シャルロッテも宣言
視点がダーナ、ニースから外れます。
アイラがシュバルラング龍帝国政府の役人達に権限回収宣言を行っていた頃。
所変わってアストラント王国、サブエル学院。
「はぁ~…」
ため息を付きながら廊下をトボトボと歩いているのはナナカ。ため息の理由は、学院会の次期幹部候補に関しての事。
現在、学院会次期幹部候補に関しては、各部署の次期部長候補までは決まっていた。だが、選挙日程がギリギリに迫った今なお、『会長』『副会長』『会長補佐』のポジションに誰一人立候補してこないという状況にあった。
この三つの椅子が決まらないという事は、学院会組織が崩壊する事を意味しており、ナナカは完全に頭を抱えていた。
学院会に属している下級生、属していない下級生、ともに学院会に関してはある共通認識が発生していた。それは会長の座について。
下級生にとって会長とその幹部は、学院会の『支配権を得られる立場』というよりも『見せかけの飾りとそのお付き』という認識をされていた。
アイラが国を去り、借金隠蔽が発覚した後、批判を受け続けていた王子だが、借金隠蔽はともかくアイラを政府の手から庇わなかった説明が一切なかった事が災いし、王子の評判は悪評へと変わった。
その結果、今までの学院会の実績は、アイラが行った事を王子が横取りしたものという風に認識されるようになり、その王子と側近がいる学院会幹部は形だけの立場と認識されるようになってしまっていた。
「ナナカ先生」
「あ、シャルロッテちゃん」
沈んだ気持ちのまま歩くナナカを呼び止めたのは、アイラに近かった後輩のシャルロッテ。
「先生、今お時間よろしいですか?」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「学院会の次期幹部候補の名前、どこまで埋まってますか?」
「各部署の部長候補は何とか決まったよ。あとは会長と副会長と会長補佐がまだ…」
「そうですか。でしたらちょうど良かったです」
「え?何が?」
一体何がちょうど良いのか、分からないナナカは首を傾げる。
そんなナナカに対し、シャルロッテの表情に今までの元気な感じは見られず、どこかクールな印象を思わせるものであった。
「先生、私、会長に立候補します」
「え!本当!?」
「はい、本当です」
シャルロッテの発言に、ナナカは子供のようにその場でピョンピョン飛び跳ねる。
「シャルロッテちゃんが会長になってくれたら学院会はきっと安泰だよ~!上級生の活動を引き継いでくれそうな人がいなくてさ~、逆にみんな嫌がる始末で…」
「言っておきますが、私は現在の学院会幹部の行動を引き継ぐ気はありません」
「…え?」
ナナカの喜びを遮るように、シャルロッテは引き継がないと発言。その言葉にナナカは固まる。
「私が引き継ぐべきと思っているのはアイラ先輩の功績です。幹部になってる他の先輩方はそれに乗っただけじゃないですか。特に目立った実績も残してない」
「いや…、それは…」
ナナカは反応に困った。辛辣な発言とは思いつつも否定できなかったからだ。
「もちろん私も乗った中の一人です。当然何の実績もありません。しかしあの先輩方はその自覚をお持ちでしょうか?私はそうは思いません。
そもそも学院会はアイラ先輩が創り出した組織です。さらには幹部を決めたのもほとんどアイラ先輩だと聞いています。であるならば、先輩方はアイラ先輩に感謝し、学院会が崩壊しないよう前進しなくてはいけません」
「う、うん…」
「ですがどうでしょう?現在あの方々はアイラ先輩がいなくなった事に囚われ、アイラ先輩なしでは何も出来ず、あげくの果てに仲が悪くなってきている。結果学院会は悪評を受け続け崩壊しかかってる。これをアイラ先輩が見たら確実に怒ると思います。
ですから私はあくまでアイラ先輩の功績のみを引き継いだ上で、新しい学院会を創ろうと考えています。
もちろん基礎部分は引き継ぎます。でも結局その部分を組み立てたのもほとんどアイラ先輩ですが。
というわけで、私は現在の学院会を引き継ぐ気は一切ありません」
アイラがいなくなった現在の学院会に対する不満を吐いて行くシャルロッテに、ナナカはあ然としたまま返す言葉を見つけられなかった。
しかし言葉を探すうちにアイラから提出されていたあの書類を持っている事を思い出し、ナナカはシャルロッテにそれを見せる事にした。
「そっか…。シャルロッテちゃんはアイラちゃんの弟子同然だもんね。シャルロッテちゃんが会長になったら、きっとアイラちゃんも喜ぶよ。…はい、これ」
「…!これ…!」
「次期学院会運営推薦書。アイラちゃんが提出してきた物だよ」
ナナカがシャルロッテに渡したのは、アイラが記入した次期学院会運営推薦書。アイラがシャルロッテを次期学院会会長に推薦した物である。
「アイラちゃんはシャルロッテちゃんが会長になることを望んでたみたい。こうして見ると、今もアイラちゃんの思い通りに事が進んでるみたいだね」
「アイラ、先輩…!」
アイラが去った今もなお、アイラの思惑通りに物事が進んでいるように感じて苦笑いするナナカ。
シャルロッテはそんなナナカを気にも留めず、推薦書を抱き締め、ポロポロと涙を流す。
アイラに認められようと色々な事を自主的に勉強し、アイラがいなくなった後はその功績を継がんと一人で黙々と準備を重ねてきたシャルロッテ。
彼女はアイラが自分の努力を見守り、去って行った今もこういった形で後押ししてくれている事が、嬉しくてたまらなかった。
「先生、私必ず会長になります。アイラ先輩に負けない功績を作ってみせます!」
「うん、シャルロッテちゃんならきっと出来るよ。頑張って」
アイラが世界に影響を与えかねない龍帝という立場に就き、龍帝国の政治権限掌握を宣言していた時、アストラントでは後輩であるシャルロッテが、アイラの功績を引き継いで学院会会長になることを宣言していた。




