隣国のお話
元号が令和に変わってから最初の投稿となります。
引き続きよろしくお願い致します。
神力の制御に苦戦していても、関係なく大会日は迫ってきている。そして大会日が迫っていても、学院での授業は通常通り行われる。
そんな日が数日流れ、武術大会参加申し込みが締め切られた。今年の武術大会一学年の部には、私を含めて16人がエントリーした。
さらに今年の大会には、王子殿下の両親であるエルサレム国王陛下とシトラス王妃殿下が観戦しに来る事が昨日発表された。
これだけでも驚きの事なのだけど、放課後に突然いつものメンバーを集めた王子殿下から追加発表が出た。
「明日あたりに正式に発表になるんだけどね、隣国のグレイシア王国のグリセリア女王がこの国を訪問する事になって、武術大会も見に来る事になった」
王子殿下の発表にいつものメンバーは驚く。
「グリセリア女王って、あの独裁的で有名な!?」
「私は父より聞いていました」
「わたくしも聞いていましたわ」
「うわ~、ホントに?」
「少し、怖いです…」
「まぁ、色々噂の絶えない方だけど、あくまで噂だし怖がっても仕方ないよ。直接関わるわけでもないし」
レイジは驚いた反応をしているけど、ティナとホウは既に知っていたらしい。ステラは嫌そうな表情を浮かべ、ニコルは怖がっている。私はそんなニコルの頭を撫でて落ち着かせてあげる。
唯一リィンだけが一切反応していないのだけど、彼は王子殿下のとなりで鼻提灯を膨らましながらぐっすり夢の中。いくら学院の中にいるといえど護衛がそれで良いのか。ホントに。
グレイシア王国のグリセリア女王は、最近女王に即位したばかりの新米女王様。年齢も私と同じくらいらしい。私が集めた情報によると彼女は王女だった頃から独裁的だったらしく、反対してきた者を権力を使って突き落としたとか、それでも抵抗する者は処刑したとか、村を焼き討ちしたなんて話もある。しかしどういった情報もあくまで噂の範囲内を抜けておらず、証拠もなければ噂の出所も分からない。
さらに謎なのが、グリセリア女王には姉がいたはずなのだけど、王位継承権を争う事もなく王座に君臨したという事。これに関しても様々な説があるけど、どれも信憑性の無いものばかり。正式な公表もない。
「それにしても大会なんか見に来てどうするつもりかしらね」
「国自体に謎が多いですからね。予想もつきませんね」
ステラが訪問を疑問視し、ティナが予想出来ないと言う。
それもそのはず。グレイシア王国は鎖国とまでは言わないものの、他国との交流をほとんど持たない。
アストラント王国とは昔戦争があった歴史があって、そのせいで今もあまり仲が良くない。と言っても、その戦争はアストラント側がグレイシアを占領しようとした一方的な戦争だったんだけどね。
そんな仲の良くない国のトップが突然訪問し、学院の行事をわざわざ見に来る。全く予想が付かない事態に、みんなは不安がっていた。…寝ているリィンを除いては。こいつは場合によってはグリセリア女王の前でも寝るんじゃないだろうか。
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グレイシア王国、王都フェルゼン。この都市にある王城、ノーバイン城。その城の中のある一室に、三人の女性がいた。
一人は腰まで伸びた黒髪を自分で撫でながら、くつろいでいる。もう一人はピンク色の髪色のツインテールの少女。そのとなりに鎧姿の金髪の女性騎士。
「リリア、アストラントからの返事は?」
「はい。入国および大会の観覧を許可すると。とっても上目線で!」
「上目線は仕方ないとして、我らの事を悪く言っている輩ばかりの国。何を仕掛けてくるか…」
「まぁ、入国出来るんなら結構。後は行ってみないと分からないよ」
黒髪の女性の問いに頬を膨らませながら答える少女。女性騎士は警戒心を強めるが、黒髪の女性は至って冷静。
「では予定通り、到着日時をアストラントへ伝えます」
「私も当日の警備面を軍と話し合ってきます」
「うん、ヨロシク~」
部屋を出ていく二人にゆったり手を振る黒髪の女性。一人になるとくつろいでいたソファから立ち上がり、窓辺に立つ。窓から見える景色を見ながら、彼女は微笑む。
「ふふ…、もうすぐ会える…。楽しみだなぁ」
そうつぶやいた後、そのまま空を見上げて再びつぶやく。
「もう少しで会えるよ。待っててね、春華」
このお話の投稿後、一つ前に追加で割り込み投稿をさせていただきました。