機械工業部門
目を開けたまま銅像のように居眠りするキーズクリフ大公殿下と、見本レベルに普通に優しいクレセント大公妃殿下と対談したその翌日。
私は昨日と同じメンバーで別館を出て『機械工業部門』があるノーバイン城敷地内の工場に向かった。
ここには天神界メンバーの一人、ヘーパトスさんがいる。…そういえば初対面以降ヘーパトスさんと会ってない。
そして機械工業部門の統括者で工場の現場責任者として人員を総まとめしているのが、セリアのお姉さんのセレスティア様だ。
以前セリアが話してた「機械にドハマりして王位継承権を放棄した人」というのがまさにこの人。今日はそんなセリアのお姉さんにご挨拶しに行く。
セリアが言うにはセレスティア様は堅い人物が嫌いらしく、あまり畏まった態度をとるとマイナスな印象を与えてしまうらしい。接するには崩した態度の方が良いんだそうな。
ちなみにグリセリアがセリアと呼ばれるように、セレスティア様も家族からセレスと呼ばれてるそうな。思えば両殿下と対談した時もそう呼んでたな。
今回はあくまでセレスティア様にご挨拶だから工場内を見て回る事は出来ないけど、行けるだけ楽しみ。
工場前に到着すると、昨日と同様シャロル、アリス、アテーナ、アルテは待機。私、セリア、ノワールで中に入る。
工場内は前世の日本にあった町工場とほとんど同じ。でも面積はかなり広くて、走り回れる程開けている。
「えーっと、姉さんは…。あ、いたいた」
セリアは工場内奥にお姉さんを発見したようで、私とノワールを連れてまっすぐ奥へ歩いていく。
「やほーい、姉さん。機械いじりの調子はどう?」
「おや?セリア。来てたのか。後ろの二人はどちら様?」
セリアに声をかけられて振り向いた女性。この人がセレスティア様か。
髪色はクレセント殿下と同じ黄色。でもメッチャ髪長い。多分私と同じくらいの長さはある。ちなみに前髪と毛先はパッツンになってる。
顔はけっこう美形。クレセント殿下に似てる。となるとセリアは父親似か。でも雰囲気はセリアそっくり。
でもって格好は、上が白色のワイシャツで下が黒色の超ショートパンツ。丈が短すぎ。完全に下着のパンツと形変わらない。
しかもワイシャツのボタンは全て外されていて前が全開。さらには下着を身に着けてない。角度や体勢によってはポロリするぞ?
ていうかそれ以前に工場にいる格好ではない気がするんだけど…。
「前に話した二人だよ。アイラとノワール」
「初めまして。アイラです」
「同じく初めまして。ノワールです」
大公殿下夫妻と対談した時とは違い、私もノワールも軽い態度で接する。
「おや、これはこれは。セリアの姉で工場の統括をしている、セレスティア・グレイシアだ。セレスと呼びたまえ」
「ちなみに姉さんには最近前世の事話したから、隠す必要はないからね」
「あ、そうなんだ」
セリアが話してこうして会ってるって事は、セレス様は理解してくれたって事か。
「最初話を聞いた時は信じられなかったけど、この機械技術を考えれば信憑性が高かったんだよね。転生とかあるなんて、世界は広いんだねぇ」
やっぱ最初は「はぁ?」てなったんだろうね。でもセリアが教えた機械技術のおかげで解ってくれたんだね。
「セリアに機械工学を教えてもらってから、機会技術に熱中したって聞きましたけど」
「そーなんだよ!こんな素晴らしい物作り技術があるなんてすごいよ!
私は妹から教えてもらっていくうちに機械技術が魅力的に感じてね、研究開発あるのみ!てな感じでここに入り浸ってるんだ」
つまりドハマりして居座ってると。
「ところで姉さん。前に私が作ったのは?」
「あっちに保存してある」
「あの部分借りても?」
「構わないよ。他に何も置いてないし」
「あんがと。二人とも来て~」
どうやらセリアがいくつか作った物があるらしく、私に見せたいらしい。
セリアは奥にあった何かに被せてあったシートの前に立った。
「これから見せるのは、この工場が稼働してから私が最初に開発した物なんだ~。ノワールには分かんないだろうけど、アイラは懐かしいと思うはずだよ」
セリアはそう言いながらシートをどかしていく。セリアが開発したということは、オルシズさんやリリアちゃんに仕事丸投げして取り組んだ物の一つか。
「じゃーん!どうよ?」
「これは…!」
「なんですか?これ」
ノワールはクエスチョンマークを浮かべた反応をしてるけど、確かに私にとっては懐かしい物だった。
シートに被せられていた物は『自転車』だった。しかも通常の形の他にマウンテンバイクや電動アシストらしき物が装着された自転車まで。
「これ自転車じゃない!セリア、これイチから作ったの?」
「そだよ。馬車とか馬以外の移動手段があれば良いな~って思ってさ。いつかは量産して国民に定着させたいって思ってる」
前世の記憶だけでこれをよく製作出来たわね…。
「あの、これはなにをどうする物なのですか?」
「私も知りたいです」
首を傾げていたノワールが予想通りの質問をしてきた。でも質問に答える前に一つツッコみたい。
「質問に答える前に一つ言わせて。……あんたはいつの間にいたの?シャロル」
気が付かないうちに外にいたはずのシャロルがいた。ノワールの隣でサラッと話に加わっていて、ノワールもビックリしていた。
「皆様が工場に入った直後から後を付けておりました。工場の中に入った後はずっと天井のあそこの骨組みに居ました。他の待機中のお三方には許可済みです」
「あんたまた隠密行動してたのね…。なんで主じゃなくて護衛に許可取るのよ。ていうかいい加減私に内緒で隠密行動するのやめて」
ある意味ストーカーだよ…。昔のノワールじゃあるまいし。
「シャロル、なんか服汚れてない?」
「え?あぁ、まだ埃が付いていましたか。ここの天井とても埃っぽくて…。呼吸がしづらくて苦しかったです」
「工場はそういう所なの!苦しい思いしてまで付いてくるんじゃないの!」
「まあまあ」
セリアがシャロルの服の汚れを見つけ、シャロルは天井にいた時の事を話す。
私は思わず怒ったけど、セリアが落ち着かせてきた。
「そちらの急に現れたメイドさんはどちら様?」
「あ、彼女は私のメイドでシャロルって言います」
「シャロル・バレスタインと申します。どうぞお見知り置きを」
セレス様がシャロルを見て尋ねてきたので、私は咄嗟にシャロルを紹介した。シャロルも自ら名乗る。
「ふーん、アイラのメイドか。あぁ、そういえば最近アリスに勝ったメイドがいるって聞いたけど、それあんたの事か。突然現れるあたり普通じゃないもんね」
セレス様はシャロルが突然現れた事と彼女の雰囲気を感じただけで、シャロルを強者と読んだ。
こういう人を見抜く能力は、さすが王族である。この人もきっと王族の力をちゃんと継承してる。セリアと同じで、普段はそれを表に出さないだけなんだ。
「それで女王陛下。これはなんなのですか?」
シャロルの登場により話が逸れてしまってたけど、ノワールは自転車が気になって仕方がないらしく、改めてセリアに質問していた。
「これは自転車っていう物でね、単純に言えば乗り物だよ」
「乗り物…、ですか?」
「構造的に跨って乗るのでしょうか?」
セリアの簡潔な説明にノワールは戸惑い、シャロルは乗り方を言い当てた。
「シャロル正解~。アイラせっかくだし乗る?」
「乗る~!感覚覚えてるかな~?」
今私達がいる場所はそれなりのスペースがあるので、自転車を乗り回す事が出来る。
自転車に乗るのは前世ぶり。当時とは身体が違うし、記憶的な感覚が残っていれば良いんだけど…。
「よっと、…よっ!」
私はサドルに跨って、ペダルを踏んだ。
「おっ!こげた!」
「おお~、さすがアイラ」
「へぇ、確かにあれは移動が楽そうだね」
「なるほど。ああやって使うのですね」
「ふむ、生活圏が広まりそうですね」
私はテンションを上げ、セリアは拍手している。
セレス様、シャロル、ノワールもそれぞれコメントをしてるけど、私は前世の時のようにうまいことこげた事が嬉しくて、ひたすらグルグルこぎまわってた。
しばらくしてからみんなの前に戻り、セリアに感想を伝える。
「乗り心地は悪くないわ。前世の頃の自転車と変わりない」
「でしょ~?前世で自転車部品に使われてた物と近い素材をわざわざ探して取り寄せたんだ~」
「でもこれライトも反射板もないわよ。あとギアチェンジとかないの?」
「あー!そっか!なんか足りないとは思ってたんだよ~!こりゃ改良しないと…」
あちゃーと額を抑えるセリア。どうやら改良のする所はまだありそう。
でもいつか本当に量産して国民に浸透したら、隣町とかまで簡単に行けそう。そしたらもっと経済も動いて…。あ、でもルールとマナーをきっちりさせないとダメか。
他のみんなも試乗したがってたけど、セリアが「改良してから」と言って試乗は見送られた。
その後セレス様と別れ、セリアがまだ見せたい物があるということで、私達は工場を後にした。
出る前にヘーパトスさんを見かけたけど、何やら集中して作業してる様子で声をかけづらかったので、あえてそっとしておいた。




