神獣を連れて帰宅
王都フェルゼンへ戻ってノーバイン城の城門前まで来ると、アリスが門の前にいた。
「あれ?アリス」
「お帰りなさいませ。アイラ殿、アテーナ殿、アルテミス殿。女王陛下よりアイラ殿が戻られ次第城門から同行するよう命令を受けまして、ここでお帰りをお待ちしておりました」
「そうだったの?なんでわざわざ?」
「女王陛下がおっしゃるには、アイラ殿が神獣様を連れて帰ってくる可能性があるから念のため、と」
あ~、確かにセリアの読みは的中してる。爺やとオルトロスとザッハーク連れてきちゃったし。
「…アイラ殿、やはり雰囲気変わられましたね。女王陛下から聞いてはいましたが」
「あ~、やっぱ変わった?そう見える?」
「はい。明らかに雰囲気が違う感じが…。あのところで、先程からアイラ殿の手のひらで動いている丸い生物は一体?それとそちらの方と犬はどちら様ですか?」
私の雰囲気が変わったと言っていたアリスだが、途中から神獣達の事が気になったようだ。
まぁ、アリスからしてみれば見知らぬ人と犬と生物だもんね。
「えっとね、ここだと説明しずらいんだよね…。二匹とこの人の入城許可って下ろせないかな?」
今私達がいるのは城門前。門番もいれば通行人もいる。ここじゃ神獣とか言えない。
「ご事情があるとお見受けします。入城許可でしたら私が下ろしましょう」
「ありがとう。それじゃ別館に行こう。爺やとオルトロスも付いてきて」
「畏まりました。お邪魔致します」
「ワン!」
ということでアリスと合流した私は、護衛二人と神獣を連れて別館へ向かった。
「一応言っておきますが、アイラ殿もグレイシア貴族の一員なので、城への入城許可を下ろす権限はありますよ」
「あ、そうなんだ…」
そういえば私、侯爵なんだっけ。自分がグレイシア貴族だって事忘れてた…。
これはいけないわね。私未だにお客様気分だ。いい加減気持ちを切り替えないと。
そういえば領地の件はどうなったんだろう?ある程度の場所は決まったのかしら?
別館入口に着くと、エウリアとメリッサが門番をしていた。
「ただいま、二人とも」
「おかえりなさい。アイラ様」
「…ん…」
エウリアは笑顔で、メリッサは無表情で迎えてくれた。でも二人ともそれ以上は何も言わなかった。
思えば二人とも私の雰囲気の事とか神獣との契約の事とか色々把握してるわけだから、特に何か言う必要がないんだ。
一切言わないって事は、連れてきた二匹と一人が神獣だと見抜いているっぽいな。
「ただいま~」
「アイラ~!おかえり~!」
「お帰りなさいませ。お嬢様」
「アイラさん、お帰りなさい!」
「どうも、お邪魔しています」
私がリビングに入るなり、セリアが私に抱きついてきた。
シャロルは普段通りの対応で迎えてくれた。
今回はリリアとオルシズさんもいる。リリアちゃんは元気いっぱいに、オルシズさんはクールに迎えてくれた。
普段当たり前にいるノワールはいない。多分自室にこもりっきりなんだろう。
「ただいま、みんな。アテーナとアルテもお疲れ様。護衛ありがとね」
「勿体なきお言葉です」
「特に何もしてませんよ」
私は護衛二人を労った。二人は実に謙虚な反応。
「で、アイラ。さっきから足元でポヨンポヨンしてるこいつ何?あと、その隣にいる犬とそこの爺さん誰?」
ザッハークは私がセリアに抱きつかれる前に床に降ろしたけど、以降ずっと私の足元で跳ねている。
オルトロスはおとなしくしてるし、爺やは私の後ろでニコニコしていた。
「城門前でアリスにも同じこと聞かれたわ。説明したいから座らせて」
私はリビングのソファに腰かけた。アリスと爺やも座る。
オルトロスはソファ近くの床に座って、ザッハークはテーブルの端にいる。
アテーナとアルテは他の天神界メンバーに報告しに行くと言って別館から出て行った。
キッチンではシャロルが飲み物を用意している。
「まず先に紹介するわ。この人はトンジットさん。私は爺やと呼んでいるわ」
「初めまして。トンジットと申します」
「はぁ、どうも。私はグレイシア王国女王のグリセリアだ。で、アイラ。この人は神獣と関係あんの?普通の執事に見えるけど?」
「どこかの貴族の使いの方ですか?かなり経歴の長い方とお見受けしますが」
みんなから見て爺やはどっかの執事にしか見えないようだ。私もそうだったけど。
セリアは反応に困ってるし、オルシズさんも貴族の使いと見ている。
「爺やはね、今は人間に擬態してるだけなの。本当はもっと違う姿で、大型海洋生物の頂点に立つ神獣なの。リヴァイアサン、で合ってるわよね?」
「左様でございます。わたくしは本来リヴァイアサンという名で海で暮らしております」
「ふ~ん。人に化けた神獣様ってわけか」
「お、大型海洋生物の頂点ってことは、世界中の海の長ってことですか!?」
「正確にはもう一名おりますが、間違いではありません」
私と爺やの説明にセリアは軽い反応。リリアちゃんは驚いている。
爺やが付け足した『もう一名』とは、おそらくスキュラさんの事だろう。
「そこに座ってる犬がオルトロス。地上生物の頂点に立つ神獣よ」
「ワン!」
「この子も神獣なのですか…。てっきり道中で拾ってきた犬かと思っていました」
「こんなに可愛らしい見た目をしているのに…」
私の紹介にオルトロスは一回吠えただけ。その後はシャロルが持ってきた水を飲んでる。喉乾いてたのかしら?
シャロルは捨て犬かなんかかと思ってたのか、驚きの表情を見せている。アリスも同様驚き顔。
「それと、そこでコロコロしてる子はザッハークっていうの。この子の説明は最後で良い?順を追って説明したいから」
ザッハークはテーブルのふちでずっと回転してる。自動でたこ焼きを回転させるたこ焼き機みたいな動き。よく分かんないけど楽しいらしい。
「可愛い…。アイラさん、この子触っても大丈夫ですか?」
「嫌がったりしなければ大丈夫よ」
リリアちゃんはおそるおそるザッハークへ手を伸ばす。するとザッハークが自らリリアちゃんの手に乗っかり、ポヨンポヨン跳ねている。
どうやらザッハークは人懐っこい性格みたいだ。人見知りじゃなくて良かった。
「可愛い。フフフ…」
リリアちゃんはすっかり今のザッハークの見た目に魅了されたみたい。
でも本来のザッハークの姿見たら落ち込むだろうな…。




