三人に協力要請
龍帝居住区に戻った後、私はキリカに告げた。
「一旦この国の全権限を持たせてもらうわ。私が首相代行をします」
「……」
私の宣言にキリカは黙ったまま。ルルも私に烏龍茶を出した後は何も言わずに待機している。
「視察をして感じたことは一つ。現在の状態では収束は不可能。誰かが他の者を強く押さえつけれる程の強さを持たないと終わらないわ」
「それは承知しております。しかし…」
「今の龍帝国政府の中に強い支配力を保持できる者はいる?私が見る限りいるとは思えなかったけど」
「……」
「私も指揮が得意というわけではないわ。でも龍帝という立場にいる以上、影響力は他より格段にあるはずよ。
このままあなたを首相補佐に置いて無理を強いるわけにもいかないわ。廊下で協力してくれそうな子も見つけたし、良いわよね?」
「…私は陛下の補佐である以上反対は致しません。初の試みであるためにまだ抵抗はありますが、陛下に従います」
「ありがとう。さっきの三人が来るまで何か資料とかない?龍帝国の事を片っ端から知りたいんだけど」
「私の部屋に龍帝国の法律や風習に関する本がありますのでお持ちします」
その後私はキリカから借りた法律等の本を読んで頭に叩き込んだ。
キリカもルルも空気を読んでいるのか、私に声をかけることなく過ごしていた。
時間が経って夕方頃。廊下で会った三人がやってきた。
「失礼致します」
「し、失礼致します…」
「オリガさん、早く入ってください」
ダーナが入って来て、続いてオリガが入ろうとしたけど、緊張してるのかフリーズしていて後ろでサララが立ち往生している。
「三人とも龍帝居住区に入るのは初めてなんですよ。緊張してるんです」
「なるほどね」
キリカが耳元でこっそり教えてくれた。やっぱ緊張してるんだ。
「いらっしゃい。ようこそ龍帝居住区へ。どうぞ座って」
リビングにて私は自分が座っているソファの向かい側に三人を誘導する。キリカは私の後ろに控え、ルルは三人に烏龍茶を出していた。ルル行動が早い。良い意味で早い。
「三人とも服装変えたわね。そのままで来ると思ってたけど」
「あはは…。さすがにマズイかな~って思って、一旦家に帰って着替えてきました」
「あのような姿で失礼しました」
「最近は三人して服装が適当になっていましたからね」
三人は廊下で会った時と全く違う服装で、けっこう綺麗になっていた。
三人とも中華風とアラビアン風が混ざったような装飾の付いた服装で割と豪華な感じ。肌の露出面積も多くて、体格や体型が一瞬で分かる程の露出の多さ。セリアが私に作った露出服とほとんど大差ないんじゃないかな?
この中華風な国でそんな服装があるのは意外。私も着てみたいな~、その格好。
私の発言にダーナは苦笑い。オリガは真面目な表情で謝罪してきて、サララは最近の服装状態を笑顔で話す。
「オシャレしろとは言わないから、せめて見栄えの良い服装を心がけなさいな。で、早速本題だけど…」
私は以後気を付けるよう言った上で本題に入る。三人の表情も真面目になった。
「まずはダーナの質問に答えないとね。私が突然視察してきた事が気になったんでしょ?」
「はい。今日まで一切動きを見せなかった龍帝陛下がどうして急に予告もなく視察してきたか不思議で。もしかしたら何か今の状況を解決させる考えを持ったんじゃないかなって思って…」
「ふぅん。視察する私の様子を探ってたわけか。だから政務室でずっと私の事見続けてたのね」
「申し訳ありません、陛下。ダーナは昔から勝手な行動が多くて、何かを気にし出したり発想したりすると唐突に行動を起こすんです」
ダーナが私を追いかけて呼び止めた理由を話して私がコメントすると、オリガがヤレヤレといった感じでダーナの事を語った。
この三人、もしかしてかなり長い付き合いしてるのかしら?
「まぁ、今回の場合はそれだけ国の事を思っての行動でしょう。悪い事ではないわ。
それで質問の回答だけど、私は神龍と契約して帰って来てから今日に至るまで、あえて部屋に籠っていたの。生贄にされて衰弱していたランの療養のためにね。
そして今日、ランは無事に親元へ帰って行ったわ。同時に私が籠る理由は無くなった。だから未だ混乱状態にある龍帝国政府が、今どんな状態か知りたくて視察を行ったってわけ」
「予告も無しに、ですか?」
私が視察を行った経緯に対して、サララが予告をしなかった事を疑問視してきた。
「キリカにも話したのだけれど、わざわざ予告を行ってしまっては意味がないの。事前に知ってしまったら見栄えを良く見せようとするでしょう?それじゃあ視察をしても正確な現状を把握する事は出来ないわ」
「なるほど。ありのままを見るために…」
私の説明にサララは納得してくれたようだ。
「ダーナ。あなたが廊下でオリガと揉めているのを聞いて思ったんだけど、あなた以前にも独自に現状を変えようと動いたんじゃなくて?」
「あ、あははは…。揉めてるのを聞いただけで分かるなんてさすが龍帝陛下ですね。その通りです。
コアトル元首相や指揮してた人達が捕まって体制が乱れた時に、このままじゃいけないと思って首相代行に立候補しようとしたんです。でもオリガちゃんとサララちゃんに止められて…」
「ちょっと待って。そんな話聞いてないけど?」
ダーナはやっぱり独自で動こうとしたらしいが、キリカが聞いてないと話に割り込む。首相代行が知らないところで動いてたってこと?
ていうかいろんな話がキリカに伝わってないのはどうして?
「ごめんねキリカちゃん。キリカちゃんがいない時にやった事だから…」
「あの時は何を言い出すんだと驚いたぞ。無謀にも程がある。まさか他の者共の前で演説までやりだすとは思わなかったぞ。まったく」
「熱弁していましたね、ダーナさん。誰一人聞いてませんでしたけど」
誰一人聞いてないとか、なにそれ悲しい…。
「そんなことがあったのに私に報告が来ていないのは何故だ?」
「う~ん、私とオリガさんは伝える程の事じゃないと判断しましたし、他の方が言わなかったのも同じ理由か、もしくは認識すらしてなかったか…」
キリカの疑問にサララが答える。けどマジで認識されてなかったら、それ以上悲しいものはない。
「その後も色々考えたんですけど、全部オリガちゃんに潰されて…」
「根拠もない、実効性もない、先が見えない、説明に困る。お前が言い出したものは全部そういったものばかりじゃないか!そんなので好き勝手させられるか!」
ダーナは他にも動こうとしてたらしい。でもってオリガに全て制止させられたと。それで最終的に私に賭けたと。
「龍帝陛下。廊下でもお尋ねしましたが、教えていただけませんか?陛下のお考えを」
改めてダーナが質問してくる。私は微笑みを見せて言葉を返す。
「私の考えは政府や国全体に発表するつもりよ。でも今それを知りたいというなら、嫌でも協力してもらうわよ?それでも良い?」
「考え次第によります」
「おまっ!馬鹿!陛下に喧嘩を売る気か!」
私のちょっとした脅しにダーナは真面目な表情で返答したけど、オリガはそんなダーナの態度に焦っている。
もしダーナが私の考えを否定してしまったら、という予想をして恐れているんだろう。
「まあまあ。良いわよ。教えてあげる。私は龍帝の権限を持って政府の政治権限全てを一時的に回収させていただきます。それが私がやろうとしている策よ」
オリガを宥めた後、私はきっちり宣言した。宣言を聞いた三人は目を見開いて驚いていた。
「それって…、陛下が国の政治権限を全部持つって事ですか?」
「なんと…。陛下は独裁政治でもなさるおつもりですか?」
「コアトル氏でもそれは出来ませんでした。陛下はそれを本気で行うおつもりですか?」
三人から疑問が次々飛んでくる。キリカも前例ないって言ってたし、しょうがないよね。
「あくまで一時的な応急処置のようなものよ。独裁なんてするつもりないわ。
政府にはそれぞれ担当する部署があるでしょ?そのそれぞれの長と首相が決まるまで、全ての権限と責任を私が持つわ。人事が確定すれば確定した直後にその部分の権限を返していくし、決まらないようであれば私からの任命も考えてるわ」
「しかし、歴代の龍帝陛下が政治権限を持った前例は…」
「キリカも同じ事言ってたわ。でもねオリガ、前例がありませんなんて言ってたら何も進まないの。何も解決しないの。何も成長しないの。どういった改革も出来ないの。もしあなたが前例を踏まえた策を持っているのなら聞くけど?」
「いえ、それは…。……申し訳ありません。出過ぎたまねをしました」
キリカと同じようにオリガも前例を使って疑問視してきたので、私は言葉で蹴散らした。
「陛下、私も協力致します。全力でお手伝いさせていただきます!」
「あなたならそう言ってくれると思ったわ。よろしくね」
ダーナは真剣に協力を宣言してくれた。彼女は熱意と行動力を持ってるから心強い。
「これも何かの縁でしょう。私も協力させていただきます」
「ありがとう。よろしく」
サララもおしとやかに協力を申し出た。サララってけっこう柔軟そうだよね。
「……。わ、分かりました。私も協力致します」
「フフフ、よろしく」
オリガは最後まで戸惑ってたけど、ダーナとサララが協力を申し出たことによって拒否できる空気ではなくなり、それに負けたオリガも協力を申し出た。
こうしてキリカ以外にダーナ、オリガ、サララの若手美人役人三人を協力者として付ける事が出来た。
この後私は詳細をキリカを含めた四人に説明。ルルも含めて私が政府に向けて宣言するまで口外しないよう注意しておいた。
明後日、私は権限の全回収を宣言するつもりでいる。
協力してくれる四人は有能そうだし、心強い味方を得たと私は思う。
この国で本当にくつろげる日が来るのは、まだまだ先みたい。




