ノワール対アリス
林の中でも割と開けている場所に移動し、ノワールとアリスはお互い向かい合う。
この場所は足場こそ良くないものの、模擬戦を行うには十分なスペースとなっている。
「それでは…、いざ!」
「……」
アリスは気合を入れて構える。対するノワールは無言不動。
「はあっ!」
先に仕掛けたのはアリス。ノワールへ正面から斬りかかる。が…。
「なっ!?」
ノワールはアリスの目で捉えきれない程のスピードでアリアンソードを振り、簡単にアリスの剣を弾いた。
本来なら剣が交差する場面だったのだが、アリアンソードを振るノワールの速さと、アリアンソードその物の重さで、アリスの攻撃は小石が当たった程度でしかなかった。
剣を弾かれたアリスは、一旦ノワールから距離をとって体勢を立て直す。ノワールからの追撃はない。
「フー…、はあああああっ!!」
アリスはもう一度、今度はさらに力を込めて別角度から攻撃。
「甘いですね」
「!?」
ノワールは一言発言して再びアッサリ攻撃を弾く。
今回のアリスの攻撃は、本来ならばノワールは体勢を変えて防御しなければいけないはずの攻撃。しかしノワールは一切体勢を変えることなく、目線すら変えぬままアリスの攻撃を弾いた。
ノワールはアリアンソードを持つ片腕のみを動かし、アリスの攻撃を弾いたのである。この事にアリスは驚きを隠せないでいた。
「…さすがは半精霊といったところでしょうか。ここまで桁違いとは…」
「誉め言葉として受け取っておきます。私としてはまだ未熟に感じていますが」
ノワールを称えるアリスに、ノワールは未熟と語る。
(これでまだ未熟と言うのか…。これ以上になったらどうなるのだ?想像もつかない…)
アリスはノワールの発言に驚きつつ、呼吸を整えて再び構える。
「スゥー…、……ふっ!」
アリスは今まで以上に集中力を高め、全力でノワールへ斬りかかった。もはや手加減なし。模擬戦で出す実力ではなく、本当の戦闘を意識したアリスの全力全開での攻撃であった。だが。
「そちらが全力ならば、こちらも少し力を入れましょうか」
ノワールはアリスが全力でかかってきている事に気が付いていた。それ故に手を抜いては失礼と感じたノワールは、多少の力を込めて対抗した。
アリスが斬りかかろうとした瞬間に、ノワールはアリアンソードを高速で振る。
剣を弾かれたアリスは、引くことなく何度もノワールへ連続攻撃を叩き出す。
何度目かのアリスの攻撃をノワールが弾いたところで、ノワールは後ろへ大きく後退。そして後退直後にアリアンソードを振り、アリスに向かって波動を発生させた。
「なっ!?ぐううっ!」
予想もしなかったノワールからの攻撃にアリスは驚愕し、本能的な危機感で慌てて防御態勢をとったものの、そのまま吹き飛ばされた。
ノワールはアリアンソードを異空間収納に収納し、飛ばされ倒れたアリスのもとに駆け寄って声をかける。
「大丈夫ですか?もう終了で良いですよね?」
ノワールは微笑みながら、アリスへ手を伸ばす。
「はい、私の負けです。シャロル殿に続いて全く歯が立たない勝負に会うなんて、こんなのいつぶりでしょう?」
アリスも素直に負けを認め、微笑みながらノワールの手を握る。
「勝っておいて言うのも変かもしれませんが、私はまだアリアンソードに頼っているところが多くて、本来の実力的にはまだまだなんです。その点ではアリスさんの方がずっと上かもしれません」
「あら?そうですか?ではその点は追い越されないよう精進せねばなりませんね」
二人は会話をしながら笑みを見せる。その近くで…。
(私のエグリトスに勝っておいて何言ってんのよ…)
(私のフリーザーを圧倒しておきながらまだ上を目指しますか…)
(俺のコレクション以外まで壊す気か?あいつは)
話を聞いていた精霊達のうちの二人と一匹。アグナとネロアとベヒモスは、ノワールがまだ実力の向上を目指している事に呆れていた。
「さて、そろそろ城の門が開門する時間になるはずです。行きましょうか?」
「分かりました。行きましょう」
アリスとノワールは、城の門に向かって歩き出す。
「そういえば女王陛下もお変わりになられたんですよ。ハルク神からのお導きがあったみたいで」
「そうですか。もしかすると、アイラ様とのバランスを取るためなのですかね?」
「あぁ!その可能性はありますね」
「女王陛下はどのようにお変わりになられたので?」
「えっとですね…、まず雰囲気がアイラ殿のように…」
二人はグリセリアの雰囲気が変わった事を話しながら、ともに別館へと向かうのだった。
「…我々は裏の池へ戻りましょうか?」
「そうですね。しばらく休憩しましょう」
「俺もう疲れた…」
「ここでダラけないでよ。体毛全部燃やすわよ?」
「あははは…」
二人を見ていた精霊達は城門前で足を止め、オリジンが城の裏手にある池へ戻る事を発案。
ネロアはその案に賛成し、ベヒモスはその場でダラけた。
アグナはベヒモスを脅して無理やり立たせ、それを見たシルフが苦笑いしている。
こうして精霊達の『一人の少女に装備を継がせる』というプロジェクトは終わりを告げ、ノワール、精霊達は元々いた場所へと帰還したのであった。