オリジンのお話 その3
質問の返答を受けたオリジン様は、しばらくシャロルとノワールを交互に見たまま何か考えている様子だった。
少し経って、オリジン様は話し出した。
「まずシャロルさんですが、だいぶ神力が身体に浸透しているようです」
「え!?」
「どういうことですか?」
オリジン様の発言にシャロルは驚いて、私も咄嗟に質問をする。
神力の浸透なんて聞いた事ないし、シャロルに神力はないはず。
「説明致しますと、アイラさんはこれまでずっと微量の神力が漏れ出している状態でした。その量はこれからもっと増えていきます」
「そうらしいですね。ハルク様も言ってましたし」
「その神力は、実はアイラさんの周囲にいる者にも自然とかかっているのです。浴びる者も全く感覚がありませんから、無意識に神力を浴び続けます。
例えば自分が煙草を喫煙してなくても喫煙者の近くにいれば自然と臭いや煙を浴びて吸い込みますよね?
それと同じで、シャロルさんは長い間アイラさんの神力を少しずつ浴びている状態なのです」
「そうなのですか…」
「それってまさか、シャロルの身体に異変をきたすとか、何かマズイ事なんですか?」
オリジン様の話を聞いたシャロルは驚いている様子。
話が理解出来た私はシャロルの身に何か起きるんじゃないかと心配になった。
しかしオリジン様は首を横に振った。
「今後の生活に問題はありません。むしろ良い事がありますよ。病気にかかりにくくなったり、怪我を負っても完治までが早かったり、疲れても少しの休憩で全開に回復したり」
「なんだ、よかった…」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「神力浸透の最大の特徴ですが、シャロルさんは戦闘は出来ますね?」
「はい。戦闘をする術は持っています」
「もし戦闘になった際、神力浸透が役立つと思います。アイラさんやグリセリアさんのように神力を感じる事は出来ませんが、相手や周囲の味方よりもやたら強い状態になったり、長期戦が可能になったりするはずです」
「疲れも取れる…、他よりも強くなれる…、ということは隠密や暗殺の精度も上がる…」
「良かったじゃない、シャロル。隠密術とかの精度上げたがってたし、良い事いっぱいね!」
「はい!お嬢様からこのような恩恵をお受けする事が出来ようとは!このシャロル、感謝感激でございます!今後もどうぞご要望をお申し付けくださいませ!今まで以上の成果を出してごらんにいれましょう!」
「うん!頼りにしてる!」
オリジン様の説明に何やらブツブツ言っていたシャロルだったが、私が声をかけるとシャロルはお礼を言ってきて、仕事に対するやる気がみなぎっている様子だった。
「ねぇ、それって私の側近も同じ事になってんの?幼少期から一緒にいるけど」
「実際に見て確認しないと分かりませんが、可能性は高いと思います」
セリアは自分の側近の事が気になったみたいでオリジン様に質問した。
確かにオルシズさんとリリアちゃんとアリスは、セリアが幼い頃から一緒だったって聞いてるし、可能性は高いと思う。
「あのそれで、私は…」
「ノワールさんですが、実は私の目で魔力の流れを確認させていただきまして、ノワールさんのみ他の方々とは違う状態である事が分かりました」
「他の人とは違う状態?」
「はい。人々それぞれ多かれ少なかれ必ず身体の中に魔力が流れています。本来は血液のように身体中に流れるのですが、ノワールさんの場合は身体の中心部、つまり心臓付近で魔力が塊になって動かないでいるのです」
「え!?」
「それこそマズくないですか!?流れてないって」
通常流れているものが止まったまま。血液だったら大変な事だ。
驚くノワールと同時に私も焦る。
けどオリジン様は笑顔のまま。
「実はこれも大丈夫なのです。でもかなりめずらしいのですよ?この世界で一人いるかいないかの割合です。
ちなみに生前のハルクも同じ状態だったそうですよ。精霊女王になってから知りましたが」
平気なら良いんだけど。この世界に一人いるかどうかってかなりレアだな…。
ハルク様もそうだったんだ。ノワールもそれに該当すると。
「通常と何か異なるのですか?私は魔法は使えませんが…」
ノワールが自ら質問をする。そういえばノワールは魔法を使えない。
「生活や魔法において通常と異なる点はありません。ですが、ノワールさんの状態でないと扱えない武器が存在するのです。
私の方で保存しているのですが、どんな強者でも扱えない物です。どうやら魔力が塊になっている者のみ扱えるみたいで…」
そんな武器があるのか。でも…。
「すいませんが、私武器も持てませんよ?戦闘経験もありませんし」
そう。そもそもノワールは戦闘面に関しては素人だ。
でもそれを聞いたオリジン様は、何故か微笑みを浮かべた。
「確かに戦闘経験はあなたにはないと思います。でも完全に無知だと言えるのですか?
あなたがこっそり鍛錬を積んでいる事は、ハルク経由で伝わっているのですよ?」
「え?………え?」
オリジン様の暴露にノワールがメッチャ動揺してる。鍛錬してたのね…。
「いかがでしょう?今から約二千年前の古代武器を使ってみるつもりはありませんか?鎧や服等の装備一式も付いてきますよ」
約二千年前の武器って、それ保存状態大丈夫なの?
てか、なんでオリジン様の誘い方がどっかの勧誘みたいになってるの?
「それはどのような武器なのでしょうか?」
いや、ノワールは食いつくのかよ。
「大きな槍とも剣とも言える武器です。武器の名は『アリアンソード』。
ハルクが生前に愛用していた武器です。装備もハルクの物です」
「「「「アリアンソード!?」」」」
私を含めた四人全員がオリジン様の発言に驚く。
どこの国でもハルク神の名が出れば、必ず『アリアンソード』の名は出てくる。
一振りで数百人の相手を一度になぎ倒すと言われている、一騎当千を象徴する伝説の武器だ。
ハルク神のお話だと、常にハルク神の手元にあったとされている。実際はマジでハルク様愛用の武器だったんだ…。
親友であるオリジン様が保存してるなら、なんとなく納得出来てしまうけど。
「伝説の装備一式を、ノワールさんが持つのですか…」
「見てみた~い」
「そんな伝説の物を…、私が…」
シャロルは驚いていて、セリアはすごく客観的。
ノワールは考え込んでる。…考え込める事がすごいよ。普通即断るよ?
でも悩むって事は、ノワールにとってない話ではないという事だ。
「ノワールはその武器を手に入れたら、何かやりたい事とかあるの?」
「やりたい事…、そうですね。私はお姉様が亡くなった時、大切な人を失う恐怖を味わいました。そして同時に、自分が何も出来ない人間だという認識にたどり着きました。
私はここへ来てからも、強くなりたい、力を持ってお姉様やアイラ様のように人を支えたいと思っていました」
「ノワール…」
「今のアイラ様の問いかけで気づきました。私はもうとっくに何かを掴むための覚悟をしていたのかもしれません」
言ってる事はなんかハッキリしないけど、かなり前向きらしい。
まぁ、本人がゆっくり決めてくれれば…。
「オリジン様。ハルク神様が愛用されていた装備一式、私が継承致します」
「確かに聞きました。ハルクも継承者が現れたことを喜んでいるでしょう」
決めちゃったよ。ホントに良いのかな?
「さて皆さん他にも疑問が浮かんだりするとは思いますが、今日はもう遅いのでまた後日機会があればお受けしましょう。ノワールさん、装備継承の詳細はまた後日」
「ええ、分かりました」
「それでは皆さん、失礼致します」
直後、オリジン様は消えた。
「いや~、なんかすごい話になったね。特にそこの二人」
「そうよね。場合によっては人智を超えるかもよ?」
「お嬢様のお傍で仕え続ける以上は、人智を超えようと想定内です」
「私も早く力を付けて、アイラ様や皆さんのお役に立てるように頑張ります」
セリアは感想を述べて、私もそれに乗っかる。
シャロルとノワールもやる気に満ちている様子。
そんな燃え滾る空気の中解散となり、シャロルとノワールは自室へと戻っていった。
その時に気付いたのだけれど、別館を出ていたアテーナ、アルテ、エウリア、メリッサの四人はいつの間にか戻ってきていて、とっくに自室で休んでいた。一声くらいかけろよ。コラ。
とにかくこれでみんな自室へ入ったので、私とセリアも消灯して寝室のベッドに入るのだった。