異空間収納
私は夢を見ている。前世の頃の夢だ。
私は電話で誰かと会話している。と思ったら場面が切り替わり、自分の部屋の整理整頓をしている。
その二つだけが夢に現れて、何も起きないまま夢は終わった。
「ん~、ふあぁ~…」
ソファでの仮眠から目覚めた私はゆっくり起きて身体を伸ばす。
私には布団がかけられていた。おそらくルルがかけてくれたんだろう。
そのルルはいない。部屋から出てるみたい。
窓を見るとまだ明るい。時刻は午後。ベッドにいるランはまだ寝ている。そっとしておこう。
(それにしても今の夢はなんだったのかしら?一つは電話で、もう一つは整理整頓…。う~ん、分からない…)
とても久々に前世の夢を見て、今までも前世の夢が色々ヒントになった事があった以上、自分自身の能力やこれから起こるであろう事と無関係とは思えない。
ましてや神力と魔力がどエライ事になってるんだから尚気になる。
(推測を立てると、電話の夢は念話である可能性が高いわね。離れた所にいる相手と話すって点が共通してるわ。でも今は神龍としか出来ないし、何もしようがないわね。
整理整頓は…、やっぱ分かんない)
推測を立てていると、ふと自分の荷物に目が行った。あまり整理とかしてなかった上、雑に置いてしまっている。
(とりあえず荷物整理しようかな。キリカの背に乗った時も微かに思ったけど、こういう長距離移動とか泊まりとかの時にファンタジーで定番な異空間収納とか使えれば良いんだけどな~。
………待てよ。異空間収納…、まさか)
私は気が付いた。整理整頓には『物を収納する』行為も含んでいる。
そしてその夢を見たという事は、収納能力である『異空間収納』の使用が可能になったんじゃないかと。
(でも結局やり方分かんないし、でも使えれば便利なんだけどなぁ。あ、そうだ。神龍に聞いてみよう。お~い、神龍~)
「……」
「……」
「……」
神龍からは一切返事なし。これが緊急時だったらどうするつもりなのかしら?
それでも異空間収納を諦めきれない私は、荷物整理そっちのけで発動出来ないか挑戦してみた。
腕を伸ばして魔力を出してもダメ。両手を広げてもダメ。それでも私はめげずに時間をかけて魔力の出し方や姿勢を変えて何度も挑戦した。
時間も忘れて取り組んでいるうちに、夕日の光が差し込み始めていた。
(もう夕方か…。思えば私、朝食以降何も食べてないや。でもそれはランやキリカも同じだろうから仕方ないか。
事態の収拾はついたかな?少し様子とか窺えないかしら?)
そんな事を思いつつ、背伸びをしようと思って腕を動かした時だった。
ブォン!
(…え?)
私のすぐ傍で何か音が鳴った。ランが何かした音にしては聞こえた距離感覚がおかしい。でも私の傍には何もないはず。
そう考えながら音のした方を慎重に向いた時、私は驚きのあまり僅かに後ずさった。
(え?え?何コレ?なんか怖…)
私のすぐ隣、何もないはずの空間に、渦を巻いた穴が発生していたのだ。
黒色に限りなく近い紺色で、割と大きくて不気味。
(えっと、えっと、よく分かんないけど恐いから消えて!)
私は突然の事に焦って、頭の中で消えるよう念じた。
(あ、消えた…)
すると、謎の渦は私の思考を読みとったかのようなタイミングで消滅した。
(一体なんだったのかしら?まさかあれが異空間収納だったり…。まさかね)
私はゆっくり渦があった空間に手を伸ばす。その瞬間再び渦は出現した。
(うわぁ!ビックリした!なんなのよこれ!)
私は恐くて渦と距離を置いた。すると渦は私の動きに合わせるように付いてきた。
(私に付いてきてる!?)
渦がなんなのかも分からず、恐くてそのまま立ち尽くしていると、神龍がミニサイズで出てきた。
「おお!やはりか!アイラよ、成功したのだな!」
「成功ってなに?神龍、これがなんなのか分かるの?」
「お主、まさか何も知らずにこれを発現させたのか!?これは異空間収納だ」
「え!?これが異空間収納!?」
どうやら私は挑戦していた異空間収納の発現に成功していたらしい。
あ、そっか。私自身が出現させたものだから、私が離れると付いてきたんだ。
「さっきまで居眠りしていて起きたら渦が見えたからまさかとは思ったが、独自で異空間収納を発現させようとは…。
本来異空間収納は使用できる者の教えを受けるか、資料を読み漁るかしないと発現出来ん。全くの無知のまま発現成功させた者を見るのはお主が初めてだ」
私なんだか神龍も驚くすごい事してたみたい。
ところで私が呼びかけた時に神龍が返事しなかったのは、もしかして居眠りしてたから?
「で、これってどうやって使うの?」
「物を収納したい時はそのまま入れてしまえば良い。取り出す時は出したい物もしくは名前を頭に浮かべれば勝手に手に掴める。
様々な道具から食料から生物までいろんな物が入れられるぞ。ちなみに食料は入れてから腐る事がない。鮮度も温度も保ったままにしてくれる優れものだ。
入れられる期限もない上、限界量もない。中で汚れたりすることもない」
「へぇ~、けっこう万能なのね」
「異空間収納が使える使えないでだいぶ変わってくる。活用すると良い」
そして神龍は私の身体の中へ入って行った。
(ならさっそく試してみようかな~)
私は自分の荷物を異空間収納へ放り込み、直後にバッグに入っていた服を何着か頭に浮かべて手を突っ込んだら、本当にピンポイントで取り出せた。
(これメッチャ便利じゃん!これはたくさん活用できそう!)
まだ龍帝国内の混乱が治まっていないであろう中で、私は嬉しさで良い気分になっていた。
……ところでルルはどこに行ったのかしら?