グリセリアとアイラの報告
次の報告はセリア。確か紅き宝玉とかいう物手にして魔力を持ったんだっけ?
「んーとね、ある日寝てたらハルク神様に呼び出されて、紅き宝玉とかいう物を手に入れろって言われた。
城の近くに遺跡があって、その中にあるからって」
この城の近くに遺跡なんてあったっけ?とは言っても私まだ土地勘ないから何とも言えないけど。
「ここの近くに遺跡があった事は把握していますが、紅き宝玉がどうしてそのような所に…」
「ハルク神様が生前そこに隠したらしいよ。その時はオリジン様は亡くなってたから言ってないって」
「しかし、今現在もそのような話されていませんが…」
「忘れてたってさ」
「…そうですか。分かりました。先へ進めてください」
オリジン様は何やら知らなかったようで戸惑ってたけど、どうやらハルク様がオリジン様へ話を伝えるのを怠ってたみたいで、セリアからそれを聞いたらオリジン様がちょっと怖い表情になった。
これ後でハルク様は確実に説教されるね。
「指定された場所に行ったらホントに遺跡があって、遺跡の奥に紅き宝玉もあった。
でもってその玉に近づいたら、玉が勝手に浮いて一方的に私の身体の中へ入ってった」
何それ怖い。急に身体の中へ入り込まれるとか怖い。
「そんで落ち着いたら今の状態。ほら魔法の色も独特」
そう言ってセリアは魔法で手に火を起こした。でも何とも禍々しい色。
でも魔法って何かと便利だから、使えるようになって損はない。
「アイラ様。グリセリア陛下の魔法の事で一つ相談なのですが」
ここで突然アテーナが私に相談を持ち掛けてきた。
「どうしたの?アテーナ」
「グリセリア陛下には神力と魔法の制御訓練を受けるよう言っているのですが、全く聞く耳持たずなのです。アイラ様から説得していただけませんでしょうか?」
「そうなの?」
「毎回何か理由を付けて拒否してくるのです。どれだけ言ってもダメでして…」
アテーナだけでなく、アルテも同じように言ってきた。
「セリア?あんたそれはダメよ」
私は割と真面目にセリアを注意した。というのも、私やセリアの場合様々な物事が常人と違う。そういった点を考えると、訓練をきちんと受けておくべきなのだ。でないと、少しでも扱い方を間違えれば人命に関わってしまう。
「身体動かしたくなーい。アイラの特訓見てて感じたけどー、アテーナもアルテミスもスパルタ並なんだもん。女王様は楽していたい」
「あんたねぇ、私達の場合は扱い方を間違えれば人命に関わる可能性があるのよ?技の発動一つで災害級の事態だって起こせる。
時と場合によっては、あんたが起こした魔法によってあんたの側近たる三人や私が危険な目に合う可能性だってあるの。あんたはそれでも良いの?」
「それは…」
「あんたがどうしても訓練したくないと言うなら好きにしなさい。でも万が一力の扱い方を間違えたら、私は許さないわよ?」
「…分かった。やるよ…。周囲を危険にさらしたくはないし」
「それで良いのよ。これからは私も一緒にやるし。アテーナ、アルテ、よろしく」
「ありがとうございます。助かります」
「やっぱりアイラ様が言うと説得力が違いますね」
セリアは私の説得でしぶしぶ訓練を受け入れてくれた。まぁ、無理にでもやらせるけど。
ともあれこれでセリアからの報告は以上らしい。
「次はアイラだね。龍帝国での出来事を教えてよ」
「私も非常に興味があります」
セリアは話を私に振った。オリジン様も龍帝国の事は気になっているみたい。
「ある程度省略はするけど、良いわね?」
多少の省略を宣言した上で、私は語り出す。
龍帝国に到着して宮殿に入った後、キリカからルルを紹介された事。
その日の夜に神龍から念話があった事。
翌日に生贄にされていたランと会った事。
神龍と契約した時の事。
ランを生贄に仕立て上げたコアトルの陰謀の事。
前世以来久々にマジギレした事。
ランを近くで療養させた事。
政府の混乱を治めるために、全政治権限を強制的に回収した事。
私の考えに協力してくれた役人達の事。
ランを新しい首相にした事。
時々キリカの言葉も入りながら、私は龍帝国での出来事を語った。
「最終的に上手くまとまったのですね。安心しました。生贄が必要ない事も証明できたようで何よりです」
オリジン様はホッとした表情を浮かべている。二千年前と同じ事にならなかったか心配だったんだろうな…。
「私はそのランという方が気になります。若くして集団をまとめ上げ、アイラさんが首相に見込んだ逸材…。一度直接お会いしてみたいものです」
オルシズさんはランに興味があるみたい。ラン頑張ってるかな~。
「私はなによりアイラがキレた事に興味あるねぇ。アイラ滅多にキレないし、キレたらメッチャヤバイから」
「あはは…、まぁね」
セリアはやっぱり私がキレた事に興味を示した。前世の頃私がキレた時は大事になったし、そりゃ興味も持つか。
「怒った時であれば、学院の時の乱闘事件とか…」
「私あの時キレてないわよ」
「「え?」」
ノワールは学院にいた頃に発生した乱闘騒ぎの件を持ち出してきた。ノワールはあの時の私がキレていたと思ってたらしい。
私が否定すると、シャロルまで驚いた反応をしてきた。
「あの時は確かに怒りはしたわよ。でも度で言うなら少しだけ。キレてはないし、本気も出してなかったわよ」
「そ、そうだったのですか…。あれだけ苛烈にやったのに…?」
「あ、あれで激怒されてなかった?あんな血だらけだったのに?本気になったらあれ以上…?」
なんだかシャロルもノワールも二人してブツブツ言ってる。そんなに驚く?
「キリカもいたの?その時」
「はい。突然雰囲気が変わられて、態度や口調まで豹変されたので驚きました」
セリアの質問にキリカが答えると、セリアは何かに納得したように何度も頷いていた。
「じゃあアイラのこわーいところ見たんだね~。そのコアトルとかいう奴もフルボッコってところかな?」
「私、未だにお嬢様のそのようなお姿を見た事がありませんが…」
「想像ができないのですが、怖かったのですか?」
セリアは何故かニコニコしている。なんで?
シャロルはまだ見た事がない事に戸惑い、ノワールはキリカに質問した。
「怖かったと言いますか…、恐怖や畏怖といった表現で片付けられるものではありませんでした。私も周囲の者も震えて動けませんでしたし、一部の者は気を失っていました」
「う、動けぬ程の震えですか!?」
「気を失うって、さらに想像着かないのですが…」
キリカの話にシャロルは驚いて、ノワールは戸惑う。
てか、キリカから見てもそんなに怖かったのか。神力効きすぎてたのかしら?なんかゴメン。
「でもそれで悪い奴懲らしめたんですよね?だとしたら怖くても、良い意味で怖いですね!」
フォローしてるのか分かんないけど、リリアちゃんが笑顔でコメントしてきた。
表情から察するに気遣って言っているわけではなさそう。
「さて、私からの報告は以上よ。じゃあリリアちゃん、セリアの悪行報告をお願いね」
「まぁってましたぁ!早速ドンドンお伝えしますよ~!」
私がリリアちゃんにセリアの行動報告をお願いした途端、リリアちゃんは急にテンションを上げた。相当言いたくてたまらなかったんだろうな…。
「じゃあ私は一旦席を外して…」
「待てコラ。逃げんな」
セリアが違和感満載で席を外そうとしたので、私は咄嗟に彼女の腕を掴んで逃げないようにした。
「アイラ~。私アイラがいない間にアイラが喜んでくれる物用意したんだよ?だから、ね?それに免じて許して?」
「まだ何も言ってないというのにあんたは何を言っているのかしら~?許してって言うって事は、自白したって捉え方で良いのよね~?オルシズさんやリリアちゃんやアリスや城の人達に多大な迷惑をかけたって認めるのね~?」
「へ?あ、いや、その…」
セリアはリリアちゃんからの報告が始まる前にアッサリ自供。その後リリアちゃんから語られたセリアの勝手な行為はとにかく酷いものだった。
私は呆れて言葉が浮かばず、他の面々はひたすら苦笑いしていた。
「セリア?あんた今後一秒たりとも休ませないからね?オルシズさんやリリアちゃんの分も仕事してもらうわよ?」
「ヤダ~!休みくださ~い!お願いしますから許して~!もう絶対に仕事放り出さないって約束しますから~!」
私がセリアに罰を言いつけると、セリアは激しく抵抗してきた。
「神に誓って約束しますぅ~!だから休み頂戴~!」
「グリセリアさん、ハルクに誓っても無駄ですよ。彼女も酷いサボり癖ありますから」
セリアの神に誓う発言は、オリジン様によって否定された。
アテーナとアルテもハルク様のサボり癖の事を知っているようで、二人して何度も頷いてた。
「オルシズさん、リリアちゃん。明日はセリアに一日休みを与えてあげてください。私が一日かけて説教しますから」
「分かりました。よろしくお願いします」
「もう二度と逃げ出さない状態にしてください!」
オルシズさんもリリアちゃんもやっぱセリアのサボりに不満を強く持ってるみたい。反応の仕方に力が籠ってた。
「あんたも逃げんじゃないわよ?逃げでもしたら説教一日追加するからね?」
「うぅ…、はい…」
私はセリアを睨みつけて、逃げないよう念を押しといた。
この子のサボり癖はマジで直さないと…。
「リリアからの報告が終わりましたので、予定されていたご報告は以上と認識致します。この辺で私の方から皆さんへ、グレイシア閣僚会議で決定致しました事についてご報告させていただきます」
オルシズさんがみんなの行動を見計らったように話を始めた。どうやら国の会議で決まった事らしいし、これは聞いておかないと。




