ノワール、装備正式継承
精霊窟でノワールがオリジンに勝利した後、ノワールと精霊達は皆しばらく休息をとるためにその場に滞在。
そしてアイラがランへ首相就任を願い出た日と同日。精霊窟ではノワールへハルクリーゼが愛用していた装備一式の正式継承が行われていた。
「これで完了です」
「良いじゃない。似合ってるわよ」
「中々様になってますね」
「うん、カッコイイと思う」
「それはまるで鎧を身に着けた聖女様ってか?」
「あ、ありがとうございます…。にしてもこれ思った以上に軽いですね」
現在ノワールは、かつてハルクリーゼが身に着けていた服と鎧を全て装着している。
鎧は全体的に銀色で、肘部分や足首部分等所々が金色になっている。
胴体の腹部部分には鎧が被っておらず、上半身と下半身の鎧は金色の金具で繋がれている。
また、胸板部分にも鎧はなく、胸板部分には黒色、腹部部分には赤紫色の布が見えている。この布は鎧の下に着ている服であり、勿論ハルクリーゼが生前に愛用していた物の一部である。
腰回りからは足の鎧に被るかたちでスカートが流れ、スカート自体も前と後ろに別れている。色はワインレッドで、金色の刺繍が入っている。
首の部分にもスカートと同じ色の高い襟が立っており、そこから背中全体にかけて大きなマントがなびく。マントの色もワインレッド。金色の刺繍も入っている。
一番際立つのが肩回り。片方二つ、両肩で合わせて四つの大きな突起の装飾があり、それが存在感と迫力、そして重厚感を引き出していた。
ノワールの鎧姿を見た精霊達はそれぞれ感想を述べ、ノワールは若干恥ずかしそうな反応を見せる。
しかしそれ以上に、ノワールは鎧の軽さに驚いていた。だが軽いと言ったノワールに対し、オリジンが首を横に振った。
「軽く感じるのは鎧が軽いからではありませんよ」
「え?そうなんですか?」
「鎧自体はかなり重量があります。生前のハルクもしょっちゅう息切れしてましたから」
「それじゃあ、どうしてこんな軽く感じるんでしょう?」
「ノワールさんは半精霊化しました。その影響で身体がどんな重みにも耐えられるようになり、重量の概念がなくなったのです。ですので鎧を装備しても身体が重いと認識しないのです」
「感覚が麻痺した、とは違います?」
「それは違いますね。う~ん、何と説明したら良いものか…」
説明が出来ずに考え込むオリジン。しばらく考えて…。
「まぁ、時間が経てば自然に理解できますよ」
「えぇ…」
説明を放棄した。
「ともかく継承は無事完了しました。これよりノワールさんには鎧姿に慣れていただき、アリアンソードでの鍛錬および、半精霊化した事による魔法や特殊能力の制御訓練を行ってもらいます」
「解りました。格好と武器に慣れるのは理解できますが、魔法や特殊能力はどのようなものが使えるようになったのでしょう?」
「私が確認する限り、ノワールさんは攻撃魔法の使用はできないようです。その分、強力な治癒魔法がっ使えるかと」
「どうして攻撃魔法は使えないんですか?」
「攻撃魔法はいわゆる破壊魔法です。精霊は自然を守る事も使命の一つ。半分だけ精霊と言えど、自然を破壊してしまわないよう、精霊の力が攻撃魔法を止めていると思われます」
「では、特殊能力とは?」
「それはこれから訓練を行いつつ説明致します」
ノワールの質問に答え、淡々と説明していくオリジン。
彼女は精霊としての特殊能力を駆使し、ノワールがどういった力を持ったのかを見極めていた。
「では準備が出来そうなので始めましょうか。まずはアリアンソードに慣れるための鍛錬です。この木製人形を…」
オリジンは淡々と説明。他の精霊達も的となる人形を出す。が。
「いやちょっと待てぇ!また俺のコレクション!しかも別の場所に隠してたやつ!いつの間に掘り出されたんだよ!?イヤイヤそれ以前にこれ以上壊さないでくれえぇぇぇぇ!!!」
精霊窟に入った直後と同様にまたしても自分のコレクションを壊される羽目になったベヒモスは、これ以上壊されまいと抵抗しながらオリジンとノワールに土下座する。
「と、ベヒモス様は申していますが…?」
「知りません。始めて良いですよ」
「はいはい、ベヒモスあっち~」
「あちゃちゃちゃちゃ!!」
「ほら、さっさと端に動いてください」
「ぶうぅぅぅぅぅぅ!!」
ベヒモスの懇願に戸惑うノワールだったが、オリジンは一切構う様子なし。
アグナはベヒモスを強制的に隅っこに移動させるために、火を起こしてベヒモスに近づける。
ベヒモスは逃げ惑うが隅っこには行かなかったため、ネロアが消防放水レベルの勢いで水を発射。水はベヒモスの顔面に直撃し、ベヒモスは飛ばされていった。
その後、シルフがベヒモスを蔓で縛り、ノワールは鍛錬を開始。
試練を受ける前の時とは違い、ノワールはアリアンソードで大量の木製人形を一撃で吹き飛ばし、連撃で粉々にしていった。
「コレクション…。全部無くなっちゃった…」
ベヒモスは自分のコレクションが再び破壊されていく光景を、絶望に沈みながら眺めていた。