久々の会議
王都を巡った日の夜、私はセリアに今日の事を全て話した。
魔力が通せる素材で出来たピアスを購入した事。
ノワールに好意を寄せるジオの事。
アテーナとアルテの生前の頃の関係。
そして、教会でソニアというシスターに尾行された事。
「そんなストーカー行為をするシスターなんているんだねぇ。もし大事になったら、場合によっては政府とか私とか総本山があるノース聖教国まで関わる事態になりかねないから、その時点で穏便に済ませたのは正解だね。実害も出てないみたいだし。
でももしもストーカーされた時にアイラに被害が出ていたら、私は躊躇なくそのシスターを神力でバラバラにしただろうね」
と、なんか恐い事言ってるセリアとおしゃべりに講じた後は、何事もなく就寝。
そんでもって翌日。今日は閣僚会議が行われる日。
私は朝から準備する。…気持ちの。行動的な準備なら今日もシャロルが全部済ませた。
閣僚の人達とは、シュバルラング龍帝国出発前以来の久々の再会となる。
さらに今回、会議にはノワールとキリカも参加する。
ノワールは近々伯爵の地位を賜る予定なので、今回は貴族入り前のご挨拶。
シュバルラング龍帝国龍帝補佐官として私と行動を共にしているキリカは、グレイシア政府にとって自国と龍帝国を繋げる大使のような存在となっている。そのため閣僚達との改めての顔合わせとして、今回の会議に参加する。
準備を済ませた後、ノワールも別館へとやってきて全員準備完了…と言いたいところなんだけど、実は問題が発生している。
……セリアが、布団から出て来ない!
何度起こしても「う~ん…、う~ん…」と言うばかりで、全く起きようとしない。寝起きの悪さが全開になっている。
「も~、あの子はホントに朝苦手なんだから…」
「しかしこのままですと会議に遅刻します。いかがしましょう?」
愚痴る私に遅刻の可能性を訴えるキリカ。私は少し考え込む。
「もういいわ。セリアは置いていく。会議室に向かうわよ」
「よろしいのですか!?女王陛下を置いていくなんて…」
「いーのいーの。シャロル、爺や。セリアの面倒お願いできる?」
「お任せ下さいまし」
「お気楽な女王様ですな~。はっはっは」
セリアを置いてく事を決めた私にノワールは驚く。そりゃ一国のトップを放置するんだから驚くのも確かだけど。
私はシャロルと爺やにセリアの事をお願いして、ノワールとキリカ、アテーナとアルテの護衛組を連れて会議室へ向かった。
「なんだか…、緊張します…」
「そうですか?私はいつも通りですが」
「緊張するかしないかなんて人様々よ。さ、行きましょう」
緊張してる様子のノワールと普段通りクールなキリカ。私は護衛二人を待機させた後、対照的な二人を連れて会議室へ入った。
会議室に入ると、既に閣僚達が勢揃いしていた。セリアが来たと思ったのか、全員総立ちしている。
私はセリアの席の隣にある自分の席に行き、ノワールとキリカを隣に案内した。
その後私は閣僚達に向かって一礼し、挨拶をする。
「皆様お久しゅうございます。長い間席を空けてしまいすいませんでした。シュバルラング龍帝国にて、無事龍帝の座に就く事が出来ました。今後はしばらくグレイシア国内での仕事に専念しますが、その後は定期的に龍帝国へ行く予定にもなっています。これからも時々不在となる時がありますが、どうかご理解の程よろしくお願い致します」
私が最後にお辞儀すると、閣僚達から拍手が送られた。
「お帰りなさい!アイラ様!」
「また何か大きなものを手に入れたようですな。雰囲気が随分と変わりました」
生産大臣のミランダが元気良く迎えてくれて、金務省のクラナッハ大臣も笑顔で迎えてくれた。他の大臣達もにこやかな表情だ。なんか嬉しい。
「ところでアイラさん。女王陛下はいかがされました?」
「寝坊のため遅刻します」
「はぁ…」
オルシズさんにセリアの事を聞かれたので正直に答えると、オルシズさんは深いため息を付いて、他の閣僚達もヤレヤレといった反応を見せた。これ多分、あの子は今回が初めての遅刻じゃないな?
「寝坊女王は放っておいて、今日はまず私からこちらの二名を紹介致します」
私はセリアの代わりに進行役となり、隣に控えさせていたノワールとキリカを紹介する。
「まず彼女が私と共にアストラント王国から参りました、ノワールです。皆様ご存じの通り、近々女王陛下から伯爵の地位を賜る予定の者です」
私の紹介後、ノワールは深くお辞儀をして自己紹介を始める。
「初めまして。ノワール・サンドロットと申します。アストラントでは伯爵家の令嬢でございました。
アイラ様のお誘いに乗じ、共にグレイシア王国へ移住させていただきました。女王陛下より伯爵の地位を賜る事を受けまして、今回皆様にご挨拶をと思い、参上致しました。
新参者で至らぬ点ばかりではありますが、どうかよろしくお願い致します」
ノワールが自己紹介を終えると、閣僚達から拍手が起こる。
「女王陛下から領地案が出た時はどんな方かと思っていましたが、なんとも落ち着いた雰囲気のお嬢さんですな」
「もしやあなたは、城の兵士の鍛錬場で時々剣の鍛錬をしていませんでしたか?」
クラナッハ大臣は笑顔で感想を述べ、ドイル将軍は何かに気付いた様子でノワールに問いかける。
ちなみに『鍛錬場』とは、城の兵士達がトレーニングや訓練、模擬戦等を行う所。私が城を巡った時は大きな訓練が行われていたらしく、あえて巡らなかった。でもアテーナやアルテの特訓講座で使った事はあるので、どういった所なのかはよく知ってる。
「はい、確かにしていましたが?」
「やはりそうでしたか。部下や複数の兵士から腕の良さそうな謎の女性がいると聞いていましてね。自分も通りすがりにお見かけした事があったので、もしやと思ったのですが」
確かに私がアテーナやアルテから特訓を受けている時に、ノワールは近くで自主鍛錬していた。
その時に一部の兵士がノワールに指導していたけど、それがドイル将軍にまで話が行ってたんだ…。
そういえば精霊達も幻影獣と互角に戦ってたとか言ってたし、ノワールは元々剣の才能があったのかも。
「最近はめっきり見かけなくなったと聞いていますが、もう鍛錬はしていないのですか?」
「いえ、最近は場所を変えて鍛錬していました。実は魔法の練習もしていまして、周囲にご迷惑がかからない場所を探しまして…」
「魔法もですか!真面目に取り組んでらっしゃるのですね。しかしこれからは領地の事で色々忙しくなると思いますので、あまりやり過ぎませんよう。武術や剣術の事で相談がありましたら、なんなりと」
「ありがとうございます。是非頼りにさせていただきます」
なんかノワールとドイル将軍が仲良くなってる。おかげでノワールの緊張も解けたみたい。
「交流出来ましたところで次に進みますね。彼女が私の龍帝としての補佐を務めているキリカです。私を送り迎えした竜も彼女です」
私は次にキリカを紹介。彼女もノワールと同様、お辞儀をして自己紹介をする。
「初めまして。もしかしたら既に軽くお会いした方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて。
シュバルラング龍帝国より参りました、アイラ龍帝陛下の補佐官を務めております。キリカ・フィクサリオと申します。基本的にアイラ龍帝陛下に同行するかたちで行動致します。よろしくお願い致します」
閣僚達はノワールの時と同様、拍手で迎えた。
「なぁ、キリカ龍帝補佐官とやら。そちらの国の外交がどうなっているのか教えてくれないかい?こちらとしては是非同盟を結んで友好関係を築いていきたいんだが…」
「特に機密事項はありませんので、お答え出来る範囲であればお答え致します。が、それには龍帝国首相閣下にも話を通さなければなりませんし、何よりこうして龍帝陛下もおりますので、出来れば龍帝陛下にお問い合わせいただければ幸いでございます」
「ああ、解った。じゃあ、アイラ龍帝陛下とやら…」
「ご用件は一言でお願いします」
「………仲良くしましょう」
軽いノリでキリカに声をかけた外交省のヴィクター大臣。
声をかけられたキリカはクールに回答し、そのまま私に話をまわしてきた。
当然ヴィクター大臣は私に的を変えてくるわけで、それを予想していた私は、一言という制限を出した。そしたらヴィクター大臣は頑張って一言を絞り出していた。
そんなヴィクター大臣の対応にみんなから軽く笑いが起こる。おかげで場が和やかになった。
でもってノワールとキリカを席に座らせた、その時。
「到着~!間に合った?」
「大遅刻よ!」
勢いよく会議室の扉が開かれ、セリアが勢いよく入って来た。私はセリアへ咄嗟にツッコんだ。
「女王ともあろうもんが遅刻してどうすんの!しかもあんたこれが初めての遅刻じゃないでしょ!」
「なんで何度か遅刻した事知ってんの!?あ~!さてはお前ら話したな~!」
「閣僚の方々は誰も何も話してないわよ!遅刻と聞いた時の反応を私が見てそうなんだろうなと思ったの!」
「さすがアイラ~。察しが良いね。ていうかなんで起こしてくれなかったのさ~」
「起こしたわよ!何度叩き起こしてもあんた起きないじゃない!だから放っておいたのよ!」
「むぐぐ~…、言い返せない…」
「あんた会議終わったらお仕置きね。はいまずここに居る全員に謝罪!そして座る!さっさと会議始めるわよ!」
「いっぺんに言わないでぇ~!アイラ鬼ぃ~」
セリアが現れた事で始まった私とセリア劇場の後、私はセリアを無理やり動かして会議を開始させた。
私とセリアが劇場を繰り広げている間、閣僚達は何故かニコニコしていた。なんで?




