到着前
途中で視点がアイラから外れます。
しばらくの飛行の間、暇なのでダラダラしてたら、キリカから声がかかった。
「陛下、間もなくグレイシア王国王都に到着です。到着準備をお願いします」
「はいはい、了解」
私はくつろぎ姿勢から座り直す。
「陛下、今後はどうされるおつもりで?」
「今後って?」
「グレイシア王国ではあまり活動されていなかったのですよね?何かご予定はあるのかと思いまして」
「う~ん、そうねぇ~…。帰ってからじゃないと分からないわねぇ。城の中すら巡った事ないから、まずはそこからかしら?でもなんで急に?」
「陛下の今後のご予定を把握しておきたいと思いまして。私はいつどこでも同行するわけですから」
「なるほど。そういうことね」
急に質問してきたと思ったら、今後のスケジュールを知りたかっただけらしい。
ドラゴ宮殿でキリカから説明をされたんだけど、「龍帝補佐はいつ如何なる時でも龍帝に付き添っていなければならない」という鉄の掟があるそうで、今後は入浴時、トイレ、就寝時以外の時は常に行動を共にする事となる。
私は別に構わないんだけど、そのうちセリアがやきもち焼きそう。
「陛下、到着時の着陸地点はいかがされますか?」
「着陸場所?う~ん…」
現在時刻は午前中。早朝ではないので人々は活動している。
(だとすると、一旦竜が来た事を人々に教えて、その後セリアが対処しやすい場所に着陸っていうやり方が良いか)
「王都上空に着いた段階で一旦低空飛行で街周辺を飛んで。ある程度飛んだら出発した時と同じ城門広場に着陸して」
「御意」
私の目には、既に王都フェルゼンが見えてきている。
ようやく帰ってきた…。みんなどうしてるかしら?ハルク様から聞いた事も詳しく聞かなきゃ。
あと絶対セリアがまたオルシズさんやリリアちゃんを困らせてるだろうから、その辺もキツく説教しなきゃ。
王都までもう少しだ。
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ノーバイン城別館。ここにはまたしてもたまたまアイラと親しい面々が全員揃っていた。
「もうアイラさんに徹底的に叱ってもらいますからね!まったく!」
「なんとでも言えーい。私はヘーキだもん」
「あははは…」
現在別館では、常習的にサボり続けるグリセリアに、リリアが憤慨していた。苦笑いをしているのはシャロル。
三人以外の面々も口には出さないが、シャロルと同様心の中では苦笑いしていた。
「あ~、アイラ早く帰って来ないかな……ん?」
「陛下、どうされました?」
発言を言い切らずに動きを止めたグリセリアに、隣にいたアリスが問いかける。
「今、一瞬だけ陽の光が陰らなかった?」
「鳥か何かでは?よくある話でしょう?」
グリセリアは陽の光が一瞬陰った事に疑問を持ったが、オルシズが鳥のせいとして片付けた。
しかしその直後。
「ワンワンワン!」
オルトロスが激しく吠え出し、ザッハークも普段より高く激しく、何やら嬉しそうに飛び跳ね始めた。
「わっ!わっ!どうしたの!?」
「どうかされましたか?」
リリアが二匹の行動に驚き、シャロルも戸惑う。
「二匹が急に騒ぎ出した…。さっきの陰り…。まさか!!」
グリセリアはハッとして、慌てて部屋の窓を開けた。
「あ…、あ…」
「陛下?」
窓から外を見ておかしな反応をするグリセリアに、アリスは首を傾げて問いかける。
グリセリアの目には、街の上を低空で飛ぶ一体の竜が見えていた。そしてその竜の色は、アイラを迎えに来ていたキリカの色と一致していた。
「竜だ…。あの時の竜だ!帰ってきた!アイラが帰ってきたんだー!!」
グリセリアは興奮した様子で、勢いよく別館リビングから走り去って行った。
「お、お待ちください!陛下~!」
アリスは慌ててグリセリアの後を追う。
「ほ、本当だ!あの時の竜族の人だ!」
「た、大変!急いでお出迎えしなければ!」
「アイラ様…!アイラ様が帰って来られた!」
リリア、シャロル、先に帰還していたノワールも竜の姿を確認し、慌てて走り去って行った。
「ちょっと皆さん、急ぐと危ないですよ」
オルシズだけは慌てることなくクールに後を追った。
「皆様興奮してますな」
「まぁ、一か月以上ぶりだし…」
「しょうがないわよね」
冷静だったトンジット、アテーナ、アルテミスは、ヤレヤレといった表情で、ゆっくり広場へと向かうのだった。
吠えていたオルトロスは、激しく跳ね続けるザッハークを落ち着かせている。
「あ、アイラ様帰ってきました?私もお迎えします。メリッサ、警備お願い」
「ん…」
エウリアとメリッサも情報を得て、メリッサのみ警備に残り、エウリアも別館から離れた。
「はいはい、通るよ!」
グリセリアは全力疾走で城の人並みを避けながら、建物の外へと向かうのだった。




