神様からの報告
視点がアイラへ戻ります。
シュバルラング龍帝国出発まであと二日。
そんな日の夜、就寝中に天神界へとやってきた。ハルク様に呼び出されたらしい。
「ヘーックショイッ!!ちくしょいっ!!」
「うわぁ!急にくしゃみしないでください!」
会った瞬間に目の前でくしゃみされた。急になんなんだこの神は。
「あぁー…、ゴメンゴメン。ちょっと鼻がムズッとしただけ」
「まったくもう…」
神だから風邪ではないんだろうけど、神もくしゃみするんだね。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「んーとね、現時点であなたが居る龍帝国は混乱から落ち着きを取り戻して、あなたも落ち着く事が出来るようになったわね?」
「はい、まぁ…」
「というわけで、そろそろ他の人達の動きを少しだけ報告しようと思って。オリジンには最低限の定期報告はしてたけど、あなたやグリセリアにはしてなかったから」
「なるほど。グレイシア国内にいる人達の行動報告ですね」
帰ってから聞くつもりではあったけど、ここで先に少しだけでも教えてくれるならありがたい。
ていうかハルク様はいくつの光景をここから見てるんだろう?
「まずノワールね。彼女はあなたが龍帝国へ出発した後、精霊達とともに精霊窟へ出発。問題なく精霊窟へ入ったわ。その後の訓練も順調に突破して、見事私の武器と装備を継承したわ」
「じゃあ、ノワールは試練全部クリア出来たんですね!良かった~!」
「私としても自分が使っていた物を継いでくれる子が現れてくれて嬉しいわ」
私は胸を撫で下ろした。試練だって簡単ではなかったはずだ。それを乗り越えて目的を果たせた事は、友人として何より嬉しい。
ハルク様も自分の装備継承は嬉しいらしい。確かに長い間精霊窟にしまいっぱなしだったわけだから、それを平和的に使ってくれる人がいてくれれば、それほど嬉しい事はない。
「ただ、オリジンも予想外だった事も発生したみたい」
「…え?」
ハルク様が発した「予想外」という言葉に、私の喜びの気持ちが消える。
オリジン様ですら予想できなかったって、まさかノワールが何か代償を負ったんじゃ…。
「彼女、半精霊化したみたいよ」
「…へ?」
「なんかオリジンが言うには、試練前に貸し与えた力とアリアンソードから発せられる力が彼女の中で結合して、それがノワールの身体に完全吸収されたらしいのよ」
「…じゃあ、ノワールは半人半精霊になったって事ですか?」
「そういうこと。半人半神のあなたやグリセリアに近い感じね」
「ええええええ!!?」
ハルク様の説明に驚愕する私。ノワール、人間辞めちゃったんだ…。
「詳細に関してはノワールと精霊達から聞きなさいな。あの子らは既に精霊窟を出て王都に向かっているわ」
「わ、解りました…」
なんともビックリだけど、無事に帰って来てくれるならとりあえずいいや。
「それからグリセリアなんだけど~」
「え?セリアも何かあったんですか?」
予想外の展開に私は驚く。セリアには特にイベントはなかったはずだ。
「あまりにも何もしないものだからここに呼び出して叱ろうと思ったんだけど、……なんか叱る気も失せたわ」
あれ?なんだかハルク様がウンザリした表情をしてる…。セリアは一体何をしたのよ。何もしないのもセリアらしいけど。
「そうそうそれで、私から彼女にある物を入手するよう命じたの」
「どっから『それで』が出てきたのか分かりませんが…、ある物とは?」
「紅の宝玉という伝説の宝具の一つよ。それの入手と吸収を命じたわ」
「入手と吸収?」
「これも詳細はグリセリアから聞いてちょうだいな。今説明すると長くなってしまうから。簡単に言える事とすれば、彼女は現在あなたと同格の神力を持って、魔法も手に入れたって事ね」
「じゃあセリアも私と同じ実力になったって事ですね」
いまいち話が分からないけど、つまりはハルク様の導きでセリアが力を入手したんだろう。帰ったらリリアちゃんの報告も兼ねて聞いておこう。
「それと、あなたの使用人のシャロルも頑張ったみたい」
「え?シャロルも何か?」
これまた予想外。シャロルまで何か動き出したというのか。
「リヴァイアサンに頼んで使用人としての動作を基礎から学び直したみたい。同時進行でアテーナとアルテミスから戦闘訓練も受けたみたいよ」
「そ、そうなんですか?」
リヴァイアサン、つまりトンジット、つまりは爺やからメイドとしての動作指導を受けて、アテーナとアルテから戦闘の指導を受けて…。つまり神獣と神の使いから指導を受けたと。
…一体シャロルはどこへ向かっているんだろう?伝説級から指導を受けたら最強メイドになっちゃうよ?いろんな意味で。
「指導を受けた後に城内で使用人講習があったみたいなんだけど、私見てたらシャロルの動きが完璧すぎたみたいで他のメイドがあ然としてたわ」
他のメイドがあ然とする出来ってどんなのよ。進化し過ぎでしょ。
「あとグリセリアの護衛の…、アリスだったかしら?彼女と模擬戦して勝ってたわよ」
「うえええええ!!?」
本日二度目の絶叫。アリスは騎士だよ!?セリアの護衛だよ!?彼女に勝ったっていうの!?それ以前になんで模擬戦なんてしたの!?
もう既に最強メイドじゃん…。極めすぎでしょ…。
「あとは帰ったら聞きなさいな。オリジンやグリセリアにはこれから状況報告するわ」
「あ、私最初だったんですね」
「とりあえず二人にはアイラが龍帝国でパワハラしたという情報を…」
「もしマジで言ったら今後ハルク様にパワハラしまくりますからね?」
「冗談よ、冗談…」
ハルク様が変な偽りの情報を流そうとしてたので笑顔で圧をかけたら、引き気味に訂正してきた。
「と、とりあえずこれで以上よ。じゃあね~」
「ホントに変な事言わないでくださいよ!?」
離れ行く意識の中で、私はハルク様が失言しないよう念を押しといた。