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異世界で最強 ~転生と神の力~  作者: 富岡大二郎
第七章 それぞれの行動と進歩
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ノワール、第一の試練

視点がアイラから外れます。

 アイラとラン、そして神龍が龍の間にて話し合いをしていた頃。


 精霊窟内のある広間。


「はあぁ!!」

「グガガァァァァァ!」


 現在この場所では、ノワールがハルクリーゼの装備を継承するための第一試練が行われていた。

 相手はアグナの幻影獣エグリトス。

 エグリトスは巨大な狼のような姿をした幻影獣で、全身に炎を纏っている。当然炎は本物。

 しかしノワールは自分が火傷や引火等を負う可能性を顧みず、果敢にエグリトスへ攻撃。ダメージを与える事に成功していた。


「ガアアァァァ!!」

「遅い。はぁっ!」


 ノワールはただ攻撃するだけでなく、動きながら頭の中で相手の弱点や攻撃パターンを冷静に分析していた。

 エグリトスが炎を纏った足でノワールへ攻撃しようとも、ノワールはあっさり回避。さらにはその隙を突いてノワールが攻め込むという展開が、戦闘開始直後からずっと続いていた。

 常にノワール優勢の状態が続いており、そんなノワールの動きはとても戦闘初心者とは思えぬ動きであった。

 これには精霊達も驚きを隠せず、あ然としていた。


「あいつってさ、確か実戦未経験とか言ってたよな?」

「模擬戦すらしたことないと言っていたと思いますが…」

「エグリトスもそう弱くはないはずなんだけど…」

「炎の近くでも怯まないのは、すごい…」

「これは予想外ですね…。ノワールさんが強い覚悟をお持ちなのは分かっていましたが、どうやら持っていたのは覚悟だけではないようですね。

 しかし本当に炎に怯まず果敢に攻めるとは…。本人火傷していてもおかしくないはずなのですが…」


 ベヒモス、ネロア、アグナ、シルフがそれぞれ感心を口にする。

 オリジンはノワールを分析しているものの、他の精霊と同様に感心していた。

 ルーチェ、パリカー、マーナも声には出さないものの、驚いているのは同じだった。


 ここでエグリトスが仕掛ける。

 口から凄まじい勢いの炎を纏わせた熱風を竜巻状に出し、かなりのスピードでノワールへ発射した。


「っっっ…!!」


 ノワールは攻撃を回避しきれず、エグリトスの攻撃をまともにくらった。

 普通なら丸焦げ確定の状況だが、これはあくまで試練なのでその状態は精霊が許さない。ということで攻撃がノワールに直撃する直前にネロアがノワールの周囲に水幕を展開。ノワールへのダメージを下げた。

 しかしそれでもノワールのダメージは大きく、彼女は全身のいたる所に火傷を負い、服も焼け焦げて煙を出していた。


「ありゃもう無理だろ。普通の人間なら死んでてもおかしくねえし」

「あ。でも、ほら…」


 これで終わりだろうとベヒモスは予想したが、シルフは指を差してベヒモスに見るよう促した。


「はぁ…、はぁ…、まだまだ…」


 ノワールはふらつきながらも立っていた。俯いた状態からエグリトスを睨みつけて。


「あいつまだやる気かよ!」

「フフフ…、良いじゃない。そうじゃなきゃ試練の意味がないわ」

「……」


 ベヒモスはノワールがまだ戦闘続行する気でいることに驚き、アグナは笑みを浮かべる。

 オリジンは黙ったままなにやら考え事をしていた。


「まだ、最初の試練…。まだ何も出来ていない…。私は必ず強くなる…。だから…」


 ノワールは呟きながらゆっくり歩き出すと、火傷を負っているとは思えぬ速さで突撃を開始した。


「こんな所で終われるかあぁぁぁ!!」

「!!」


 直後、ノワールはらしくない程の叫び声を上げ、エグリトスへ向かう速度を加速させた。

 そんなノワールの気迫に、エグリトスは若干怯んだ。


(…!今だ!)


 エグリトスの隙をノワールは見逃さなかった。

 ノワールは一撃をエグリトスの顔面にくらわせた直後、複雑に動き回ってエグリトスを混乱させた。

 そしてノワールは横から連撃を開始。一切防御出来ずにいたエグリトスは連撃をまともにくらう。


「はぁっ!せいっ!はあぁぁぁ!!」

「グフッ!グガアァァァァ!!!」


 連撃の最後、ノワールはエグリトスの下に潜り込み、剣をエグリトスの腹部に深く突き刺した。

 そのまま力いっぱいにエグリトスの腹部を切り裂いて行き、エグリトスは悲鳴を上げた。

 ノワールのこの攻撃が致命傷となり、エグリトスは悲鳴を上げたまま粒子となって消えていった。


「はぁ…、はぁ…、うっ…」


 エグリトスが消えたと同時にノワールも立っていられなくなり、その場に倒れた。

 勝利した彼女も全身のほとんどに大火傷を負った重傷状態になっていた。


「お疲れ様でした。今傷を癒します」


 駆けつけたオリジンによって、ノワールの身体は傷一つない状態に戻った。服は焼けたままだが。


「ありがとう、ございます…。すいません、どうも着替える力すら残ってないみたいです…。このまま少し、寝ても良いですか?」

「構いませんよ。今はお休みください」

「はい。ありがとうございます…」


 ノワールはオリジンに承諾を得ると、そのまま睡眠状態へとおちた。彼女にはもはや意識を保つ余裕すら残っていなかったのだ。


「しかしこりゃあ予想外だぜ。ここまでやれるとは」

「エグリトスが負けるなんて考えもしなかったわよ。私は」


 精霊達は皆、これは試練であり生死を問う戦いではない、という認識でいた。ゆえにノワールが幻影獣に敗北したところで、戦い方次第で合否を検討するつもりでいたため何ら問題なかった。

 実際戦闘前にノワールに伝えた内容は『幻影獣と戦え』というものだった。つまり『勝て』とは言っていなかったのである。

 しかしノワール本人は違った。『言われてなくとも勝たなければ意味がない』というのが彼女の認識だったのだ。

 結果、ノワールは生死に関わる領域に達する程の戦い方で、幻影獣にまさかの勝利をしてしまった。

 そのためノワールの戦いは、精霊達の予想と予定を叩き壊す状況にしてしまった。


「これからも…、こういう戦い方、するのかな?」

「可能性はあるでしょう。しかし命を捨てるかのような戦い方を繰り返すのは…」


 今回のノワールの戦い方は、彼女が果敢に攻め続ける事が多かった。

 シルフとネロアは、ノワールがこの先の試練でも同じように猪突猛進的な戦い方をするのではないかと心配していた。


「それはないと思います」


 しかし心配をする二人の予想を、オリジンが否定した。


「ノワールさんの動きを見る限り、単純に突撃や攻撃をしているわけではなく、相手の弱点や動きを分析しつつ仕掛けているように思えました。

 おそらくこれからの試練では、相手の特性次第で戦い方を大きく変える可能性があるでしょう。

 彼女は戦闘未経験と聞いていましたが、本当にそうであれば、普段の自主鍛錬と精霊窟に入ってからの鍛錬の間に、独自で戦闘方法を身に付けた可能性があります」

「短期間で技を独学でね…。確かにそう考えれば、あの戦闘も理解出来るけど」


 オリジンの見解にアグナが頷く。


「もし今後ノワールさんが戦い方を切り替える事をしてくれば、彼女がこの試練で全戦全勝する可能性もあるかと思います。そしてアリアンソードを手にすれば、アイラさんやグリセリアさんに引けを取らない強者になるかもしれません」

「「「「……」」」」


 オリジンの見解に他の精霊達は黙り込む。誰もがオリジンの話に納得していたからだ。

 そんな精霊達の傍で、ノワールは静かに寝息を立てていた。

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