ランの家へ
視点がアイラへ戻ります。
新たな首相をランにやらせると決めて以降、私はその話を二日間かけてじっくり宮殿に浸透させた。
確定でないどころか本人に任命すらしていない状態で決行させた行動だけど、ランならオッケー出してくれると私は信じてる!
今日私は、キリカとダーナと複数の兵士を連れて宮殿を出た。目的地は言うまでもなく、ランの家。
彼女が家族で住む家は、宮殿から徒歩で行ける距離にあるらしい。というか数十歩歩けば着くらしい。要は目の前。なのにわざわざ馬車で行く必要とは?
キリカが教えてくれた話だと、ランは竜族の若者達の中でも群を抜いて喧嘩が強いらしい。今まで様々な不良グループに殴り込んでは、一人で全員倒してきたという強烈な強さを誇っているんだそうな。
コアトルに捕縛された時は相手が軍だったために、さすがに抵抗出来なかったようだけど。
ただ、ランが数々の不良グループを潰してくれたおかげで地域の治安は良くなり、ラン自身も一部の不良連中を仲間に引き込んでいたため、警備のような役割も果たしていたみたい。
つまりランは不良グループを潰し、自身のグループを立ち上げたリーダー。不良連中の頭ということだ。
なんとランはヤンキーだった!もしかして木刀とか鉄パイプとか持ってるのかな…。あんま想像したくない…。
そういえば前にランは「はしゃいで周りに迷惑かけた事もあった」て言ってた時があったけど、それってつまりヤンチャして何か壊したとか、そういう事だったのかしら?
とにかく話を聞いて、彼女にリーダーシップがある事、組織を支配し抑え付けるだけの力がある事は解った。そう思うとなおさら首相に就いてほしい。
馬車を使って数十秒でランに家の前に到着。私達は馬車を降りる。あぁ、面倒臭い。この行動。歩きで良いじゃんよ。
降りた後、先頭にキリカとダーナ、二人の後ろに私が立ち、周囲を兵士が囲むように立つというかたちになっていた。万が一危険があった場合に私を守るための対応策らしい。
それにしてもランの家は族長の家系だけあってデカい。一軒家ではあるけど、周囲の家二軒分の敷地はあるんじゃなかろうか。
「ヤマタ殿!ネバダ殿!おりますでしょうか!?」
キリカが大声で呼ぶ。この世界インターホンも呼び鈴もないから大変だよね。
「はいはい、どちら様かな?」
「あら?なにやら複数で…」
少し待ってたら中から人が二人出てきた。
一人は男性で、茶髪のオールバックに武将髭を生やした威厳のありそうな感じの人。おそらくランの父親。
もう一人は女性。ランと同じピンク色の髪で、ロングストレートヘアスタイル。瞳の色もランと同じく黄色。見た目はランそっくり。ランの見た目は母親に似たんだろうな。
ちなみに私は二人が見えるが、位置的に夫婦からは私は見えない。
「これはキリカ殿!突然いかがされました?…おや?ダーナちゃんじゃないか!久しぶりだな!」
「キリカさん、宮殿での頑張りは聞いていますよ。でもあまり無理されないでくださいね。ダーナちゃんは久しぶりね。一段と大人っぽくなったんじゃない?」
「ヤマタ殿、お疲れ様です。ネバダ殿、お気遣いありがとうございます」
「お久しぶりです!ヤマタさん、ネバダさん!」
夫婦はそれぞれキリカとダーナに声をかけ、キリカとダーナもそれぞれ対応する。
ご主人がヤマタさん、奥さんがネバダさんって言う名らしい。
「それで、後ろに兵士さんもいらっしゃるようですが、本当に何か…、はっ!まさか、うちの娘が連行されるようなことを…!」
ネバダさんは兵士を見てランが何かやらかしたのではないかと思ったようで、顔色が一気に青くなった。
まぁ、これだけ兵士引き連れて突然訪ねてきたらそう思うわな。
「ネバダさん落ち着いて。ランちゃんに用があるのは確かだけど、別にそういう要件ではないから安心して」
「本題を述べる前に、お二人にご紹介したい方がおります。今お時間よろしいでしょうか?」
「え、ええ。時間なら大丈夫です」
ダーナがネバダさんを落ち着かせ、キリカが私の紹介へ話を持っていく。
時間が大丈夫であることを確認出来たタイミングで、私は神気を若干放ちながらキリカとダーナの間に出る。キリカとダーナも私の動きを察してくれているようで、ちょっと横にずれてくれた。
夫婦の前に出た後、私は優雅に一礼する。ご夫婦は二人して口を開けたまま呆然としている。神力効いてるねぇ。
「ご紹介します。シュバルラング龍帝国龍帝、アイラ・ハミルトン陛下です」
「初めまして。この度龍帝に就任致しました、アイラ・ハミルトンと申します。何卒よろしくお願いします。突然の訪問、どうかお許しください」
キリカが私を紹介し、私も自己紹介した。ご夫婦は完全にフリーズしていた。
「お、お二人とも~。大丈夫ですか~?」
ダーナが夫婦の前で腕を振り、二人はフリーズから復活した。
「し、失礼…。あなた様が新たな龍帝陛下…。ということは、ランをコアトルの手からお救いしてくださった方…」
「そうですよ。以前ご説明した方です」
ヤマタさんが呆然としながらも私を認識する。キリカも問いかけに答えた。
すると突然夫婦揃って、私に頭を深く下げた。
「ランを!うちの娘を救ってくださり、誠にありがとうございました!心より感謝申し上げます!」
「危険から守ってくださった上に看病までしてくださって、ただただ感謝しかありません。本当にありがとうございました!」
どうやら私はランの事で感謝されてるらしい。でも玄関先でヤメテ。メッチャ恥ずかしい。
「別に感謝されるような事などしていませんよ。神龍と話して契約に生贄は必要ないと認識した後、娘さんからコアトルの横暴を聞きました。私はあくまで残った脅威から彼女を遠ざけさせただけです。
看病が必要になっていたのは仕方のない事でしたが、私はほとんどただ居ただけでした。回復は娘さんの力がほとんどですよ」
私は謙虚に対応する。印象どうこう以前に恥ずかしいから。
「しかし、もし陛下でなければ娘は殺されていたかもしれません。それに一緒に居ただけでも娘は心強かったと思います。本当に、ありがとうございました!」
ヤマタさんは感謝を続行し、ネバダさんも頭を下げっぱなし。ダメだ…、感謝の念が止まりそうにない。
「すいませんが、陛下が困っております。お礼を述べるのはこの辺で」
キリカがようやく止めに入り、なんとか夫婦は頭を上げてくれた。
「陛下。こちらが竜族族長のヤマタ・クラッセンさん。そしてこちらが、奥方のネバダ・クラッセンさんです」
「初めまして。ランの父で竜族の族長を務めております。ヤマタ・クラッセンと申します」
「母で妻のネバダ・クラッセンと申します」
キリカはご夫婦を紹介し、ご夫婦は名乗った上で改めて一礼した。
「なるほど。兵士の方々がいるのは陛下の護衛のためですか。では、どうぞ中へ」
「お邪魔致します」
ヤマタさんは兵士がいることに納得しつつ、中へと案内してくれた。
兵士には玄関で待機してもらい、私はキリカやダーナと一緒にクラッセン邸へ入って行った。




