露出と大会話
ある日の夜、私は夢の中にいた。そこは前世で私が住んでいた家の自分の部屋。
部屋には大きな鏡が置いてあって、私は鏡の前に立って自分の着ている服を見ている。
でも着ている服は普通の洋服ではない。布面積を徹底的に無くし、肌の露出度を限界まで上げた格好。つまり、超過激なエロいコスプレ。
この夢を見始めた瞬間に、前世の記憶の一部を思い出した。
夢から覚めた私は、起き上がって頭の中で思い出した事を整理した。
前世での私は、ある程度の年齢の時から睡眠時は裸になっていた。というのも、服や下着を身に着けている事があまり好きではなかった。高校に入ってから過激なコスプレに興味を持ち始め、以来普段着も出来る限り肌の露出の多い服を着るようになった。高校の制服だってワイシャツのボタンは外してる箇所の方が多かったし、スカートの丈も下着が見えるギリギリまで短くしていた。
恥ずかしい感覚は全くなく、むしろ解放感があって着心地が良かった。通っていた高校はみんな校則違反な格好をしている人ばかりだったから問題なく過ごせた。まぁ、校則違反は立派な問題だけどね。
しかし、思い出した記憶の中に分からない事がある。それは、私はコスプレ衣装をどうやって入手したのか、誰に作ってもらっていたのか、というところ。コスプレに関してお金をかけていた覚えはなく、私自身裁縫は一切出来ない。
(うーん…、思い出せないなぁ…。これから思い出すのかな?ていうか、この記憶って神力と関係あんのかな?それとも、たまたま思い出しただけ?うーん…)
せっかく前世の記憶の一部を思い出せたのに、なんだかスッキリしない。むしろモヤモヤする。そしてあまり重要でもない記憶が復活した気がする。
私はなんとなく今自分が着ている寝間着を見る。上は前ボタンの服、下は普通のズボン。別に変わった服ではなく、誰もが着るような普通の寝間着なのだけど…。
(ヤバい。急に落ち着かなくなってきた!)
記憶の復活に身体が反応したのか、突然脱ぎたい衝動に駆られた。
とりあえずズボンを脱いで、ボタンを全開にしたところで衝動は治まった。
(はぁ…、今後の服装考えなきゃ…。今までみたいな普通の服装じゃいられないな…。とりあえず起きるか)
直後、シャロルが来たので夢の説明をしておいた。
今日も学院のため、準備に取り掛かる。学院で着ているいつもの服に袖を通したけど、せっかく思い出したんだし、今までと同じ着方だとさっきみたいに落ち着かなくなる可能性もあるので、少し着方を変えてみた。
ワイシャツのボタンの上の方を外し、胸の谷間がばっちり見える状態に。スカートも丈を前世の時同様下着が見えるギリギリまで短くした。もう下着もいらないかと思ったのだけど、そこはシャロルに止められた。
「お嬢様、やはり刺激が強すぎませんか?」
「そうでもないわよ。これで強すぎるんなら、ホウの格好はどうなんのよ」
ホウなんていつもポロリギリギリ状態だし、それに比べれば私のこの格好なんてまだ普通に近いと思う。
今日も馬車に乗って学院へ向かう。入学式して友達と出会ってから、早くも三ヶ月が経過した。だいぶ学院生活にも慣れてきて、友達との仲も深まってきた。
日本の学校では三、四ヶ月くらい経つと夏休みが近づいてくるが、サブエル学院には春休み以外長期休暇が無い。春休みも『準備休暇』と呼ばれている。その代わり正当な理由を持って申請すれば、最長三ヶ月は休んで良い事になっている。ただ、授業内容に追いつけなくなるリスクもある。
話を戻して、学院に到着して教室へと向かう。いつものようにみんなに会うと、私の格好にみんな驚いていた。
「急に大胆になりましたね」
「大胆さはわたくしの方が上ですわ」
「なんだアイラ、家でなんかあったのか?」
「本当、どうかしたの?」
「ホウもそうだが、目のやり所に困る…」
「アイラ様、素敵です!」
「うん、似合っているよ」
ティナは大胆になったと驚いた様子で、ホウは自分の方が大胆だと言う。
リィンは家で何かあったのかと心配してきて、ステラがそれに続く。
レイジは目のやり所に困っている。ホウに対してもらしいけど。
ニコルは素敵と言ってくれた。王子殿下はお決まりのセリフ。
殿下は相変わらずニコニコ顔で、本心なのか世辞なのか分からない。どうしたら見極められるんだろう?
今日の全ての授業を終え、帰りのホームルームでナナカ先生からもうすぐ行われるイベントに関して案内があった。
「もうすぐ武術大会でーす!参加希望者は申込みをしてくださーい!参加条件は廊下等に貼り出されてるお知らせを見てくださーい!」
武術大会。毎年行われている大会で、各学年ごとで武術を競う大会。私も参加予定。
一学年の部、二学年の部、三学年の部で行われていて、優勝者は進級、三学年の場合は卒業が約束される。しかも副賞として優勝時の学年の一年間の学費が全額免除される。ありがたいけど、太っ腹すぎない?
出場条件は近距離戦闘であるという事。魔法の使用は身体強化魔法以外禁止。
ニコルは魔法、ステラは弓矢を使った遠距離戦闘なので出場不可能。王子殿下は剣を使うものの、立場上当然出ない。リィンは王子殿下の護衛として隣に控える為、出場は止められているそう。
残りの私と、剣と盾を使うレイジ、拳のティナ、扇のホウは出場条件をクリアしていて、三人も出場予定となっている。
「今からでもたぎってくるな」
「いいな~。俺も出たいな~」
「ふふふ…、勝ちはもらいましたわよ。みなさん」
「ホウ?不正でもしたら後日ぶっ飛ばしますからね?」
「あはははは……」
「みんな頑張ってね」
「応援してます!」
「遠距離だから出場できないのは悔しいけど仕方ないし、ケガだけはしないよう気を付けてね」
レイジは既にたぎっているらしい。リィンは羨ましがっている。
ホウは何を考えているのか、怪しい微笑みを見せている。その横でティナがぶっ飛ばすとか言いながらホウに笑顔を向けているんだけど、一切目が笑ってない。その笑顔を向けられたホウは、一瞬にして青ざめた顔に変わった。私はそれを見て苦笑いするしかなかった。
王子殿下とニコルは声援を送ってくれて、ステラは悔しがりつつもケガを心配してくれている。
ステラが心配するケガこそが、武術大会のリスク。
大会で使用される武器は切れ味の無い武器を学園側が用意してくれるけど、私やティナみたいに拳等で戦う人には学院側は対応出来ない上、模擬剣等でも当たり所が悪ければ大怪我にもつながる。過去にはケガによって学院生活が困難になり、学院を辞めてしまった人もいたとか。
そんな前例もあってか、両親から出場を猛反対された。でも進級と学費免除に惹かれた私は反対を押し切って出場する事にした。私、普通の身体じゃないからヘーキだし。
シャロルと合流してみんなと別れ、馬車で屋敷へ下校する。その途中、私は神力の事を考えていた。
今も日常生活には何も支障はない。ただ自ら神力を発動させた事も無ければ、使った場合のイメージも全く浮かばないため、大会で使用した場合どうなるか分からない。神様はどんな攻撃でも避けるか防ぐか出来ると言っていたけど、それがどういうものかピンと来ない。
どうしたら良いか考えていた私だけど、この問題は割とあっさり解決する事となる。