洞窟にて
私とランは洞窟の中を歩き続ける。
洞窟と言っても、天井のところどころが吹き抜けになっていて、光が差し込んでいるのでさほど暗くはない。懐中電灯無しでも歩ける。
でも足元はとても悪いし、入ってからずっと登りだったり下りだったり。道が一本で分かれ道が無いのが救いだ。
これで分かれ道があったら確実に迷子だよ。
「ラン平気?足元気を付けてね」
私の問いかけにランは僅かに頷くだけ。
彼女はさっきからフラついているので気になっていた。相変わらず繋ぐ手の力は弱い。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアイラ。グレイシアっていう国から来たの。これでも一応貴族よ。よろしくね」
私は気分を変えようとランに話をかけるが、彼女は何も反応しない。
「龍の間はもう少し先かしらね。そもそも龍が居れる空間ってどんなのかしら?」
と、私が特に何も考えず言葉を発した瞬間、ランから震えを感じ取った。
「どうしたの?寒い?」
私の問いにランは首を横に振った。寒くはないらしい。
ということは、この状況下で身体を震わす事は一つだけだ。
私は思い切って聞くことにした。
「ねぇ、ラン。あなた、ずっと死ぬことばかり考えてるでしょ?」
「…!」
「神龍にどう殺されるとか、もしくは私が暴力的にあなたを死に至らしめるとか、そういう事ばっか考えているんじゃなくて?」
「……」
私の問いにランは一度身体をビクッとさせ、その後は明らかに動揺している表情になった。
(龍の間に入る前に少しでもこの子を落ち着かせないと…)
天神界でハルク様に抱きしめられた時のような不思議と落ち着く感じの事は出来ないけど、私はそれに近くなるように僅かに神力を発動させて、ランを抱き締めた。
「大丈夫よ、ラン。あなたが死ぬことはないわ。私は知ってるの。生贄無しでも契約が可能ってことを。だから大丈夫」
私はゆっくりランを解放する。彼女は困惑した表情を浮かべていた。
やっぱハルク様のようにはいかないな。今度ハルク様からあの技教えてもらおう。
「龍帝国政府の目もあるし、あなたを洞窟に入れざるを得なかったの。でもここじゃあ待たせるのに環境が悪すぎるわ。だからひとまず一緒に龍の間に行きましょう。あなたはその場にいるだけで良いの」
「……」
私の言葉にランは一切反応無し。ここまで反応ないとなんか悲しい。
「さあ、行きましょう」
私は再びランの手を取り、二人で神龍が待つ龍の間へ歩き出した。
いつになったらランの声を聞けるのかなぁ…。