王都散策開始
ノーバイン城の敷地内を巡った日の翌日。私は昨日と同様、朝早くから外出の準備をする。……訂正。やっぱりシャロルが準備をしてくれた。
シャロルは私の行動パターンを何通りも把握しているようで、私がどう動こうと全く準備をさせてくれる隙を与えてくれない。きっと私はもう自分でこういった準備をする時はないんだろうな…。
今日の外出先は、ノーバイン城の城下にあたる王都フェルゼンの中心街『ウォーム街』という所。
私の服装や髪型は昨日と同じ。違いがあるとすれば、昨日私は服の色を白色と銀色柄の色合いにしていたけど、今日は水色と青色柄にしているという事くらい。
ちなみに同行メンバーも同じ。シャロル、ノワール、アテーナ、アルテ。
「いや~、楽しみだわ~。王都散策」
「ウォーム街も広うございますが、巡る範囲は決めてらっしゃいますか?」
「ううん、何も。とりあえず虱潰しに巡ってみようかと思ってる。一応人通りの多い所中心かな」
「そ、そうですか」
アルテに巡る範囲を聞かれたので決めていない事を伝えると、何故か戸惑われた。なして?
「良いな~。私も一緒に巡りた~い。アイラとデートした~い」
「デートってなによ。別に付き合ってないでしょうが」
これから仕事へ向かうセリアが何やら変な事言ってたので、私は普通にツッコむ。
「爺や。今日は一日中外出しちゃうから、申し訳ないけど留守をよろしくね。エウリアとメリッサも警備よろしく。ザッハークもお利口にね。オルトロスは面倒見るのよろしく」
「留守はお任せくだされ。楽しんで行ってくださいまし」
「警備はお任せください!」
「ん…」
「ワンワン!」
私の言葉に爺やは一礼して答える。エウリアとメリッサもいつも通り。
オルトロスも受け答えするように吠え、ザッハークはポヨンポヨンしながら「行ってらっしゃーい!」て言ってるのが分かった。
「失礼致します。おはようございます」
「あ、アリスおはよー」
別館にやってきたのはアリス。私は普通に挨拶。
「おはようございます。アイラ殿。今日は散策を楽しんでってください」
「うん。楽しんでくる」
「女王陛下。ご支度は整いましたでしょうか?お仕事の時間でございます」
「はいはい…。じゃあ、行ってきまーす…。あぁ、めんど…」
「行ってらっしゃーい」
アリスはいつもこうやってセリアを迎えに来る。今日もアリスに連れられて、セリアは面倒そうに出勤して行った。私はそんなセリアを手を振って見送る。
「お嬢様、準備完了しました」
「私も準備終わりました」
「私もいつでも大丈夫です」
「りょーかい。じゃあ、ノワールを迎えに行って早速出発するわよ」
ということで私達は別館を出て、城内の一室に仮住まいしてるノワールも迎えに行き、合流した後城を出て街へ繰り出すのだった。
城を出た私達は、ウォーム街のメインストリートを歩く。
現在時刻は既に誰もが外へ出て行動をし始める頃。お店も既に営業してるし、人々も行きかってる。
私は過去、二回ここを通っている。一回目は真夜中に。二回目は早朝に。店が閉まっていれば人一人すら歩いていない時間帯に通っていた。なので賑やかな街の光景を見るのは今日が初めて。
ちなみに一回目は精霊との契約のため、二回目は神獣との契約のため。
「賑やかね~。見る限りは平和ね」
「私達が確認した限りでは、少なくともこの王都にスラム街のような場所は確認されませんでした」
「中心部から外れた場所も閑静な住宅街になっていまして、特に変わった物や場所はありませんでした」
「そう。スラムがないのは良い事だわ」
アテーナとアルテの情報によれば、王都にスラム街はないらしい。アストラントではどっかにあるって聞いてたから心配だったけど、さすがにセリアはその辺考えてるんだろうね。
「さあ!安いよ~!そこの奥さん!一つどうだい!今ならこれ付けちゃうよ!」
「こちらのお品物、期間限定販売です!買うなら今ですよ~!」
「ここじゃあまりお目にかかれない珍しい魚が入荷したよ~!数量限定!早い者勝ちだよ~!」
様々な店から客引きの声が聞こえる。こういった活気のある声を聞いたのは前世以来。アストラントは何故かこういう盛り上がりがなかったからな~。何もかも高級品質ばかりで。
歩くうちに私はアクセサリーやジュエリー等を扱うお店を発見。耳に着けるマイピアスが欲しいと思ってたので、これは丁度良い。
「みんな、あそこの店寄って良い?」
みんなから異論は出なかったので、早速お店に入店。
「いらっしゃいませ~。どうぞご覧ください」
店に入ると女性の店員さんが迎えてくれた。奥には男性店員の姿も。
お店自体はそこまで大型ではない。広さからいって、おそらくこの二人で店を切り盛りしてるみたい。
ショウウィンドウの中に並べられているアクセサリー品はけっこう種類豊富。これは迷うわ~。ここは店員さんに聞いてみよう。
「自分用のピアスが欲しくて、どういった所でも違和感を感じさせないような総合的に身に着けられるデザインの物ってないですかね?」
「そうですね…、この辺りのピアスでしたらどこで着けていても大丈夫だと思います」
私はパーティでもプライベートでもどこでも身に着けられるピアスが欲しいと思っていた。でないと複数のピアスをその都度いちいち選ぶのメンドイし。
女性店員さんが案内してくれた部分のピアスは値段も形も種類が様々。粒のように小さいのもあれば、大きな結晶がぶら下がっている物もある。
ちなみに私が選んでいる間、他のメンバーは各々自由に商品を見てる。唯一シャロルだけが何故か私を見てニコニコしてる。
「…ん?」
一つひとつ見ていくうちに、私はあるピアスに目が止まった。
そのピアスは小さめなダイヤモンドのような宝石がぶら下がった透明なピアス。見た目は他のピアスと変わらない普通のピアスだけれど、私はそのピアスを見て特殊な感覚を感じ取った。
その感覚は、今まで精霊や神獣から貰った物や、セリアが作ってくれた今私が着ている服と同じ感覚。つまり魔力が通せる素材の物である事を感じ取ったのだ。
そのピアスの値段を見てみると、他の商品よりも遥かに高い。桁が違う。
「店員さん、このピアスって魔力を通せる素材で作られていますね?」
「…!お客様よくお分かりになりましたね。その通りです。魔力が通せる素材で作られた商品でして、素材自体貴重なので値段も高く設定しております。今まで手に取られたお客様はいませんが…」
女性店員は私が魔力を通せる素材である事を見抜いた事に驚いていた。でも最後は人気がない事をアッサリ暴露して苦笑いしてた。
「貴族の人とか買って行かないんですか?貴族じゃなくても大きな商会の家系の人とか、偉い騎士や役人の人とか」
この世界で富裕層の枠に入る人は貴族だけでなく、大きな商会の会長やその家族や幹部。または騎士や役人のエリートクラスの人も富裕層に入る程の収入を得ている。
「確かにそういったお客様もご来店されますが、皆様もっと見た目が目立つ物を買われていきます。魔力を通せる素材は貴重で魅力的ではありますが、やはりその部分を生かせないために興味をそそられないようです」
なるほどね。魔力を通せる事は魅力的でも、結局その面を生かせないからもっと目立つ物を選んでいくってことか。こういうのを生かせるのは、魔力を豊富に持つ魔法師くらいだもんね。……よし、決めた!
「じゃあ、これください」
「……大変失礼ではありますがお客様。支払いは足りますか?当店は一切の値引きは致しませんが…」
「フフ…、平気ですよ。ちゃんと払える分ありますよ」
女性店員の質問に、私は微笑みながら答える。多分店員さんから見て、私達はお金を持ってるように見えなかったんだろうね。
私は異空間収納から財布を取り出す。
この世界の通貨は世界共通となっていて、国が違くても共通でお金が使える。
私はリースタイン家にいた頃、幼い頃からお小遣いを貰い続け、しかしほとんど使わなかったために大金が溜まっている。正直グレイシアへ持ってきた時一番かさばって大変だった。
一回のお小遣いの金額が大きかった上、かなりの頻度で貰い続けていたので、自分でもどの程度溜まっているのか分からなかった。自室のいろんな所に仕舞ってたし。
で、最近数えたら、宝くじ何回一等当選したの?と言えるくらいの天文学並のお金が溜まってた。
「はい、金額丁度」
「お、お預かり致します。少々お待ちを」
女性店員は戸惑い気味に私からお金を受け取ると、金額確認のために奥へ入って行った。
その間男性店員がショウウィンドウからピアスを取り出しながら私に話かけてきた。
「今お客様は異空間収納から財布を取り出したのですか。なるほど、お客様は魔法を使えるのですね。ならばこのピアスの使い道も生かせましょう」
「ええ、私他にも魔力を流せる素材で作られた物を持ってまして、実は今着てるこの服もそうなんです」
「そうなのですか。となるとご職業は魔法師か何か?」
「いえ、魔法は使えますが、魔法師はしてません」
直後、女性店員が奥から出てきた。
「お待たせ致しました。確かにお預かり丁度確認しました。こちら領収書です」
「こちらお求めのお品物でございます。毎度ありがとうございます」
私は差し出されたピアスと領収書を受け取る。わーい!魔力通せるピアス買えた~!この店で良かった~!ラッキー!
「すいません、私もこれお願いします」
横からノワールも商品を要望した。ノワールが買おうとしてるのは滑らかなオーバル型のペンダント。値段はメッチャ高いわけじゃないけど、平均金額よりも上だ。ちなみにノワールも異空間収納から財布を取り出した。
「こちらのお品物ですね?ありがとうございます」
女性店員はノワールからお金を受け取ると、奥へ金額を確認しに行って、間もなくして戻って来た。ノワールへ商品が渡るスピードが私の時より早い。
「……お客様方。なんと言いますか…、こういった質問をしてしまうのはとても失礼である事は承知しているのですが…、普段どういった事をされているので?」
「と、言いますと?」
男性店員は険しい表情で私達が何者か聞いてきた。こりゃもしかすると感じ取ったかな?私の神力。
「実は私はこの店を開く前は傭兵をしておりました。ゆえに人の雰囲気というものにとても敏感なのですが、お客様方、特にあなた様からは異様なまでの神聖さと戦闘力を感じるのです」
男性店員が言った「あなた様」は私の事。やっぱ感じ取ってたか。元傭兵なら当然だろうね。
ていうか私の神力滝のように溢れて流れてるんだから、そりゃ感じるよね。むしろ感じない方がおかしいか。
「フフフ…、何者なのかは秘密という事で。謎の少女とだけ言っておきましょうか」
「ははは。あくまで秘密というわけですか。こちらも深入りは致しません。ご要望通りの認識でいさせていただきます。お品物をご購入していただいたお客様である事には、変わりないのですから」
「そうしてちょうだい。それじゃ」
「ありがとうございました!」
「今後も当店をご贔屓に」
私達はお店を出て、再び歩き出す。
「あっぶなかった~…。まさか何者か聞かれるなんて思わなかった…」
「元傭兵とは…。これは今後の対策を練った方が良さそうですね」
「あの、今も周囲から時々視線を感じるのですが…」
「おそらく龍帝陛下へ…」
「アイラ様、みんなから見られてますよ~?」
「アルテ、なんで煽ってるの?」
私は男性店員から質問された時のドキドキがまだ残っていて、ようやく一息。
シャロルは今後の対策を検討する案を出してきた。
その間もノワールは周囲から視線を感じて戸惑っていて、キリカはその視線が私に向けられていると感じ取った。
私も周囲から見られているのは分かってたけど、何故かアルテが私を煽ってきて、アテーナは戸惑い気味にツッコんでいる。
でもよく考えたら、私以外に他のみんなは美少女揃いだ。これは神力云々以前に視線があってもおかしくない気が…。
しかし周囲の視線を誤魔化す事は出来ないので、結局私達は周囲の視線を感じながら、街巡りを再開した。




