ノーバイン城敷地内散策
視点がアイラへ戻ります。
井戸端会議を開いていたメイド達と別れた後、私達は城内の様々な所を巡った。
メイド達の休憩室。リースタイン邸にあった休憩室とほとんど変わらない。
兵士専用の休憩室。なんか汚い。
食堂。そういえばまだ利用した事がない。メニューを見たらめっちゃ豊富だった。
食堂の厨房。きれいに管理されてる。
資料保管室。ちゃんと収納されてる。
トイレ。掃除も行き届いてる。
掃除用具保管室。整理整頓オッケー。
等、その他色々巡ったけど、特に変わった事もなく、アッサリ城のほとんどを巡ってしまった。
なので次は城を出て敷地内を巡る。城の敷地はけっこう広く、城を中心にいろんな所がある。
余談なんだけど、精霊達がいる小さな池のある場所は、城の敷地外ではあるらしいんだけど、所有者が居ないために事実上城の敷地扱いなんだとか。
私達は敷地内にある庭園へと向かう。領地に自分の家建てたら庭園とか欲しいから、ここのも参考にしたい。
「きれいな庭園ね~。管理もしっかり行き届いてるみたいだし」
「ヘルモルトの庭園はまるで廃墟でしたから、こういったきれいな庭園を見るのは久々です」
私が感想を述べる横で、ノワールがヘルモルト邸の事を言っていた。ホント、ヘルモルト家って問題あり過ぎ。
それから少し進むと、ヘルメールさんがいた。
「あら。アイラ様、皆さん。こんにちは」
「こんにちは、ヘルメールさん。何をされていたんですか?」
「植物達の様子を細かく確認していました。万が一元気をなくしていては大変ですからね」
「確かに、こんなきれいな庭園の花が枯れてしまったら大変ですもんね」
「ええ。草花は皆命を宿していますから、大切にしないと。ところで皆さんはどうされたのですか?」
「今城の敷地内を巡ってる最中でして、明日には王都の中心街へも行く予定です」
「そうですか。今後は色々忙しくなるとは思いますが、あまりご無理なさらぬよう気を付けてくださいね。言ってくだされば協力は惜しみませんので」
「ありがとうございます。頼りにしてます」
常に微笑んでいる優しいヘルメールさんと別れ、庭園を出た後、歩いているうちにマンションのような大きな建物の前に着いた。
この建物はノーバイン城に初めて来た時から存在に気付いてたけど、今までノンタッチだった所だ。
「思えば、この建物って何なの?」
「城の関係者、役人や使用人、兵士等が住む下宿ですよ」
「天神界メンバーの一部もここに住んでいます」
私の問いにアテーナとアルテが答えた。天神界メンバーが住んでるのってここか。
「あれ?アテーナとアルテじゃん。何してんの?」
建物を見上げていたら、アテーナとアルテに声がかけられた。
声をかけたのは一人の女性。見た目的に年は同じくらいかな?前髪パッツンの黒髪ストレートヘアー。白色シャツとジャージっぽいズボンという軽装姿の人だ。
「あら、リズベット。ご無沙汰」
「相変わらず管理人室で暇してるの?」
「まぁね~。こんなに暇で何もしなくて良い仕事は他にないよ~。もう最高」
アテーナとアルテは知り合いらしい。アルテもあだ名で呼ばれてるし。いつの間に知り合ったんだろう?
話から察するに、彼女がこの下宿の管理人らしい。でもこの人仕事したくないニートタイプな人だ。
「それで?二人はどうしてここに?」
「今日は仕事。それでたまたまここに来たの」
「今、城の敷地内廻ってるのよ」
「ふ~ん、巡回か」
「「違うわよ」」
「へ?」
巡回と思ったリズベットは、アテーナとアルテの否定に驚いている。
「そういえば私達、リズベットに仕事の内容ちゃんと説明してなかったわね」
「雑談ばかりしてたもんね」
「えぇ?どういうこと?二人とも国の役人かなんかじゃないの?」
話を聞く限り、リズベットは二人を役人だと思ってたらしい。そんで二人はちゃんと説明してなかったと。ていうか、役人は巡回なんてしないよ?
ところで私とシャロルとノワールとキリカが完全に放置されてるんだけど?
私は放置プレイされるのが悔しくて、強引に話に入ることにした。
「二人ともお知り合い?話を聞く限りここの管理人のようだけど?」
「あ、はい。彼女はリズベット。この下宿の管理人を務めています。以前私とアルテ、エウリアとメリッサで外出した際に偶然知り合いまして、以降友人の関係になっています」
「んぇーっと…、なんかお知り合いかな?初めまして、私はここの管理人を務めてるリズベット・クレイグよ」
私の質問にアテーナが経緯を説明してくれた。いや、いつの間に外出してるのよ。私が知らない間にエンジョイしてるとか、羨ましい!
リズベットは状況を把握して、自ら名乗ってくれた。管理人にしては若いな。
一応私は、貴族としての、そして龍帝としての品が落ちぬよう、優雅に挨拶を返す。
「これはご丁寧に。私はハミルトン侯爵家当主で国家総合監査長官、シュバルラング龍帝国で龍帝も務めているわ。アイラ・ハミルトンよ。どうぞよろしく」
思ってたより名乗るのが長くなった…。私の肩書きけっこう長いな。
私の名を聞いたリズベットは、ポカンとした表情を浮かべていた。
「アイラさん。どうも。えっと?侯爵家の当主で、監査会の長官で、龍帝で…」
最初はポカンとしたまま挨拶を返してきたリズベットだったけど、時間が経つにつれ彼女の表情はだんだん驚きへと変わっていった。
「えええ!?もももももしかして、女王陛下が気に入ってアストラントから引き込んだっていう話題のご令嬢!?」
「正確には元令嬢だけど」
「異例の侯爵就任を果たして、新設された組織のトップになったあの!?」
「間違いではないわね」
「二千年ぶりにシュバルラング龍帝国の龍帝に選任されて、つい最近帰ってきたっていう竜族の王様になったあの!?」
「間違った認識ではないわ」
「たたた大変ししし失礼な態度を…!申し訳ありませんでしたぁ!」
やっぱ管理人なだけあって色々情報は伝わっているらしい。認識は全て間違ってない。
彼女は急速に顔色を青くさせ、勢いよく土下座してきた。
「別に謝らなくて良いわよ。とりあえず立ってくれる?騒ぎになっちゃうから」
「は、はい!すいません!」
私が立つように言うと、彼女は素早く立ち上がった。なんか兵士みたい。
「アテーナやアルテに気兼ねなく接してるなら、私にも同じ接し方で構わないわよ。仲良くしましょうね?」
「は、はい…。お願いします…。じゃあ、アテーナとアルテは…」
「私とアテーナはアイラ様の専属護衛騎士よ。命をかけてアイラ様をお守りするのが私達の役目」
「そうだったんだ…。普通の役人だと思ってた…」
私がいる事でアテーナとアルテの立場に疑問を持ったリズベットに、アルテがちゃんと説明をした。リズベットは二人を役人だと思ってたみたいだ。
「じゃあ、エウリアとメリッサは…」
「あの二人はアイラ様とグリセリア女王陛下が住まわれている城の別館を専門に警備する警備兵よ」
「そうだったんだ…。みんなスゴイ人達だったんだね…」
どうやらリズベットは四人の事をほとんど知らなかったようだ。言わなかった四人も問題だけど、今まで普通に接してきたリズベットもすごいよね。
その後アテーナがシャロルとノワールとキリカを紹介した。紹介が終わった頃には、リズベットはすっかりガッチガチになっていた。
「あの…、えと…、何がどうでなんと言ったら良いのやら…」
緊張のせいか完全にパニックになってるリズベット。しょうがないんだろうけど。
「リズベット、らしくないわね。私達と知り合った頃の馴れ馴れしさはどこ行っちゃったの?」
「だって貴族様だよ!?龍帝様だよ!?緊張するよ!」
アルテの言葉をリズベットは強く言い返す。完全にパニック状態だね。
「リズベット。今は無理かもしれないけど、本当に軽々しく接してもらって構わないわ。無礼講よ」
「は、はい!」
ダメだこりゃ。完全に委縮してる。
「みんなそろそろ行きましょう?まだ巡らないと」
「御意」
「御意。それじゃあまたね」
「う、うん…。またね…」
私はみんなに城巡りの再開を指示。アテーナとアルテもそれに従い、私達はリズベットと別れた。彼女は最後まで戸惑ったままだった。
「なんだか申し訳ありません。アイラ様。彼女普段はもっと気安く接してくるのですが…」
歩き始めて少し経ったら、アテーナが申し訳なさそうに謝罪してきた。
でも私はそれよりも、アテーナ、アルテ、エウリア、メリッサがいつの間に外出して友人まで作っていたのかが気になった。
「リズベットは緊張してたみたいだし別に良いわ。それより二人とあの警備姉妹はいつの間に出かけて友達作ってたの?」
「アイラ様が龍帝国へ行っている間に出かけてました」
アルテの発言から見ると、やっぱエンジョイしてたんだね。
「そういえば、いない時ありましたものね。女王陛下も驚かれてましたけど」
「あんた達セリアの許可も取らずに外出してたの?よく怒られなかったわね…」
そういえば的な感じで話に参加してきたシャロルが言うには、どうもセリアにすら報告せず外出してたみたい。
そんな事しちゃって平気なの?ていうかセリアもなんで何も言わなかったんだろう?後で聞いてみよう。
その後私達は城の敷地内を端から端まで見て回った。けど特に何かあるわけでもなく。
結局これにて敷地内散策は終了。時間帯がお昼時だったので、食堂へ行ってみんなと昼食を摂った。
明日は王都フェルゼンへの街を巡る。既にアテーナとアルテが街を歩いているという事で、多少の案内なら出来るとの事だった。
やっと街を散策できる~!




