ラン復活。そして、始動
視点がアイラへ戻ります。
シュバルラング龍帝国。竜族が住まうこの国にやってきてから、早くも二週間が経過した。
でも私は龍帝居住区の中でゆったりくつろいで~、時々ランの事見てあげて~。……神龍と契約して以降何もしない龍帝ってどうなのよ。ホント。
龍帝居住区での生活は何も不自由なく過ごせて、だいぶ環境にも慣れてきた。
私の専属使用人になってくれてるルルともだいぶ打ち解けてきた。さすがにシャロル並の付き合いとまではいかないけど。
私、キリカ、ラン、ルルの四人で暮らし始めた時は、キリカがやたらド緊張していてガッチガチな動作で面白かった。冷静な感じ出しながら一番緊張してたみたい。こういう時カワイイ。
ちなみにここでは当然一人で裸になって寝ている。セリアみたいに誰かがくっ付いてくる事はない。セリアはちゃんと寝つけてるかしら?私の依存症とか言ってたけど…。
国の情勢だけど、龍帝国政府内は未だ荒れている。キリカや臨時で仕切っている役人が頑張ってくれてはいるそうだけど、落ち着きは見られないそうだ。
喧嘩したと聞いていた厨房は、料理人達が勝手に仲直りしたそうだ。人騒がせな。
それから時々ルルが長時間不在で、その後慌てて帰ってくるという事がある。
どうも他の使用人から私の事で質問攻めにあってるらしい。で、それに答えようと喋り出すと時間を忘れてしまうんだとか。……変な説明してないよね?
神龍は就寝前等の誰もいない時にたまにひょこっと出てくる。そして有益な事は一切言わず再び入って行く。暇か、まったく…。
私の能力に関しても異空間収納以降進展無し。夢も見ない。
そんな感じで日数を重ねて行き、そして迎えた今日。一体何があるかと言うと、ランが無事療養を終えて家に帰る日なのだ。
ランの回復速度は驚異的で、彼女を診ていた宮殿専属医師もビックリしていた。
もうすっかり自分で動けるようになり、運動も出来る状態になった事から、通常生活に戻っても大丈夫となったのだ。
私が初めて出会った時のランは、絶望に満ちた今にも崩れそうな状態で、身体も弱々しくガリガリだった。
でも今のランは明るくハキハキした子になっていた。身体もだいぶ肉が付いて健康体になった。
それで気付いたのだけど、ランはとてもスタイルが良い。胸も大きい。そして肌質が良い。セリアが過激な服着せたがりそうなスタイルだった。私も負けないけどね!
ランは療養中にご両親が持ってきた着替え等をまとめ、家に帰る準備を整わせた。
「無事回復おめでとう、ラン。本当に回復出来て良かったわ」
「アイラ様、色々とありがとうございました。初対面の頃から寄り添って優しく接してくださった事、本当に感謝しています。大変お世話になりました」
「私は何もしてないわ。ただ傍に居ただけ。私がした事とすれば、あなたをトイレやお風呂に移動させた時ぐらいよ」
「あはは、それこそお世話になりました」
ランの身体が動かなくなった後、ランは基本的にベッドで食事を済ませ、トイレやお風呂は私が彼女を抱えて連れて行った。つまり私が要介護状態だったランのヘルパーをしていたというわけ。私神体だからランを持ち上げても重み感じないし、中々出来ない経験で楽しかったけどね。
「それより早く家族や友達やご近所さんに元気な姿を見せてやりなさい。きっと心配してるだろうから」
「ご両親によろしく伝えといてね。ラン」
「はい。キリお姉ちゃんも了解!」
私とキリカの発言に元気よく反応したランだけど、直後途端にシュンとした。
「あの…、アイラ様…。また、会えますよね?」
「何永遠の別れみたいなこと言ってんの?会えるに決まってんでしょ。いつか街の案内よろしくって言ったじゃない」
「そういえばそうでしたね…。案内はお任せください!」
ランはまた私と会えるか不安に感じていたようだ。ここまで好かれるとカワイくてつい引き止めたくなってしまう。勿論我慢するけど。
「フフ、よろしくね。とは言っても…、ウヴン!なんでもないわ。それじゃあ、元気でね」
「…?はい、アイラ様もお身体に気を付けて!本当にお世話になりました!」
こうしてランは龍帝居住区から去って行った。これからルルの案内で宮殿正門まで行き、竜族族長であるランのお父さんの迎えで家に帰るらしい。親と再会するのは約半月ぶりだそうだ。
とにかくランが元気になってくれて良かった!
その後リビングに戻った私は、そのままソファでくつろいでいた。すると、一緒にランを見送っていたキリカが質問を投げてきた。
「陛下。ランを見送る際、何か言いかけたようでしたが、一体何を?」
「それはまだ言えないわ。いずれあなたにも言うとは思うけど、今は気にしないで」
「…?はあ、解りました…」
見送る際に私がランに言いかけた事、それは龍帝国政府の現状に関係している。
政府の中は未だ混乱の収束が見られない状態。首相を始め幹部の刷新も図れない状況なのだとキリカから聞いていた。
私はキリカから話を聞いて、やはり速やかに組織再編が必要と判断していた。それを考えた時、私の頭に浮かんだ首相理想像にランがほぼピッタリだったのだ。
ランは政治経験もなければ、そういった組織に関わった経験すらない。単に族長の娘というだけだ。
でも書類仕事はいつでも覚えられるし、彼女が見せていた覚悟や驚異的な復活等を見ていて相当メンタルが強い事は認識していた。私はそこに目を付けた。
どれだけ知識が豊富でリーダーシップを持っていようと、メンタルが強くなければ部下にそこを突かれて確実に負ける。ランならその部分に十分対応できる。
シャルを学院会会長に推薦した時もそうだったけど、知識や判断力、説得力やリーダーシップなんて取り組んでいくうちに身に付けられるものだ。
ではどうして言わなかったのか、答えは単純。私はまだ現場を見ていないからだ。
「キリカ。ランが家に帰ることが出来た以上、私は龍帝居住区に籠る理由を失ったわ」
「…はい?」
「だからランの療養に向いていた意識を、今度は龍帝国政府に向ける」
「さ、左様ですか…」
キリカは私が何を言いたいのか分からないみたい。まぁ、ハッキリ言うけどね。
と、ここでルルが戻ってきた。
「ただいま戻りました。無事に族長様と一緒に帰られましたよ」
「ご苦労様。ちょうど良かったわ。ルル、あなたにお願いがあるんだけど」
「はい!なんでしょうか?」
「このドラゴ宮殿の中を案内してくれない?」
「良いですよ!喜んで!」
私はまずルルに宮殿の案内を頼んだ。政府の事云々の前に、まずは宮殿の中を覚えないと…。
「それとキリカ。現在の政府組織の状態と状況を視察したいわ。宮殿案内も含めて今日中に」
「え!?」
私の言葉にキリカは驚きの声を上げた。
「何をそんなに驚くの?私は龍帝。統治する役割がいくら首相だからと言っても、龍帝が全く現状を把握していないのはおかしい事ではなくて?」
「確かにそれはそうですが…、しかし現在の政府組織は荒れ果てています。政務室もお恥ずかしながらメチャクチャです。そのような状態を龍帝陛下にお見せするわけには…」
「それよ」
「え?」
「それが良くないの。キレイな状態ばかり見せようとして本当の状態を見せない組織体質がダメなの。そんなんだからコアトルみたいな輩が現れるのではなくて?」
「……」
キリカは難しい表情をして黙ってしまった。言い返す言葉が見当たらないようだ。
「とにかく抜き打ちで視察を行います。そして状況を見て私の判断次第によっては、国家統治に関する権限を私が一時的に回収させていただきます」
「「ええ!!?」」
私の発言に、キリカとルルは跳ねるように驚く。
「お、お待ちください!そのような前例聞いたことありません!龍帝陛下自らこの国を統治なさるなど…!」
「前例がありませんなんて言葉繰り返してたら何も物事が前に進まないわ。進化しない組織はいずれ滅ぶわよ。それに一時的によ。新しい首相やその他役職が決まったら、その人達に順次権限を返すわ」
「……解りました。ですが他の者共が納得してくれる保証はありません」
「これは私が言い出している事。責任持って説得するわ」
「す、すごい考え…」
キリカの言う通り私の考えに反対する者も出てくるだろう。でも私は相手が納得するまで説得するつもりだ。
ただこの考えも、まずは視察をしないと何とも言えないけど。
ルルはポツリと一言つぶやいていた。
「ところで話変わるけど、キリカはさっきから何抱えてるの?」
こうして話している間、キリカはずっと服らしき物を腕に抱えているのだ。私はそれが気になっていた。
「これ、元々私が着ていたドレスなのですが、今は着る機会が無くなってしまってずっと押入れに入っていたままのドレスなんです」
「ふぅん、そうなんだ。それでどうするの?」
「実は陛下に差し上げようかと思いまして」
「え?私に?」
「陛下がお持ちされたお召し物は、私が見る限り動きを重視した簡素なお洋服が中心だとお見受けします。ですのでもっと品が立つような服装の方が良いのではないかと思いまして、龍帝居住区に移った際に実家から持って来ました」
「くれるの?やったー!ありがと、キリカ!」
ドレスは数着あって、チャイナドレスみたいな服もあれば、キリカが着ているドレスに近い形状のドレスもある。
「じゃあ早速どれか着て行きましょう!」
「行くって、どちらに?」
「決まってるじゃない。宮殿めぐりと視察」
「もう行くのですか!?いくらなんでも急すぎませんか!?」
「言ったじゃない。抜き打ちって。ルル、着替えの手伝いお願いね~」
「はい、畏まりました~」
「なんでルルはそんなアッサリしてるの!?」
私はルルに手伝ってもらって、キリカから貰ったドレスの一着に身を包み、準備を万端にするのだった。
「即断即決即動…。前例と言う名の概念も通じない…。この方の頭の中は本当どうなっているのか…」
キリカが何かブツブツ言ってるのが聞こえたけど、文句ではなさそうだったので放っておいた。




