自分の存在について
宮殿専属の医師はすぐに駆け付け、診察の結果、ランの状態は精神的および肉体的な重度の過労と栄養失調と診断され、しばらく療養が必要ということだった。
栄養をきちんと摂ってしばらく安静にしていれば、身体も動くだろうし通常の生活に戻れるだろう、だそうだ。ほらね~?私が言った通りじゃん。
診察が終わった後、キリカとルルが食事を持って来てくれた。
ランは長い間食べ物を摂取してなかったので、胃腸に負荷を与えないよう流動食や徹底的に弾力を無くした食べ物が良いと私は言ったのだけれど…。
「すいません。普通の食事しか用意できませんでした」
と、ルルが謝罪。
「コアトルの事があって混乱の最中だと言うのに、こんな時に料理長と他の料理人が食材の事をめぐって喧嘩したという事態になっていたらしく、まともに厨房が機能してないんです。まったく…」
キリカは不満そうに説明してくれた。厨房も組織崩壊しかかってんのか。大丈夫か?この国。
結局ランは普通の料理を一口にかなりの時間をかけて食べていた。
食事を終えて落ち着いた後、ランがいるベッドの空いたスペースに私が座り、キリカは近くに椅子を持って来て腰かける。ルルは傍で立ったまま。
こうして一か所に集まっている理由は、私がキリカに部屋に来るように言った当初の目的のためだ。
私は馬車の中でキリカがずっと私を見続けている事に気が付いていた。神龍と契約したことで私の瞳の色と雰囲気が変わった事や、キレた時の私の動きに疑問を抱いてたんだろう。
だから私は決めた。アストラントでノワールに全て話した時のように、今ここでキリカとランとルルに自分の全てを打ち明ける。ただランには伝説の事は話してるけど。
「キリカ、ラン、ルル。今から私が話す事はほんの一部の者しか知らないわ。周囲に安易に口外しないで。もし話してしまったら、最悪の場合私があなた達や聞いてしまった人を殺さなくてはいけなくなってしまうかもしれないから」
「そ、そんな重要なお話が!?」
「絶対に言いません!死んでも言いません!」
「わ、私いても大丈夫なんでしょうか…?」
私が口外されないよう脅すと、キリカは目を見開いて驚き、ランは口外しないと誓いを立ててくれてる。ルルは自分も居て良いのか分からなくなったようであたふたしてる。
「落ち着きなさい。とりあえず話すわよ?まずキリカ。あなたが馬車の中でずっと私を見続けていたのは、私が何者なのか考えていたから。だったわよね?」
「は、はい。その通りです。ご気分を害されたようで申し訳ありません…」
「別に怒ってないわ。ルル、あなたは私を初めて見た時、そして龍の間から帰って来た時、どういう風に感じた?」
「えっと…、初めてお会いした時は、こういう言い方失礼だと思いますが、本当に人なのか疑いました。言葉にならない雰囲気をお持ちだったので…。
龍の間からお戻りになられた時は、ただただ呆然とするしかありませんでした。一切何も言葉が浮かばず、何かに圧倒されるような感覚と言いますか…」
ルルはだいぶ言葉を選んで言っている。けど言いたい事は解る。
「もう大丈夫よ。ありがと。本題に入る前にランには既に説明済みの事を言っておくわ」
私はランには説明していたオリジン様の事と、神龍以外に精霊や神獣と契約している事を伝えた。
「先代龍帝が…、精霊の女王…。しかも生贄を逃がした前例があったなんて…」
「精霊様に神獣様まで龍帝陛下の背後に…」
話を聞いたキリカは、オリジン様が二千年前にとった行動に驚き、ルルは契約しているのが神龍だけじゃない事に驚いている。ランは傍観してる。
「じゃ、それを伝えたところで本題ね。私の存在について、教えてあげるわ」
三人とも険しい表情で私を見る。そんな三人に私は語り出す。
アストラントで生まれ育ち、前世の自分を思い出し、ハルク様と出会い、自分が前世の記憶を持った転生者であり神の眷属であることを認識した事。
グレイシアへ移住し、同じ存在の親友と一緒に暮らし、伝説と契約し、自分が龍帝になることもとっくに知っていた事。
キリカが夢で見た女性がハルク様であること。
武術と魔力の他に神力を持っていて、常に他者を圧倒できる力を備えている事。その他色々。
私が話し終えた頃には、三人とも驚きの表情のままフリーズしていた。
「ちょっと~?三人していつまで固まってんの~?お~い」
マネキンプロジェクト並に三人とも固まっていたので、手を振って声をかける。
「……あの…」
ようやくキリカが復活した。
「やっと動いたわね。なに?」
「解釈しますと、ハルク教の神は存在していて、龍帝陛下はその使いで、神龍様との契約も決まり切っていた事だったと…?」
「そういうことよ。理解が早くて助かるわ」
その後ランも復活した。
「アイラ様は神龍様との契約でさらに力を増したんですよね?もうこの世でアイラ様に敵う人なんていないんじゃ…」
「さぁ?それは分かんないわね。でも私はこれからも鍛錬を重ねて磨きをかけるつもりよ。じゃないと今回のランみたいに追い込まれてしまった人を助けらんないし」
「アイラ様…。強くて優しいアイラ様…、私見てみたいです!」
あれ?なんかランの表情がノワールみたいなキラキラで恐い表情になってるぞ?こりゃもしかしてランの押しちゃいけないスイッチ押しちゃったかな?
「私、今後どのように接していけば良いでしょうか…?」
「それ私に聞いちゃマズイと思うんだけど」
最後に復活したルルは接し方を変えた方が良いか迷っているようだ。でもそれは主たる私に聞く事ではないと思う。
「とにかく、陛下のお話は解りました。おかげで私の中で渦巻いていた疑問が一気に解消されました。秘密は必ずお守りすると誓います。
神の眷属たる方を我が国の龍帝として迎え、補佐役としてお仕えできること、この上ない喜びでございます。今後もどうぞよろしくお願い致します」
「私も何かお役に立てそうな事があれば喜んで協力します!必要だったら呼んでください!」
「わ、私も使用人としてもっと頑張ります!」
キリカは深く頭を下げ、ランは興奮気味にやる気を出している。ルルも気合を入れてる。
三人とも良い意味で理解してくれたみたい。
「キリカのことは頼りにしてるわ。でも無理は禁物だからね?」
「御意。気を付けます」
「ランは今は安静にね。しっかり休んで早く元気になってちょうだい」
「は~い。今は休みます」
「ルルは使用人としては優秀だと思うけど、もうちょっとしっかりね」
「は、はい~、あはは…」
私は三人に一言と笑顔を送り、三人とも笑みで返してきた。龍帝国にいる間は、この三人には色々お世話になると思う。
その後話はランをどうするかという話になった。療養が必要になった以上、本来であれば親のいる自宅にいた方が良いだろう。しかし当のランはそれを断固拒否した。帰りたくないと。
どうもランは親と仲が良くないらしい。喧嘩や家出とかにはなってないようだけど、ランとしては極力接したくないみたい。もしかして反抗期?
だったらということで私はこのままここで療養を続けさせることを発案。神龍と契約した龍帝たる私が傍にいれば、ランの両親も文句ないはずだ。
この案にランは何故かノリノリで乗っかり、ルルもサポートする気十分な様子だった。
キリカも承諾し、後日ランの状態ともうしばらく宮殿に留まる事を伝えると言っていた。
それとまだ確定ではないそうなのだけど、近いうちに私は宮殿内の『龍帝居住区』という所に移ってもらうことになるとか。
関係者以外でも龍帝本人の許可があれば出入り可能な決まりらしいので、ランの出入りを許可しておいた。私の目の届く所で療養してもらうんだから、ランも龍帝居住区に入れないと。
話を聞いていたランは緊張気味だったけど、今の状態と変わらないと思うからと声をかけておいた。
その話をして今日は解散。キリカは帰宅し、ランはそのままベッドで就寝した。
私はソファで寝るつもりだったんだけど、ルルがどこからか布団を持って来てくれて、床に布団を敷いてもらって就寝した。
龍帝国に来てから明日で三日目。ここでやるべき事はまだまだたくさん。動き出すのはこれからだ。
………三日経つまでに出来事濃過ぎ。