生贄の経緯
私は隅に座っていたランを呼び出し、ともに龍の間の真ん中に座る。
さっきはフリーズしていた彼女だが、今は再起動できたようだ。
「ラン、平気?目の前で非現実的な事が起きてるから驚いてると思うけど、今気分悪いとかない?」
ランは無言で頷く。どうやら大丈夫らしい。
「あのね、ラン。ここに到着する前、私が『生贄は必要ない』的な事言ったの覚えてる?
もうあなたには証明出来たと思うけど、これは事実なのよ。とは言ってもピンとこないだろうし、順を追って説明したいわ。
もし良ければなんだけど、あなたが生贄にされた経緯を教えてくれない?」
いきなり生贄が必要ない事を告げて一方的に説明したところで、言われた方はポカンとするだけ。
ランへの対処も考えて、まずはランがどうして生贄になったのか、生贄にされた後どうしていたのかを聞かないと。
「…私は」
ランが言葉を発した。というか、ランの声を初めて聞いた。
「私は竜族の族長の娘として、でも分け隔てされる事なく、他の人達と同じように普通に暮らしてきました。ちょっとはしゃいで周りに迷惑かけちゃった事もあったけど、大きな罪になるような行為は一つもしてません。
でも、新しい龍帝陛下の候補が儀式で出たって聞いた後、突然コアトル首相がやってきて私に言ったんです。『お前を新たなる龍帝の生贄とする。拒否権も発言権もお前にはない』って。
そして私は訳が分からないまま拘束されて、家族や友達とお別れも出来ずに牢屋に監禁されました」
事実ならあのコアトル・ダーハカは相当悪い奴だな。
「どうして私が生贄になったのか最初は見当が付かなかったんですけど、時間が経って思い出したんです。父とコアトル首相はとても仲が悪かったって。
それがきっかけで私がコアトル首相の企みに利用されたと確信しました。同時に自分の生涯に終わりが訪れようとしてる、と」
「それで、全てに絶望した、と?」
私の問いにランは頷く。
「はい。納得出来ない最後を私は迎えるんだって思って、だったら自分の今までの時間はなんだったんだろうって。そう思って何も考えられなくなりました。自分は死ぬんだって、そればっかり思って。でもある時にキリお姉ちゃんが来て…」
「キリお姉ちゃん?」
「キリカ・フィクサリオです。龍帝補佐官の」
「あぁ!キリカの事ね!お姉ちゃんって呼ぶ間柄なの?」
「はい。幼い頃から一緒に遊んだりしてくれて、たくさん面倒見てくれて。私にとっては姉のような存在なんです」
なんだ~。キリカはこの子とそういう関係だったんだ。
政府と民の対立がどうとか言ってたけど、冷静な雰囲気出してる割に内心妹のような存在を助け出そうと必死だったんじゃないの?
「それで、キリお姉ちゃんが言ったんです。『生贄なんて本当は必要ない。新しい龍帝陛下がそれを証明してくださるはずだから。だからもう少し耐えて』って。
その後はずっと牢屋に一人で居て、後は今日の馬車の前からの事になります」
「そっか…。話してくれてありがとう」
私はランの頭を軽く撫でる。
話を整理すると、詳細こそ分からないもののコアトル首相は意図的にランを生贄に仕立て上げた。そうしてランを無理やり牢屋に入れた。
その後ハルク様によって生贄が必要ない事を知ったキリカが、私が助ける事を前提にランを励ました。でもって今日、か…。
ランのお父さんとコアトル首相の仲が悪いってところに何か理由がありそうだけど…。キリカは報復のためにコアトルが仕掛けた的な事言ってたけど、本当にそれだけで一人の少女をここまで追い詰めるかな?
コアトル首相に何らかの計画があるとすれば、この子を殺した先に次なる企みがありそう。
「あのそれで、私は助かるんですか?」
私が考え整理して考え込んでいると、ランがおそるおそる聞いてきた。
「そうだったわね。その説明をしないと」
私はランに生贄が必要ない事を知っている理由と、ここに至るまでの経緯を話した。
まず私が精霊と契約している事。そして精霊の女王が先代龍帝であり、生贄が必要ない事を聞かされた事。
先代龍帝も二千年前当時に生贄をこっそり逃がしている事。
今回も生贄を救うため、そして竜族の誤解を解くため、神龍と昨日から念話で話していた事。
大雑把に話したけど、聞いていたランはあ然とした表情になっていた。
「まぁ、話はこんなところね。信じられないでしょうけど」
「あの…、精霊様と契約されてるんですか?それで神龍様まで…」
「正確には現時点で精霊、神獣、神龍と契約してるけど?」
「……」
ランがおそるおそる確認してきたので、神獣とも契約している事を伝えると、ランは完全に固まった。
「ラン?お~い、ラン~?」
彼女の前で手を振るが、全く動かない。
「アイラよ。この娘、完全に自身の許容範囲を超えておる。時間が経たんと整理が付かぬだろう」
やっぱそうだよね~。伝説と契約してましたって言われたらこうもなるよね~。
いやむしろ、ランはよく信じてくれたな。あ、既に神龍見ちゃってるわけだし、それもそうか。
「あ、えっと、それで、私は家に帰れるんですか?」
しばらく経ってやっとランは復活した。けど驚いた内容は全て棚上げしたようだ。
「今はなんとも言えないわね。普通に帰れる可能性もあれば、二千年前と同様に私と国を出る可能性もあるわ。ここを出てからの判断次第ね」
「そう、ですか…」
帰れるかどうかは分からないことを告げると、ランはシュンとした表情になった。
「どうあれまずはここを出ないといけないわ。そしてコアトル首相や他の人達の反応次第であなたの立場も変わってくる。
それに対応するために、まずは一緒に予想と対応策を考えましょう?神龍も」
「応」
「は、はい。分かりました」
こうして私は神龍、ランと一緒に、今後の行動についての話し合いを始めるのだった。
活動報告を更新しました。
今後、活動報告を更新した時にはこのようにご報告する事にしました。
大した事は記載しておりませんが、ご覧いただけたらと思います。