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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第八章 次の道へ進む時
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新・学院会

視点がアイラから外れます。

 アストラント王国。サブエル学院。

 ここでシャルロッテがナナカに会長立候補を宣言した後、時を経たずしてリベルト王子が副会長や会長補佐等の幹部職の立候補者を擁立した。


 アイラとノワールが去った後ずっと黙ったままだったリベルトだが、ここ最近は何を思ったか僅かに言葉を発するようになり、幹部候補者への立候補の説得も自ら行った。


 そして次期学院会の選挙期間がスタートし、各立候補者が公約を発表。演説も行われ、その後投票が行われた。

 投票の結果、シャルロッテは会長に当選。アイラが望んだ通り、シャルロッテは会長に就任した。


 今回の選挙は学院会内外で話題となり、情報誌を出版して借金問題も露呈させたリーズンログ社も一目置いていた。

 その話題の的というのがシャルロッテ。というのも、各立候補者が周囲にサポートメンバーや応援者を付けていたのに対し、シャルロッテは誰にも頼る事なく一人で全てをこなし、一人で会長職を掴みとったからだ。

 さらに公約発表や演説の際、各候補者がこれまでの学院会そのままの引継ぎを提言する中、シャルロッテだけが違う路線を通っていた。

 シャルロッテが発表した公約は、


 学院会の『活動基本活動マニュアル』と『緊急時想定マニュアル』の設置。

 年間を通しての活動テーマやスローガンの検討および発表。

 在校生主体による『新入生歓迎会』や『卒業生を送る会』の開催。

 アイラが発案し行われた『学院祭』の基礎からの抜本的な見直し。

 様々な運動競技で競う『運動祭』の開催。

 様々な店舗や企業等の協力による『職業体験』の実施。


 というものだった。


 あまりに大量に、あまりに衝撃的にシャルロッテから出された公約を知った学院生達はどよめき、教員達は皆あ然としていた。

 シャルロッテが当選する頃には、既に『天才の後継』という異名がつけられ、リーズンログ社まで取材を申し込む事態となっていた。

 実は公約のほとんどがアイラがシャルロッテだけに話していた事なのだが。


 そしてアイラが龍帝国からグレイシアへ帰国した頃、シャルロッテは学院会室にある会長席に腰かけ、懸命に業務に励んでいた。


「経理部。歓迎会と送る会の予算見積もりはついた?」

「はい。現在詳細をまとめていますので、終わり次第提出致します」

「分かったわ。よろしく。警備部。定期的な鍛錬は全員参加してる?」

「体調不良を除く避けられない用事がある人は理由を聞き出した上で下校させています。口頭ではありますが」

「今後不参加の場合は必ず紙に記入させてから私に提出して。その方が何か問題が発生しても対応しやすいはずよ。それともし記入を拒んだり私に知られる事を嫌がる人がいた場合は、無理やりにでも私のもとに連れてきて」

「承知しました」

「資料管理部は前学院会の記録整理終わった?もうだいぶ日数経ってるけど」

「いえ…、詳細の確認に時間がかかっておりまして…」

「わざわざ詳細を確認せずとも題である程度分かるでしょ!何日かけてやってるの!遅過ぎよ!」

「も、申し訳ありません…」

「特殊調査部は今のところ何も指示出してないけど、何かしてる?」

「警備部に混ざって最低限の訓練と、学院内の警備ルート見直しを…」

「良いわね。それを習慣として怠らないで」

「はい!解りました!」


 シャルロッテの采配に、各部署の新部長を始めとした役員達は必死に働いていた。常に全力で食らいつかないと、シャルロッテの指示に応えられない状態なのだ。

 リベルトが会長だった頃は割とのびのびやっていた事が多く、役員達のペースもゆっくりだった。

 しかしシャルロッテ政権になって以降状況は一変。仕事ペースは急加速し、くつろぐ暇などなくなっていた。

 シャルロッテはアイラに付いていた頃、学院会の行動ペースの遅さを気にしており、彼女から見て行動の速さを持っているのはアイラのみだった。

 ここに着目していたシャルロッテは、次々指示を飛ばす事で止まる隙を与えず、かつ猛スピードで行動させるようにしていた。そうさせないと社会で通用しない事をシャルロッテはアイラから教わっていたのだ。


 一見するとブラック企業のようなやり方をするシャルロッテだが、そんな彼女に対し不満を口にする者はいなかった。そもそも役員達も不満を持っていなかった。

 指示がどれだけ苛烈でも、シャルロッテの言う事には納得出来る点が多く、物事がうまい事進むと必ず褒めてくれる。役員達はそれを分かっていた。

 そして極めつけが…。


「ねぇ、あなたなんだか顔色悪いわよ?大丈夫?」

「え?そう見えますか?今僕はなんともありませんが…」

「そう?念のため今日はもう帰りなさい。仕事はこっちで引き受けるわ。もしかしたらこれから体調が崩れる可能性もあるし」

「そ、そうですか?でしたら僕はこれで…」


 数日前。シャルロッテと役員はこういった会話をしていた。そして翌日、その役員は風邪で学院を欠席した。

 シャルロッテが声をかけた時点で、役員の変化に気づいていたのはシャルロッテのみ。この事に学院会役員は全員驚愕。彼女が役員を一人ひとりきっちり見ている事が証明された。

 シャルロッテの観察眼からなるやり取りは他にもいくつかあり、常に人を心配する事を怠らない姿勢は非常に評判が良かった。

 シャルロッテは毎日のように周囲に対して「無理だけはしないで」と口うるさく呼びかけており、この事から役員や他の学院生は「新しい会長は厳しくも優しい心配りのある人物」という評価が上がっていた。

 こういった事からシャルロッテへ不満を抱く者が現れる事はなく、むしろ皆シャルロッテを大いに評価していた。「さすがは天才令嬢の弟子だ」と。


 凄まじいスピードで書類仕事を次々片付け、新たな行事にも着手。部下に強く当たっても必ず優しさを入れるアメとムチ手法。状況に応じた素早い判断力と即決力。部下のほんの僅かな異変にも気付く観察眼。

 もはや宮殿で働くエリート役人よりも有能と言って良いレベルのシャルロッテの働きっぷりに、ナナカはただただ呆然としていた。

 そんな呆然して固まったままのナナカにシャルロッテが声をかける。


「ナナカ先生。職業体験に協力してくれそうな組織は見つかりましたか?」

「え!?あー、うん。えっと、今はいくつかの会社から返答を待ってるところ」


 ナナカは声をかけられた事に驚き、慌てて返答する。


 シャルロッテの公約は教員達にも影響を与えていた。その代表例が『職業体験』の実施である。

 シャルロッテは会長就任直後に教員達のもとを訪れ、職業体験に協力してくれる企業探しを要請。これに学院長やナナカを始め教員達は難色を示していた。

 しかしその時にシャルロッテは「今まで散々物事を丸投げしてきたんですから、その分この程度の見返りは平気ですよね?」と、全く目が笑ってない微笑みで教員達を脅し、これには教員一同言い返せなくなってしまった。


「そうですか。会社から見ても優秀な人材を見つける良い時だと思うんですがね…。ところで先生、今ボーッとしてました?」

「え!?あ、あははは…」

「先生も出来れば役員達の事見ていてください。別の事考えるのは家に帰ってからでお願いします」

「あ、あはは…。ごめんね?」


 ナナカは頭をかきながら苦笑いする。シャルロッテは小さくため息だけついて書類に目線を戻した。


(あ~、ビックリした!声かけられるとは思わなかった…。

 それにしてもシャルロッテちゃんすごいな…。まるでアイラちゃんを見ているよう…。今のシャルロッテちゃんをアイラちゃんが見たらどう思うかな?もしかしてアイラちゃんはシャルロッテちゃんのこういった力を見抜いてて推薦したのかな?

 それにしても『新入生歓迎会』に『卒業生を送る会』に『運動祭』に『職業体験』か…。これもしかするとアイラちゃん以上にすごいかも…。

 アイラちゃんもシャルロッテちゃんもやる事成す事大人で、行動力や発言力もあって…。なんだか学院生時代に奇跡の秀才とか言われてチヤホヤされてた自分が恥ずかしい…)


 ナナカにとってアイラの功績は圧巻される程のものだった。しかしシャルロッテが行おうとしている事は、うまくいけばアイラの功績を凌ぐ可能性を持っていた。

 本当はほとんどがアイラ発案のものだが、当然ナナカはそのような事実を知るはずもない。

 ただそれでも、アイラの功績もシャルロッテが行おうとしている事も、ナナカには異次元過ぎて理解に至れなかった。


「ナナカ先生」

「ん?なに?」


 再びシャルロッテはナナカに声をかける。ナナカは笑顔を向けた。


「今度、アイラ先輩と親しかった学院会創設メンバーをここに集めていただけませんか?お話したい事があります」

「アイラちゃんと親しかった人達だね。解った」


 アイラと親しかった学院会創設メンバーこそ、今亀裂が生じているリベルト達。

 ナナカはこの時、単に学院会について聞きたいのだろうと勝手に解釈していた。しかしシャルロッテ本人の意図は全く違っていた。


(あの仲間割れした先輩達はいい加減なんとかしないと。特に王子殿下には色々吐かせないと。あの先輩達の仲間割れは、私が強引にでも終わらせる。アイラ先輩も困るだろうし、何より見ててうざい)


 リベルト、リィン、ティナ、ホウ、レイジ、ステラ、ニコル、イルマとエルマの良くない雰囲気は今なお続いていた。

 アイラの友人として親しくしていた面々は、未だ前進する事が出来ていなかったのだ。

 シャルロッテはこの事にイライラが募り、いよいよ我慢できなくなってきていた。そして、アイラの名誉のためにも、自身で無理やりにでも解決させようとしていた。


(アイラ先輩、今どこで何してるのかなぁ。なんかスッゴイ立場に居たりして)


 シャルロッテの何気ない予想は大当たりしていた。

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