姉と妹
下校のためみんなで校門の前まで行くと、私が登校時に乗ってきた馬車とともにシャロルが待っていた。
この学院は正門裏門関係なく、校門付近は馬車が数十台停められる程の広さがある。貴族学生を送り迎えする馬車は、ここで待機する事になっている。
特別な事がない限り馬車は基本的に一旦帰る。学院生の下校時間になると、再びここで待機する事になっている。て、朝にシャロルから聞いた。
当然の事だけど、寮に住んでいる学院生以外の平民生徒はみんな歩いて帰る。この世界に自転車とか無いし。
「あ、お姉ちゃん」
シャロルの存在に気付いたニコルがシャロルに向かって手を振ると、シャロルはこっちへやってきた。私もシャロルに声をかける。
「お待たせ、シャロル。大分待たせちゃった?」
「いえ。先程到着したばかりですので大丈夫ですよ。お疲れ様でございました。妹と知り合えたようでようございました。ニコルもご苦労様。皆様、初めまして。ニコルの姉で、アイラお嬢様の専属メイドとしてお仕えさせていただいております。シャロルと申します。妹が大変お世話になっております」
シャロルは私の問いに答えるとニコルにも労いの言葉をかけ、他のみんなに深々と頭を下げた。
「初めまして。アストラント王国王子、リベルト・アストラントだ」
「アルテミア公爵家のティナ・アルテミアと申します」
「テミナガ侯爵家のホウ・テミナガと申しますわ」
「ファフナー伯爵家のリィン・ファフナーです」
「ステラ・リーズベルトと申します。ニコルとは寮で隣同士です」
「レイジ・クルーガーと申します。同じく寮仲間です」
「やたらドジで怖がりな妹にこれだけの方々が友人になって下さるなんて…感激です。姉として感謝申し上げます」
「ちょっとお姉ちゃん!?大げさだよ~!」
みんなが各々自己紹介すると、その顔ぶれにシャロルは感激して再び頭を下げた。
その時のシャロルの発言を聞いたニコルが、大げさと抗議の声を上げる。すると抗議に対するシャロルの反撃が始まった。
「大げさではありません!あなたという子は地元では友人の一人も作らず、寮に入ってようやくご友人になって下さった人がいたと思いきや、貴族の方々に一方的に怯える始末!今の今までどれだけ心配したことか!王子殿下や貴族の方々と一緒なのはアイラお嬢様を通じてでしょう?いい加減ご友人の一人ぐらい、自ら作れるようにしなさい!」
「シャロル、落ち着いて!ニコル泣きそうになってるから!」
いつものメイドモードではなく、完全に姉モードに入ったシャロルはニコルに説教し出し、それを受けたニコルは半泣きになっていた。このまま続くと終わりがなさそうだったので止めておいた。
「これは皆様の前で大変失礼しました。妹が色々ご迷惑お掛けすると思いますが、どうかよろしくお願い致します。ところでニコル、あなた既に何かしらやらかしていませんか?私は嫌な予感がするのですが」
「大丈夫だよ~。……多分」
シャロルの問いにニコルは弱い反応。再び怒られるのを恐れている様子。
「そういや、今日の朝教室で転倒したとか言ってなかったっけ?」
「あー、寮に入った時も転んだり、物紛失したり、寮内で迷子になったり、あ……」
朝の転倒話をリィンがあっさり暴露し、それに続くようにレイジが寮での事を暴露したけど、再びシャロルが説教する光景が浮かんだようで、途中で「やべぇ」みたいな表情を浮かべた。
そしてそれを聞いたシャロルは数秒固まり、また頭を下げた。
「アイラお嬢様、皆様、ご迷惑をお掛けしまして大変申し訳ございません。迷惑かけているではありませんか!まったく!」
「ごごごごごめんなさい!」
「そもそもあなたはいっつも周りを見ないで歩くから、転んだりぶつけたりするのですよ!気を付けるようお父さんもお母さんもよく言っていたではないですか!しかも寮内で迷子とは何をしているのですか!自分に関わる場所の作りくらい初日に覚えなさい!」
再びシャロルの説教が始まり、ニコルも再び半泣き状態。シャロルは妹に厳しすぎると思う。そしてニコルは弱すぎると思う。
そんな姉妹のやりとりにみんな口出し出来ず苦笑いしつつも微笑ましく眺めているけど、ステラだけが少し寂しそうな顔をしていた。
気になった私は、もし辛い事だったら良くないので、みんなにわからないように声をかけた。
「ステラ、どうかしたの?」
「ちょっとあの二人がさ、羨ましく思ってね」
「羨ましい?」
「私にもお姉ちゃんがいるんだけどね、行方不明なんだ」
「え…」
「うちの両親は厳しい人達でね、対してお姉ちゃんは自由人で、幼い頃からずっと相性が悪かったみたいでさ、しょっちゅう喧嘩してた。でもお姉ちゃんは私にはとても優しくしてくれて、私はお姉ちゃんの事を尊敬してたの。でも一年位前にお父さんと今までにない程の大喧嘩をして、それで家出てっちゃったの。以来ずっと帰って来てなくて、どこにいるのかも分からないの。あの姉妹のやりとり見てたらお姉ちゃんの事思い出してさ、それで羨ましいなって」
なるほど。シャロルとニコルのやりとりで自分の姉の事思い出してたんだ…。
「そっか…。いつかまた、お姉さんと一緒になれると良いね」
「うん。また会いたい。再会して思う存分に甘えたい」
「お姉ちゃん~!もう分かったから~!許して~!」
「分かってません!だいたいあなたは…」
私とステラがそんな話をしている間もシャロルの説教は続いていた。他の面々は、眺めているしかなかった。
その後しばらく待っても止まる様子がなかった為、私がシャロルを止めてようやく説教は終わった。放っておいたら日が暮れるよ。まったく。ニコルに説教し出したら止まらなくなるところはシャロルの悪いところね。帰ったら私がシャロルに説教して直させよう。
そしてようやく解散となり、みんなと別れて帰宅した。