得したのも確かだ」

「残酷ではあるかもしれませんが、仕方のない事でもありますね」


 ダーナは今後の歴史を気にしており、オリガとサララは公開処刑に納得していた。三人とも死刑執行の様を、険しい表情で見ていた。


「しかしまさか、首相閣下が自らコアトルの死刑執行役を名乗り出るとはな…」

「最初は驚きでしたね」

「でもきっと、それがランちゃんにとって何かのケジメを付けるためだったんじゃないかな。もの凄い覚悟だよ」


 コアトルの死刑執行役をランが行ったのは、実はラン自身の希望。オリガとサララは未だその事に驚きを隠せずにいた。しかしダーナだけは理解を示した。


「しかし、ケジメを付けるだけで死刑執行役など希望するか?」

「分かんない。でもランちゃんが自らコアトルの首を刎ねたって事は、何か簡単じゃない覚悟を持ってるのは確かだと思うよ。私達もしっかりしないと…」

「そうですね。もしまた首相閣下や国に何かあれば、今度は私達がコアトルのようになりかねませんからね」

「ちょっとサララちゃん!?恐い事言わないで!」

「笑い事じゃ済まされないんだぞ!?今本気でゾッとしたんだからな!」

「ウフフ、すいません。でも私達はこれから、首相閣下や龍帝陛下からもっと信頼を持ってもらわないといけませんね」

「それはそうだけど~」

「まったく、変な発言は止してくれ」


 いつもと変わらない笑みを見せるサララと、ドキドキ顔のダーナと、ヤレヤレといった表情を見せるオリガ。

 三者三葉な三人だが、これからの龍帝国を支えんとする気持ちは同じだった。


「あれ?そういえばニースさんは?今日一度も会ってないけど?」

「私は朝会ったな。本人の話だと今日の朝家を出る時に転倒して足を捻ったらしい。首相閣下が今日は動くなと命令したらしくてな。今はおそらくルルと一緒に首相政務室にいるんじゃないか?」

「あららー…」

「足元もちゃんと見ないといけませんね。いろんな意味で」


 コアトル達の公開処刑の裏側で、地味な災難に会ったニース。オリガから話を聞いたダーナは苦笑いし、オリガは呆れた表情で、サララはいつも通りのニコニコ顔で意味深な発言をしていた。





*************************************





 ドラゴ宮殿。首相政務室。

 ここでは足を捻ったニースと、アイラの専属使用人ルルがいた。


「むむぅ~…、私も行かねば…。首相閣下の大役をお支えせねば…」

「そんな状態でどうやって支えるんですか。首相閣下から安静にするよう言われましたでしょう?あまり動くと後で叱られますよ?ほらー、戻ってください」

「うぎゃあー!待って!捻った方の足踏んでるー!」


 強引に政務室を出ようとしたニース。ルルはそんなニースを止めようとして、無意識のうちにニースの足を思いっきり踏み、ニースは悲鳴を上げていた。

 政務室で待機していた二人は、なんとも平和で平凡なやりとりを繰り広げていた。

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