精霊窟到着
視点がアイラから外れます。
時間を巻き戻して同日のお昼過ぎ。アイラが昼食を摂っていた頃。
「この先が…」
「ディゼフォーグ地帯です」
ノワールが呟き、オリジンが後付けする。
アイラを見送った後に精霊窟へと出発していたノワールと精霊一行は、精霊窟への通り道となるディゼフォーグ地帯の前にいた。
ノワールが呟いているのは驚きのため。先があまりにも見えないためだ。
「ノワールさん、ここから先は私と手を繋いで歩いてください。でないと一瞬であなたが迷子になってしまいます」
「分かりました。お願いします」
こうしてノワールと精霊一行はディゼフォーグ地帯へ足を踏み入れた。
精霊達は通常の生物では習得不可能な力を使い、霧の中でも自身の位置、周囲の仲間の位置、方角全てが認識出来る。
しかし当然ながらノワールには全く何も見えていない。ノワールはその恐怖と戦いながら、オリジンと繋いだ手を絶対に離さないようにする事だけを意識していた。
(本当に何も見えない…。解るのは足音とオリジン様の手の温もりだけ。
ここに入って行ったっていう人は命知らずだわ。でも確かにこの中であれば、伝説の一つや二つあってもおかしくないわね)
ノワールと精霊達は止まることなくどんどん進む。
「ノワールさん、止まってください」
しばらく歩いたところで、オリジンがノワールを止めた。
オリジンはノワールを止めるために身体を寄せたので、現在ノワールもオリジンが目の前にいる事を認識出来る。
「どうしました?オリジン様?」
「到着しました」
「え?」
精霊窟に到着したと言うオリジン。しかしノワールからは何も見えない。
「私には何も見えないんですけど、入口はどこに?」
「今あなたと私が立っている所が入口です。入るための魔法陣が張ってあります」
「あ、普通の扉などの入口じゃないんですね」
「ええ、そうです。ではベヒモス、魔法陣発動をお願いします」
「了解。任せろ~」
ベヒモスの声と同時にノワールとオリジンの足元が光り出す。
「ではノワールさん、ここからが本番です。中に入りますよ」
「は、はい!」
「それとベヒモス。何故ドヤ顔しているのか知りませんが、ノワールさんには見えてませんから」
「ですよね~…」
こうしてノワールと精霊達は、伝説の洞窟である精霊窟へとワープしていくのであった。
この時点で実はノワールが人類で初めて精霊窟に足を踏み入れた歴史的瞬間だったのだが、これからの試練の事を考えていたノワールは一切そのことを気にしなかった。




