アイラ、キレる
洞窟から出た私とラン。しかし二人揃ってポカンとしてしまった。
それは何故かと言うと…。
「どゆこと?みんなは?」
私達が乗って来た馬車はある。誰かがいた形跡もある。なのに誰もいない。
「入った時、確かにみんなここにいたわよね?」
「はい。洞窟は一本道でしたから、出口も間違えようがありません」
誰もいない事に戸惑っていると、空から轟音が聞こえた。
驚いて空を見上げて、さらに驚いた。
「な、なにをしてるの!?一体!」
上空では何頭もの竜が飛び回り、時々爆発が起きていた。まるで竜同士で戦闘しているかのよう。
「何が起きてんのよ…」
「分かりません。でも戦闘しているのは確かです」
「私達と同行した面々が戦闘を?」
「おそらく…」
とりあえず戦闘を止めるべきかしら?でも止め方が分からない。
(普通に声をかけてもあれじゃあ聞こえないでしょうし、戦闘状態って事はみんな興奮状態であることを意味する…。
動きを止めて気を落ち着かせる方法…。…ん?セリアがよくやってるやり方ならみんなの興奮を抑えつけることが出来るはず!)
「ラン。私ちょっと雰囲気変えるけど、戸惑わないでね」
「え?はい、分かりました…」
私は親友が女王様モードの時の姿を思い出していた。強気で威圧感満載の時のセリア。それを参考にする。
自信の気を上げて、覇気の代わりに神気を纏わす。
そして上空にいる竜達を睨みつけ、大きく息を吸って叫んだ。
「私がいない間に何をしてるの!!あなた達はぁぁぁ!!!」
さすがに私はセリア程言葉を乱暴に出来ないので、若干言葉丁寧に言ったけど、声を十分聞こえたはず。
上空にいる竜達は一斉に動きを止めてこっちを見た。
そしてそのままゆっくりとこっちに向かってきて、みんな人の姿に戻った。
なんかみんなおそるおそるな感じで立っている。
「私が龍の間にいる間に何をしていたの?まさか遊んでいたとか言わないでしょうね?」
私は睨みを強くさせて威圧感を上げる。神気のおかげで十分迫力があるはずだ。
「い、いえ、その…、あの…」
あれだけ冷静だったコアトル首相が震えた声で喋れなくなってる。
他のメンツも口を開く様子がなかったので、私は一つの仮説を言ってみる事にした。
「私とランが龍の間に行っている間に、首相派と反首相派で生贄の事で揉めて喧嘩になって、そしてお互い竜の姿になって戦闘していた、というところかしら?」
私が仮説を述べると、みんな目を見開いていた。どうやらビンゴかな?
「やっぱりね。生贄は必要なかったわ。ほら、この通り」
私はみんなの目線をランに向けさせる。するとキリカと一部の面々が泣きそうな表情になった。
「ラン!」
一番最初にキリカがランに抱きついた。泣きそうになっていた面々も続くようにランを囲む。
「ラン!良かった…。生きているのよね?本当に、良かった…」
「お帰りなさい!ランちゃん」
「お帰り、ラン」
「無事で良かった!」
ランが歓迎されてる。やっぱりランを助けようと動いてたんだ。
私はコアトル首相や歓迎していない面々に視線を向ける。
「あなた達はランが戻ってきたことを歓迎出来ないみたいね。逆に自分達には都合が悪い、といったところかしら?
事情聴取事項はたくさんあるけど、まずあなた達はこれを見てどう思うのかしら?」
私はランが歓迎されている様子を見ながら、首相や歓迎していない面々に問いかけた。
「どういうことです!生贄は必要なはず…!」
「それはあなた達の誤解。本当は必要ないのよ。先代龍帝が神龍と契約した二千年前だって、生贄をこっそり国外に逃がしてるんだから。龍帝国には死んだと伝えてね」
「なっ…!くっ…、嘘だ!そんなはずがない!生贄がいなければ神龍との契約は出来ないはず!だからこそあの小賢しい族長への見せしめで娘を生贄にしたというのに!………あ」
はい今アッサリ白状しました~。確実に私情挟んでランを生贄にしたよね?コイツ。
「竜族の族長と対立し、存在が気に入らないからと見せしめのために生贄を利用して娘を消そうとした。そうして族長を惑わせ弱らせた上で潰し、自分のやりたいように国を支配しようとした。違う?」
「ほとんど合っております。陛下」
私の推測に答えたのはキリカだった。
「コアトルは自分のやりたいようにするためにランを陥れました。私はこの者達とランを救出するために動きました。コアトルの後ろにいる奴らは皆、コアトルの手の者です」
やっぱりランの知り合いはキリカと協力してランを助けようとしてたんだ。
てことはさっきの戦闘はやっぱりそういった対立か。
「…っ!そもそも、あんたは本当に神龍と契約したのか!?途中で引き返してきたんじゃないだろうな!?
ああ、引き返してきたんだな!どうせ恐いからとかの理由で引き返してきたんだろ!この臆病者め!貴様のせいで私の計画は水の泡だ!」
「フッ…!フフフ!アハハハハハハ!!」
「な、何がおかしい!」
興奮と焦りからなのか、私が神龍と契約したかを疑った上、契約していないと決めつけ、私を臆病者呼ばわりする始末の首相に、私は思わず笑ってしまった。
ランという可愛い少女をここまで追い込んだ怒り、キリカや他の面々の精神的負担、国の支配に私を利用しようとした怒り、あげく臆病者呼ばわりされた不快感。
私の心の中でいろんな感情が怒りとなって込み上げてくる。こんな感情は前世の頃に生徒会長を病院送りにしたあの時以来。サブエル学院での乱闘時もこうはならなかった。
どうやらコアトル首相は、超えてはいけない線を越えてしまったみたい。
「貴様、誰に向かって口を聞いている?」
「え…」
私は殺気を放ち、口調を変えた。私の豹変に首相たちもキリカ達もランも後ずさる。
これが私がマジギレした時の状態。この時だけ、一時的に口調が変わる。
「己の欲望と私情だけで物事を動かそうとする我儘でクズな貴様が、龍帝たる私に対してどういう態度で接しているんだと聞いている!」
「ひぃっ!」
「ひぃぃぃぃ!!」
私の殺気に完全にやられたコアトルやその仲間はどんどん下がって行く。
コアトルの後ろにいた奴も悲鳴を上げていた。
(アイラよ、ここは我の出番だ)
(あ、はいはい。了解)
神龍は自分が出る幕と判断したようだ。私はそれに応じる。
「まぁ、良いだろう。今回は特別だ。疑うのなら、貴様に証拠を見せてやる」
「へ…?」
ここでタイミングを合わせて神龍が金色の強い光を放ちながら、轟音とともに私の身体の中から出現する。もちろん本来のサイズで。
「ぁ…、…ぁ…」
「こ、この方が…、伝説の…」
コアトルもキリカも他の面々も、神龍の姿に圧倒されて言葉が出ないみたい。
さてさて、ランを苦しめたコアトルとその愚かな仲間達にお仕置きの時間だ。




