ランのもとへ
あけましておめでとうございます。
2020年(令和2年)最初の投稿になります。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
ランがいるという高台の岩場へ到着すると、そこには広場があり、かなりの数の男女がいた。
いるのはみんな若者で、確かに見た目からして不良達だ。ランがこの子らの元締めなのかと思うと、ドラゴ宮殿で過ごしていた彼女からは想像できない。
「あれ~?ランの姉貴の親父さんじゃないスか~。どうしたんスか?てか、後ろの兵士連中なんスか?」
集団の一番手前にいた少年が私達に気付き声をかけてきた。ヤマタさんの事を知っているらしい。
「やぁ、急にすまんな。今はちょっと詳しい話は出来ないんだ。ランはいるかい?」
「居まスよ~。ちょっと待っててください~。呼んできまス。姉貴~!ランの姉貴~!」
少年はランを呼びに行った。ていうか姉貴って呼ばれてるんだ。
他の若者達も私達に気付いてこっちを見てる。若干警戒されてるっぽいけど、ヤマタさん夫妻がいるおかげでそこまでの警戒心は出されてない。
ちなみに私はランの家を訪ねた時同様、キリカやダーナ、兵士達に囲まれているため、不良達から私は見えない。
「姉貴~!急いでください~!待たせてるんですから!」
少年が戻ってきた。急かしてるところ見ると、彼は意外と真面目なタイプなのか?
「何なんだよ、うっせぇな。どうしたってんだよ」
あ、ランだ。てメッチャガラ悪!不良少女だ!ヤンキーだ!言葉使いも荒い!こんなラン、見たくなかった…。
「姉貴のご両親と兵士来てますよ~!早く~!」
「はぁ?…て、父さん!?母さんも!?何よ!なんで来てんのよ!?ここには来るなって言っただろ!」
なんだか強い当たり方…。これは反抗期ね。でもって少年。呼んでおいて事情は説明してなかったのは何故?
「父さんと母さんは別にここに用はない。あちらの方々を案内しただけだ。お前に用があるんだと」
ヤマタさんは話を冷静に私達へまわした。
「ラン」
「久しぶり~。ランちゃん」
「キリお姉ちゃん!?ダーナさん!?」
ここでタイミングを見計らってキリカとダーナが一歩前に出る。ランは二人の登場に驚いている。
「一体どうしたの?…わ、私悪いことしてないよ!?」
ランは急に怯えだした。どうやら後ろの兵士達を見て捕まるんじゃないかと思ったみたい。確かにコアトルに連行された時と似ているのかもしれないから、怯えるのも無理ないか。
「あなたが悪いことをしていない事くらい、私達にも分かるわ。龍帝陛下があなたに御用よ」
「…へ?」
キリカとダーナが横にずれ、私はそのタイミングでランの前に出る。不良達にナメられないよう、神気を若干強めに感じられるようにした。
「ラン、久しぶり。すっかり元気そうね」
「ア、アイラ様!?」
不良少女の雰囲気はどこへやら。すっかり宮殿にいた頃と同じような雰囲気に変わったランに、私は少し可笑しくなってしまった。
「フフフ…。話には聞いてたけど、たくさんお友達を連れてるのね」
「あうぅ~…」
私がランの頭を優しく撫でると、彼女は照れくさそうにした。カワイイ。
「…はっ!お、お前ら姿勢を正せ!この方は新しい龍帝陛下だ!」
<<<オス!!>>>
ランは周囲で仲間が見てる事を思い出し、咄嗟に姿勢を正すよう指示。すると不良達は一斉に姿勢を正した。それはまるで前世の頃にテレビで見た自衛隊や警察学校の生徒のごとく。
ここまで統率とれてるなら大したものね。やっぱりランは指導力に優れてる。
「でもいきなりこんな所までどうしたんですか?御用があるなら私から伺いましたのに」
「わざわざ呼び出してしまうのは悪いかなと思ってね。普段のあなたも見てみたかったし」
普段のランを見れたのは良かったけど、やっぱ荒れてるランは見たくなかった…。
とにかく本題を言おう。
「でもって要件を言うわね。実はあなたにお願いがあってここまで来たの」
「お願いですか?出来る事なら何でもしますよ!アイラ様は恩人ですから!」
可愛く笑みを見せるラン。でも私の願いを受け止めきれるかしら?念のため、クッションを付けておこう。
「あなたのご両親にはもう話したんだけど、ランは私が政府の政治権限を回収した事は知ってるわよね?」
「はい。こんな前例のないことを私が帰った直後にするなんて、アイラ様はスゴイですね!」
「ありがとう。それで今はもうほとんど政府も落ち着きを見せたから、権限もほぼ返したのよ」
「へぇ~。そうなんですか」
「でもね、唯一私が権限を返せていない役職があるの。その立場は誰も決まってなくて、今なお空席なのよ。それで私はね、その立場にあなたが相応しいんじゃないかと思って、それで今日あなたにお願いしに来たの」
私の説明にランは少し考える。
「えっと、つまりその空いてる役職に私が着任してほしいって事ですか?」
「そういうこと」
私はあえて首相とは言っていない。クッションを入れたつもりで。
「う~ん…、思った通りの仕事が出来る環境なら良いんですけど…」
「ある意味思った通りのやり方で仕事が出来るわ。あなたが望む通りに、ね…」
そう、ある意味ね。思った通りに部下と国を動かせる。私はそういう意味で言った。
そろそろクッションなしで言っとくか。
「望む通りですか…。あの、その役職名って…」
「首相」
「……え?」
私はランが質問をし終える前に言い放った。ランはポカンとしてる。
「シュバルラング龍帝国首相。それが私があなたに願う役職よ。ラン、あなたが新たな首相となって、民と国を率いてほしいの」
「……」
<<<……>>>
あれ?誰からも反応がな…。
「えええええええええええええええ!!!??」
<<<えええええええええええええええ!!!??>>>
反応がないと思ったら、数秒遅れでランと不良達から驚きの声が一斉に返ってきた。耳イッタ!
「そんな無理です!首相とか無理過ぎますぅ!出来ないですうぅぅぅぅ!!」
「何でもするって言ったじゃない」
「言いましたけど!次元が違い過ぎます!」
ランは涙目で断ってきた。やっぱこうなったか。
「ちなみに私が今日あなたにお願いしに行く事は政府内の役人達も承知済みよ。みんなあなたが受け入れると思って準備してるわ」
「えええええ…」
「あなたの自由時間や友達との交流時間を奪ってしまうのは申し訳ないと思っているわ。でもあなたしかいないの!」
私は政府内の者達も把握してることをあえて教えて、ごり押しでお願いする。
「あの、せめて理由を教えてください。どうして私なのか」
「まずあなたは今見た限りでも大勢の者を統率出来てる。これは簡単に思えて中々出来ないことよ。それと私が見る限りあなたの精神力はとても強い。重圧にも耐えられる精神があなたにはある。それから物事に関する認知速度と心構え。あなたはそれが早い。それもあるわね。
細かく言えば理由は出せるけど、大まかに言えばこんな感じね」
「で、でも私には役人の経験もなければ政府の方々との交流もまともにありませんよ?」
「交流はこれからいくらでも出来るし、経験だってなくても周囲が手助けしてくれるわよ。厳しい状況になれば私だって手伝うわ」
「……」
「念のため言っておくと、これはあくまでお願い。あなたには拒否権がある。納得出来ないのなら断っても良いわ。別に怒ったりしないから。命令じゃないもの。嫌なら嫌と言ってちょうだいね」
「……」
ランは険しい表情で黙ってしまった。おそらく大真面目に考えてる。
「返答は急がないから。待ってるわね」
私は彼女の頭を再び撫でて、彼女に背を向けた。
「用は済んだわ。宮殿に戻りましょう」
「「御意」」
<<<ははっ!>>>
私の指示にキリカとダーナと兵士達が答える。
「ヤマタさん、ネバダさん。我々はここで失礼します。他の皆さんもごきげんよう」
私は周囲の人達に挨拶をして馬車に乗り込んだ。
クラッセン夫妻は深々お辞儀をし、不良達も頭を下げていた。唯一ランだけが何も反応せず、ただ棒立ちしていた。
「あ、陛下。少々お待ちを」
馬車に乗り込もうとしたキリカが何かを思い出したように乗るのを止め、ランのもとへ行って何かを言っていた。
そしてすぐに戻ってきた。
「お待たせ致しました。すいません」
「何を言ったの?」
「個人的な話です。特に意味の無い事ですよ」
う~ん、なんか気になるんだけど…。まぁ、いっか。
私達は馬車を発進させて宮殿へと戻る。
さて、帰ったら仕事しなきゃ。私は一体いつになったらグレイシアに帰れるのかしら?