みんなと食事
みんなで食堂へとやってきた。
食堂のメニューはバリエーション豊富で飽きさせない。
「んー、これうめぇ」
「アイラさん、これ差し上げま…」
「ホウ?好き嫌いはいけませんよ?」
「あははは…」
「俺もこれあげ…」
「ぶっ飛ばすわよ?あんた」
「あははは…」
リィンはハマる味だったのか、黙々と食べている。ホウは私におすそわけしてきたんだけど、ホウの苦手食材だったらしく、ティナに止められて引き戻された。ティナがホウに苦手を克服するようくどくど言い続け、ホウは頭を抱えている。私は苦笑いしか出てこない。
それを見たレイジがステラに対してホウと同じ事をしようとして、ステラに怒られている。それを見ていたニコルも、私と同様苦笑いしている。
王子殿下はそんなみんなのやりとりを眺めながら、黙ったまま微笑んでいる。
「みんなはどうして学院に入ったんだい?リィンやティナやホウなら知ってるけどね。あ、アイラも貴族令嬢だし当然か」
食事がある程度済んだところで、王子殿下が入学の理由を聞いてきた。
王子殿下は立場上入るのは当然だし、護衛であるリィンや婚約者候補のティナやホウも一緒に入って当然。学院への入学は強制ではないけど、貴族の人間は誰もが通うのが暗黙のルールになっている。
「確かに私も貴族ですので入るのは当然ですが、理由もあるんですよ?この国や世界中の事が知りたくて」
「と言うと?」
「文化や風習、生活の仕方や価値観。そういったものは国や地域で大きく異なります。私はそれらをたくさん知りたいんです。その土地の方々と交流してお互い理解し合えば、この国や他国のさらなる発展と深い協力性が生まれると思っています。それが私自身の成長にもつながると思ってますし、みんなももっと暮らしやすくなるんじゃないかな?って。その力を、学院で身に着けたいんです」
私の入学理由に王子殿下が質問してきたので、詳しく語るとみんな黙ってしまった。変な事言った?私。
「なんとも壮大ですわね…」
「最近まで誰とも関わらなかったってのにスゲエ事考えるな。お前」
「素晴らしいと思うよ。僕も見習わなければいけないね」
ようやくホウが口を開いたと思ったら関心している。リィンも関心してはいるのだが、痛いところを突かれた。王子殿下は見習うといっているが、常にニコニコ顔なので本心なのか分からない。
私の世界を知りたい願望は思いつきではなく、ずっと抱き続けている事。そりゃあ私の普通じゃない力に精霊だの神獣だの伝説的な存在が関わってくるんだから当然でしょうよ。
「俺は将来、騎士になりたくてな。自分を成長させるためにここに来た」
「私は親の薦め。私自身夢とか目標がなかったから、そういったのを見つける良い機会になるかなって思って」
「私は、あの…この学院に入れば、お姉ちゃんから話を聞いてたアイラ様に出会えるかなって…」
レイジは騎士を目指しているらしい。既に王子殿下と関わっているんだから、騎士の夢も近いかもよ?
ステラの理由と同じ理由で入学した学院生も少なくないだろう。でも見つけようとする姿勢があることは十分立派なこと。
で、最後のニコルの入学理由が和むわ~。
「私に会うために入学したの?ありがとー。一緒に頑張ろうね」
「あうぅ~、はい~」
私がニコルの頭を撫でてあげると、ニコルは嬉しそうな表情で恥ずかしそうにしていた。
「んじゃ、俺からも質問。みんなって武術系か?魔法系か?文官系か?ちなみに俺は武術で、剣と盾使ってる」
今度はリィンから質問がきた。みんながどういう系か知りたいらしい。
「俺も剣と盾使ってるぞ」
「僕も剣使ってるよ」
「私は弓矢よ」
「私は魔法です」
レイジはリィン同様、剣と盾らしい。王子殿下も剣を使っているようだが、立場上戦争でも起きない限り使う事はないだろう。ステラは弓矢使いらしい。ニコルが魔法使いというのは、シャロルから聞いている。
「わたくしはこれですわ」
ホウが出してきたのは大きな扇子だった。この世界にもあったんだ、扇子。
「これは扇子と言いまして、本来はもっと小さくて暑い時に扇いで風を起こす物なのですが、これは重く頑丈に作られていまして、先にある刃で斬る事が出来るのですのよ」
つまり舞うように戦うって事かな?なんだかカッコイイ。
「その扇子はどこで入手したの?」
「我がテミナガ侯爵家の領地、エドノミヤで作られた物ですわ。わたくしが今着ている着物をはじめ、様々な物を作っているのですのよ」
「確か、職人の精密さと品質の高さで有名だよね?私、着物とか興味あるなぁ」
「よろしければ今度ご案内致しますわ。きっと気に入っていただけると思いますわよ」
「いいの?やったー!」
扇子の入手先を聞いて興味を示したら、案内してくれると言ってくれた。
エドノミヤの職人街は有名で、その出来栄えの良さからどこでも高値で取引される。服関係から武器、家具や生活消耗品まで様々な物を高品質で作っている。私は以前から地名的にも気になっていたので素直に嬉しい。
「次は私ですかね?私は素手、拳で戦います」
「え?ティナも?」
「あら?アイラもですか?」
「うん。拳と足技」
「足技も使うのですね。私は拳のみですので」
「足と、あとは相手の上にかぶさって動きを封じる技とか」
「そうなのですか。色々と話が合いそうです」
「そうだね。今度語ろうか」
ティナも素手で戦うとは意外だった。ティナとは戦い話で気が合いそう。
「この中に素手で直接ぶん殴ってくる女が二人もいるとか…こええぇぇぇ……」
「あはは…頼もしいじゃないか」
「アイラさん、お願いですからティナさんのような暴力的な人にはならないでくだあぁ!」
女子二人で武闘話をする光景にリィンが怖がり、王子殿下が控えめにフォローする。
その後にホウのティナに対する失礼な発言に、ティナの拳がホウの腹部にヒットする。
「みなさん、ホウとともにちょっと一旦失礼します」
「へ?ちょ…、ティナさん?食事の直後は身体を動かさない方が良いですわよ!あああぁぁぁ~!アイラさん!助けて下さいまし~!」
殴られたホウがダメージを受けている間に、ティナが突然立ち上がりホウの腕を掴んで、目が笑ってない微笑みを浮かべながら強引にホウを庭へと引きずって行った。
ホウは抵抗出来ぬまま引きずられ、私に助けを求めた。けど私に今のティナを止める勇気はない。ごめんね、ホウ。どうか無事で…。
ティナのお仕置きを初めて見るニコルとレイジとステラは慌ててたけど、王子殿下と私は苦笑いでリィンはヤレヤレと肩をすくめていた。慌てていた三人には「いつもの事」と王子殿下が説明した。
しばらくして庭の方からホウのものと思われる悲鳴が聞こえてきたのだけど、みんな聞かなかった事にしていた。
さらに時間が経ち、ティナが戻ってきた。ホウを引きずって…。
「みなさん、すいません。ただいま戻りました」
「う、うん。おかえり」
「ホウ?ホウ~?大丈夫~?」
「わたくし…、お嫁に行けませんわ…」
スッキリした表情のティナを王子殿下が戸惑いながら迎え、グッタリしているホウに私は声をかけたんだけど、なんだか変な事言ってる。一体ティナが何をしたのか気になるけど恐くて聞く勇気が出ない。
そんなティナとホウを見て思った。いや、正確には初対面の時から思っていた。
ティナとホウは王子殿下の婚約者候補。貴族令嬢の中で最も王子殿下と距離が近い。本来なら王子殿下の取り合いで対立していてもおかしくないし、悪質な嫌がらせや潰し合い、派閥があってもおかしくない。でも二人は仲が良い。良くなければこんなやりとりは出来ない。私はそこが不思議に感じていた。
「ティナとホウって仲良しだよね。王子殿下をめぐって喧嘩とかしないの?」
「私は特に対立するつもりはありませんでした。悪質な方法で勝ち取る立場なんて気分良くありませんから。ホウは違っていたようですが」
「あー…。わたくしは最初の頃はティナさんを嫌っておりました。鬱陶しい存在、そう思っておりました」
「昔のホウ、ティナに敵意剥き出しだったもんな」
「あはは、懐かしいね」
ティナは争うつもりは元々ないらしいけど、ホウはティナを敵視していたらしい。リィンと王子殿下も知ってるみたい。
なお、この時既にホウはティナにぶっ飛ばされたダメージから復活している。あれだけグッタリしてたのにどれだけ復活早いのよ。
「しかし、ある日殿下に『これ以上ティナを嫌うなら、僕は君とは口を聞かない』と言われまして」
「それでようやくホウが折れたんだよな」
「あはは、懐かしいね」
「急に謝ってきたので驚きました」
なるほど。王子殿下が二人の仲を繋げたんだ。
「それまではホウがずっとティナに嫌がらせしてたけどな」
「あれ、嫌がらせと言うのでしょうか?」
「どういうことしてたの?」
ホウはティナに嫌がらせしていたみたいだけど、ティナはそれに疑問を持っている様子。
聞いてみると、ティナとリィンと王子殿下がそれぞれ答えてくれた。
「私が転倒するように果物の皮を仕掛けられたのですが、私の目の前で仕掛けていたので、当時の私はホウが何をしたいのか分かりませんでした」
「廊下に紐を張ってティナを転ばせようとしていたけど、目立つ色の紐を張っていたからバレバレだったね。その後、紐を変えて気づかれにくくなったけど、そのせいで別の人が転んでしまってホウが怒られていたね」
「上から水が降ってくる仕掛けを必死に作ってたな。まぁ、水の入ったバケツを仕掛けに付ける前にホウがすっ転んで、辺りに水ぶちまけてたけどな」
「そういえば、火を使って何かしようとしているところを見た事がありましたけど、途中で火がホウの服に引火して大変でしたよね」
「ウォッホン!もう良いではありませんか!昔の話ですわ」
ティナ、リィン、王子殿下から次々出てくるホウの失敗談に、ホウが顔を赤くしながら声を上げる。そりゃあ、こんな失敗談を次から次へと暴露されたら恥ずかしいよね。私と平民三人は、ただただ苦笑いするしかなかった。
それにしてもホウはいつからティナにぶっ飛ばされるようになったんだろう?
「アイラ、今思い出したのですが」
「ん?何?」
ホウがぶっ飛ばされる事を疑問に思っていると、ティナが話してきたので、私は飲み物を口にしながら反応する。
「大聖堂でアイラの前で白く強い光が放たれたって本当ですか?」
「ぶうぅぅぅぅぅぅ!!」
まさか聞かれると思っていなかったティナからの質問に、私は思いっきり飲み物を噴いた。
「ちょっとアイラ!何してんのよ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あーはっはっはっは!アイラ汚ねー!」
私が噴きだしたのが若干かかったステラは驚いて怒ってきて、隣にいたニコルが慌てて布巾を用意してくれた。リィンは爆笑してる。
「げっほ!げっほ!はぁ、ごめんごめん。げほ…。ティナ、どこでそんな話聞いたの?」
「以前パーティーでアイラの事を聞きまわった時に、一部の人からその話を聞いたのです。その時に聖堂にいた人物と、入学式で見かけたアイラが似ていると」
「大聖堂の謎の光の事なら僕にも話が届いてる。聖堂全体を覆う程の白く強い光が水晶から放たれて、治まると水晶の前に人が倒れていたと」
シャロルから状況を聞いていたとはいえ、ここまで知られているとは思わなかった。考えが甘かったな、私。
「その話初めて聞くが、その水晶の前で倒れていたのがアイラなんだな?」
「アイラ、あんた一体何したの?」
レイジが話の内容が解ったようで参加し始め、ステラが呆れた様子で聞いてくる。
「いや、あのね、他の人と同じように水晶に魔力を流して、安心した瞬間に急に水晶が光りだして、その後は覚えてないんだ。気が付いたら家のベッドにいたって感じで…」
両親の時と同様、神様と話してたなんて言えるわけないから、覚えてない事で突き通す。
「そうなのですか。では、アイラも原因が分からないのですね」
「あれから身体の異常や不自然な事はありませんか?」
「うん。別に何ともない」
ティナが納得し、ホウの心配に私が答えたところでこの話は終了した。あー、ビックリした。誤魔化すの一苦労だよ。
そうして会話していたうちにだいぶ時間が経っていたので、食事を終らしていた私達は食堂を出た。