シュバルラング龍帝国出発
視点がアイラへ戻ります。
シュバルラング龍帝国の中枢、ドラゴ宮殿。の、中にある龍帝居住区。
「えっと…、あれ持った。これも持った。これも問題なし。これは…、一応持ってこ」
私は朝からひたすら荷物チェックを入念に行っていた。
というのも、今日はグレイシアに帰る日。既に朝食も済ませ、準備が整い次第出発する予定。
「龍帝陛下、私の準備は完了致しました。お待ちしておりますので、迅速かつゆっくりと準備をお願いします」
「…それはゆっくりを推奨してるの?それとも急かしてるの?どっちなの?」
先に出発準備を終えていたキリカが、クールな表情でよく分からん事言ってきた。
「次にこちらへ帰って来られた時は、使用人としての腕をもっと向上させてお迎え出来るよう頑張りますね!」
「うん。でもあまり根を詰め過ぎないでね?もし倒れでもしたら怒るからね?」
「あ、あはは…。気を付けます」
使用人としての腕を磨こうとする意思があるのは良いことだけど、ルルは頑張り屋さんなので、あまり無理をしないよう忠告しておいた。
「さて、行きますか」
私も準備を整わせ、龍帝居住区を出る。ルルも正門までは見送ってくれるらしく、私と一緒に付いて行く。
宮殿正門前広場まで向かうと、首相に就任したラン、首相補佐のニースさん、そしてダーナ、オリガ、サララの仲良し三人組がいた。
「行っちゃうんですね、陛下…」
「ダーナ、そう気を落とすな。永遠の別れではないのだ」
「そうですよ。笑顔でお見送りしませんと」
「龍帝陛下、またのお越しをお待ちしております」
「……」
ダーナは少し落ち込んだ様子で、私がいなくなる事を寂しがってくれた。嬉しいな畜生!
そんなダーナの肩を、オリガが優しく叩く。サララもいつもの笑顔で話に乗っかる。
そんで一つツッコみたいのが、ニースさんの旅館の女将が言いそうなセリフだ。
そんな中、唯一ランだけが何故か黙っている。と思ったら、見送る面々の方を向いた。
「皆さん、何か勘違いしてません?」
ランの言葉に、みんな「え?」という反応を見せる。
「ここは今や龍帝陛下のお住まいでもあるんですよ?今の皆さんの発言や態度はまるで『さようなら』と言ってるみたいじゃないですか。
確かに陛下は元々別の国の方ですが、今は龍帝国の代表でもあるんです。なのでここは『さようなら』ではなく『行ってらっしゃい』という態度でいなければ」
ランの言葉にみんな最初はポカンとしてたけど、次第にみんな笑顔に変わっていった。
「そうですね…。首相閣下のおっしゃる通りです」
「ここは行ってらっしゃいですね」
ニースさんとサララが納得の声を上げる。ダーナとオリガも納得したようで頷いていた。私の後ろでルルも「うんうん」と頷いている。
「アイラ龍帝陛下。そして中におられる神龍様。この度は私を救ってくださってありがとうございました。
これからは龍帝国のために、この国の未来のために精一杯働こうと思います」
ランは私に、そして神龍に感謝の気持ちを伝えてきた。神龍も私の身体の中で話を聞いてるだろう。
「私と今周りにいる側近、龍帝国政府の者達一同、陛下のお帰りをお待ちしております。次にお会いできた時は、首相として立派になって見せますから!」
「フフフ…。ええ、楽しみにしてるわね」
グッとガッツポーズを見せて決意を語るラン。その姿が可愛くて思わず頭を撫でた。
そうして話しているうちに、宮殿勤務の役人や兵士、ランとつるんでいたヤンキー達、ヤマタさんとネバダさんのクラッセンご夫妻も来ていた。
「龍帝陛下。改めまして娘をお救いくださった事、お礼申し上げます。今度来られた際には、是非お礼をさせてください」
「体調を崩されませんようお気を付けて。またお会いできる時をお待ちしております」
ヤマタさんから改めてお礼を言われ、ネバダさんが体調の心配をしてくれた。
「ランとの出会いも何かの運命。私は何もしていませんよ。お二人も体調を崩されませんよう気を付けて。色々大変かと思いますが、どうかご無理なさらぬよう」
私は謙虚に返答しておいた。族長であるヤマタさんは龍帝国政府と竜族の民とのパイプ役。つまり挟まれる立場にいる。なので役割的に最も精神面を酷使する。だからネバダさんの言った体調面をそのままお返しした。
「役人や兵士の皆さん。これからはラン首相のもと、新たな龍帝国の形が出来ていきます。その形を形成するのはあなた達です。
龍帝国を今までよりも良い方向へ向かせ、次代へ継承できるよう、全力で奮闘してください」
<<<はいっ!>>>
<<<ははっ!>>>
私が放った言葉に、役人達と兵士達は力いっぱい返事した。
「そこのランのお友達。あなた達のお友達はこれからとても忙しくなるだろうし、大変な思いもすると思う。だからもしこの子の異変を聞いたら、あなた達で支えてあげて。良いわね?」
<<<はいっ!>>>
ヤンキー達も元気良く返事した。うんうん、素直で良い子達だ。
「陛下、そろそろ…」
「ええ、分かってるわ」
キリカは私の耳元でささやいた後、一旦私から離れて竜の姿になった。
私は浮遊魔法で軽く飛んでキリカの背に乗る。荷物は異空間収納の中に入れてあるので、行きと違って手ぶら。いやホント便利だよね。異空間収納って。
「アイラ様!行ってらっしゃい!」
「ええ!行ってきます!」
キリカが飛ぶ姿勢に入った直後、ランが声をかけてきたので私はすぐに返した。久々にランが名前で呼んでくれた。
今回は『さようなら』じゃない。『行ってきます』だ。
キリカは飛行を開始してローリングしながら高度を上げていく。私はその間みんなに手を振り、やがてキリカはグレイシア方面へ進路を向けた。
少しずつ、龍帝国から離れていく。それでも宮殿前広場からの歓声が止む感じがない。もしかして私とキリカの姿が見えなくなるまでやるつもりね?
「歓声が止みませんね」
「そうね。あまり長くやるのもどうかと思うけど…」
「それだけ皆が陛下を慕ってくれていたという事ですよ」
「そうかしら?だと良いけど」
「そうですよ。私だって今陛下のお傍に居られる事が嬉しくてしょうがないんですから」
「あら?嬉しい事言ってくれるじゃない」
やがて歓声は聞こえなくなり、龍帝国の島も徐々に小さくなっていく。
こうして私は精霊、神獣、神龍という三大伝説との契約を済ませ、新たに龍帝という地位も手に入れた。
そして『また帰る』という決意を持って、竜族が住まう国、シュバルラング龍帝国を後にしたのだった。