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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第八章 次の道へ進む時
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バーミンガム教会ストーカー事件

 食事処を出た後、私達は街中を巡りまくった。鮮魚店、精肉店、家具雑貨店、時計の販売・修理店、武器・防具専門店。そしてちょっと外れて住宅街。

 思えばこの世界、音楽文化はあっても楽器店とかがない。レコードとかの電子機器系がないのは仕方ないけど、楽器が売られてないのは疑問。楽器によっては平民の手に届く値の物もあるのに。


 この世界にはギターやドラム、和楽器等はない。でもピアノやバイオリン、フルートやリコーダー、トランペットやシンバル等、オーケストラとかに使われそうな楽器はある。となると、ない物は開発すれば売れるんじゃない?帰ったらセリアと話してみよ。


 一日の時間は出掛けていると早いもので、あと一時間もすれば夕暮れになる頃、最後の締め括りとしてノワールの案で教会に行く事になった。

 王都フェルゼンにも『バーミンガム教会』ていう大きな教会がある。アストラントのメリック大聖堂程大きくはないけど、教会としては大きい建物だ。

 しかもこの教会、敷地がそれなりにあって、敷地内にはきれいな庭があるんだとか。ただお祈りしに行くだけじゃなくて、観光目的でそういった所まで入れるのは嬉しい。


「にしても教会に入る事自体久しぶりだわ~。何をお願いしようかしら?」

「アイラ様。ここでお願いせずとも天神界で直接ハルクリーゼ様を脅せば、お願い聞いてもらえますよ」

「そうそう。『オリジン様に説教してもらおうかな~?』的な事言っておけばだいたい聞いてくれますよ」

「あんた達いつかマジで怒られるわよ…?」


 お祈り内容を考える私に、ハルク様を直接脅せば良いと笑顔で話すアテーナとアルテ。でもハルク様絶対今の二人の発言聞いてると思う。


「あの、私先にお祈りしてきます。ハルクリーゼ様に武器と装備継承の報告と感謝を伝えたいので…」

「ええ、行ってらっしゃい。ハルク様も聞いてくれてると思うわ」


 ノワールはアリアンソードと鎧や服を継いだ事をハルク様に伝えたいらしい。だから教会に行きたいって言ったのか。ハルク様も継承者がいてくれて嬉しいだろうな。


「お嬢様、我々の後方にいるシスター…」

「シャロルも気が付いた?明らかに警戒心持ってるわよね」


 ノワールがお祈りに行ってる間、私は後方にいるシスターから視線を感じていた。

 私が試しに振り向くと、そのシスターは顔を逸らして別の方向を向いて立っている。明らかに怪しい。

 シスターはまだ若い感じで、黄色い髪のストレートヘアーでクリッとした目の小柄でカワイイ系のシスター。年齢的には私と大差ないと思う。


 そんなシスターは私達を見ている間、明らかに警戒心を持ってる事に私は気付いていた。

 私の神力が何かしら影響してるのは確かだろうけど、なんかあのシスター、普通のシスターじゃない気がする。


 シャロルも視線に気付いていて、私に声をかけてきた。

 アテーナとアルテも気付いてる様子で、キリカも真剣な表情で私を見たので、おそらく気付いただろう。


「お待たせしました。ご報告終わりました。…ところで、何やらシスターがこっちを見てるご様子ですが?」


 お祈りから戻ってきたノワールも、戻ってきた直後に気が付いた。


「神力が関係してるのは確かなんだろうけど、だからと言ってもおかしいのよね。あのシスター。みんな、ちょっと彼女の同行を確かめましょう」


 ということで私達は教会を出て、庭の方へ移動を開始した。

 すると私の予想通り、シスターは私達を尾行し始めたのだ。今は割と教会に来ている人は少ない。だから余計尾行しているのが目立つ。ぶっちゃけバレバレ。


「予想通り、ね…」

「シスターが尾行など…。バチが当たるわよ」


 アテーナ?どちらかと言うとさっきハルク様脅せば良い発言をしたあなたの方がバチ当たりよ?


 どうやらシスターは私達が尾行に気付いているとは思ってない様子。なので私達は自然を装いながら早急に打ち合わせして、対応策を練った。


 一応万が一のために武器を出せる気持ちの構えだけはするよう言ったんだけど、ノワールがここでアリアンソードを出してしまうと騒ぎになっちゃうので、アテーナが持っていた短剣を借りた。

 そうして準備万端な状態で歩くと、近くに割と隠れやすそうな場所を発見。周囲から見ても死角になりやすい。


「全員、散開」

「「「「「御意」」」」」


 シスターから死角になった所で私達は散開して姿を消す。この計画は私達がいなくなった事で戸惑うシスターを物陰から強襲して取り囲む算段。万が一暴れた場合は、取り押さえてシャロルの糸で縛る。

 私はいろんな力で素早く動けるし、アテーナとアルテは言うまでもなく。

 シャロルは隠密術持ってるし、キリカも身を潜めたり素早く動いたりする事は可能らしい。ノワールも半精霊として色々習得してるから、そういう事出来るし。


「!?」


 私達がそれぞれ身を潜めた後、予想通りシスターは私達がいない事に焦り出した。同じ場所を右往左往してる。

 作戦では私が最初に現れる手筈になってるので、他のみんなはそれまで待機。


 私が隠れてる位置からシスターが後ろを向いた瞬間、私は高速で移動し、シスターの背後に立った。


「きゃあ!?」


 私が後ろにいる事に気付いた瞬間、シスターは後ろへ跳ねるようなリアクションで驚いていた。ナイスリアクション。


「こんにちは。可愛いシスターさん」


 私は微笑みながらシスターに声をかける。ただし、若干威圧しつつ。


「教会にいる時からあなたがずっと見ている事は気付いていたのよ?尾行している事もね。私は身に覚えがないのだけれど、私達何かしたかしら?」

「……」


 シスターは警戒した表情のまま反応しない。そんな彼女の背後、私とは丁度反対側に、二番目に登場予定だったノワールが立つ。


「正直に話さないと酷い目見ますよ?」

「!?」


 シスターはノワールの登場に再び驚く。

 そして続くようにみんなが次々現れる。ベンチの裏側から、装飾品の影から、草陰から。ただ最後に出てきたキリカは、何故か草で造られた壁の中から出てきた。一体どうやってそこに入ってどうやって出てきた?さすがに私ビックリだよ。しかも頭に葉っぱが一枚付いてる…。化けタヌキか、あんたは。


 キリカにツッコみたい気持ちを抑えつつ、私達はシスターを取り囲む。場合によっては戦闘も躊躇わない。


「あ、あなた達は何者なのですか!?」

「それはこっちのセリフです。シスターが尾行など、普通の行為ではありませんよ?」

「我々はこれでもグレイシア政府と繋がりを持っています。変な抵抗はしない方が良いですよ?」


 焦っている様子のシスターの質問には答えず、シャロルが冷たく言い返し、アルテが圧力をかけていく。


「くっ…!」

「「「「「「!!」」」」」」


 動いたシスターは、懐から短剣を出そうとした。しかしその瞬間、ほぼ同時に私達も動いた。


「なっ…!」


 シスターは短剣を出そうとした体勢のまま、驚きの表情を浮かべて固まっている。

 それもそのはず。シスターが短剣を出す速さよりも、私以外のみんながそれを察知して武器をシスターへ向ける速さの方が圧倒的に速かったのだ。

 ちなみに私も何もしなかったわけではない。みんなが間に合わなかったら、私が神気で気絶させようと思っていた。……ホントだよ?


「抵抗しようとしたようですが、無駄ですよ?皆日頃から鍛えていますからね。

 しかしここでは落ち着けませんね。一旦教会の中までおとなしくご同行願いましょうか」

「ぐぅ…!」


 私がシスターに同行願った直後、シャロルが糸でシスターの腕を後ろへ縛った。

 そしてそのまま私を先頭に、シスターを取り囲んだまま教会まで連行した。

 一人を複数人で連行するとか、前世の頃の警察みたい。密着番組で見た事あるな。


 教会の中に戻ると、たまたま奥に神父さんがいた。丁度良かった。


「すいません。ここの教会責任者は貴方様でよろしいでしょうか?」

「はい、責任者で神父を務めております。オマハと申します。いかがされましたか?」


 やっぱこの神父さんが責任者で合ってた。

 オマハ神父は白髭を生やしたご老人で、穏やかそうな雰囲気のまさに神父!て感じの人だ。


「こちらのシスターですが、そちらの関係者で間違いありませんか?」


 私はオマハ神父の目をシスターへ向けさせる。シスターはシャロルに捕まったまま俯いている。

 なんかホントにシスターが逮捕された容疑者に見えてきた。

 シスターを見たオマハ神父は、慌てた様子になり始めた。シスターが何かやらかした事を察したみたい。


「確かに、ウチのシスターのソニアです。彼女が何かご迷惑を…?と、とりあえずこちらへどうぞ!」


 このシスターはソニアっていうのか。

 オマハ神父に奥へ通された私達は、早速事情を話す。


「実は先程、彼女から尾行されまして、捕まえて理由を聞き出そうとしたところ、短剣を向けようとしてきましたので捕縛させていただきました」

「な、なんと!?ソニア!?」


 私が事情を説明すると、オマハ神父は目を見開いて驚き、ソニアを呼んだ。


「す、すいません…、神父様…。なんとなくこの方々の雰囲気が普通じゃないと思いまして、尾行したら逆に取り囲まれて、思わず防衛本能で…」


 ソニアが尾行理由と短剣を出した理由を話すと、オマハ神父は額を抑えてため息をついた。


「お前の正義感は承知しているが、そういった行為は止めるよう何度も言ってきただろう!まったく…」

「も、申し訳ありません…」


 オマハ神父のお叱りに、ソニアは頭を下げる。


「頭を下げる相手が違う。お嬢様方、この度は当教会のシスターが大変失礼致しました。二度とこのような行為はさせませんので、今回はどうかご容赦を!」


 オマハ神父はソニアに謝る相手が違う事を指摘した上で、私達に謝罪してきた。

 発言から察するに、教会としては大事や揉め事にはしたくないようだ。今ここで終わらせてほしいと。でも完全プライベートで出掛けてる私としても、それは同じ事。


「シャロル、彼女を解放して」

「良いのですか?」

「私の考えとしては、あまり事を大きくしたくないわ」


 私の解放命令にシャロルは戸惑ったので、理由を述べておいた。


「ご寛大な処置に感謝致します」


 私の判断に、オマハ神父は頭を下げてきた。


「オマハ神父様。話を聞いて感じたのですが、彼女のこういった行為は今回が初めてではありませんね?」

「はい。過去にも何度か…。しかし今まで行為に気付いたのは我々関係者のみで、参拝に来られた方々が気付いた事は一度もありませんでした」


 ソニアはやっぱり尾行常習犯か。ストーカー癖でもあるのかしら?そんで関係者以外で気付いたのは私達が初めてと。


「ソニア、と言ったわね?あなたは戦闘の術を持っているでしょう?シスター以外に何かやっているんではなくて?」

「…はい。一応、民間兵です…」

「やっぱりね…」


 ソニアが言った『民間兵』とは、正規軍や傭兵等には属さず、普段は普通の国民として過ごし、緊急時や政府から要請があった時だけ兵士に様変わりする人の事だ。

 どんな立場や職業の人でもオッケーで、国に申請さえすれば誰でもなれる。


「神父様、今回の件、私も大きくするつもりはありません。そちらが希望する通り、穏便に済ませましょう。ですが万が一今後同じような事が発生した場合は、今回の件も公表させていただきますので、そのつもりで」

「は、はい…。誠に申し訳ありませんでした。…あの、失礼ですが、あなた様は大勢の方々に話を行き渡らせる術をお持ちで?」

「持ってますよ。少なくとも、グリセリア女王陛下の耳には入れる事は出来ます」

「グ、グリセリア女王陛下!?あ、あなた様は、一体…」


 オマハ神父はセリアの名を聞いた途端に怯えだした。みんなどれだけセリアが怖いのよ。そんでセリアは何をどうしたら人々をここまで怖がらす事が出来るのよ。帰ったら聞いてみよう。

 とりあえず私も名乗っておかないと失礼と思ったので、ちゃんと自己紹介しておく事にした。


「申し遅れました。私はハミルトン侯爵当主で国家総合監査長官を務め、シュバルラング龍帝国の龍帝も兼任しております。アイラ・ハミルトンと申します。今共にいる彼女達は、私の部下と友人です」


 私が自己紹介すると、オマハ神父とソニアは驚きの表情を見せた。


「まさか…、女王陛下と同格とされている、あの!?」

「女王陛下自らグレイシアへの移住を持ち掛けたと言われている…」

「間違いではありません。今日はお忍びで街へ出かけておりまして」

「左様でございましたか。かの侯爵閣下であり龍帝陛下であられるとはつゆ知らず、大変失礼を致しました」

「あ、あ、あの、本当に申し訳ありませんでした!」


 オマハとソニアは揃って頭を下げてきた。どうやらソニアも反省してるみたいだし、オマハ神父も謝ってばっかだし、もう良いでしょ。


「今後は真面目にお勤めする事をお薦めします。ハルク神の名を汚さぬためにも。それでは私達はこれで。みんな、行くわよ」


 私は二人に言葉を添えて、みんなを連れて教会を出た。


「単にお祈りに行ったはずが、変な事態に巻き込まれたわね」

「あのシスター、今後何かしらやりそうで心配なのですが…」

「その時は、私達が鉄槌を下せば良いだけですよ」

「ハルクリーゼ様は彼女をどう見ているのか…」


 私が率直に感想を述べて、シャロルはソニアがまた何かしらやらかしそうだと言って心配していた。

 それにアテーナが自分達が鉄槌を下せば良いと言って、その隣でアルテはハルク様がどう考えてるのか気にしていた。


「私は教会自体初めてだったので、割と楽しめました」

「あ、初めてだったんですね」


 私の後ろでキリカとノワールは全く別の話題をしていて、ソニアの事は気にしてない様子だった。


 もうすぐ夕方。一日が早いな…。

 これで街巡りは終わり。明日からは私もいい加減仕事の方に手を伸ばさないと。

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