帰宅と精霊
陽が昇って周囲が普通に見渡せる程明るくなった頃、私と精霊達はようやくノーバイン城の城門前に到着した。
精霊達は私の傍にいるものの、王都の街に着いた時点で姿と気配を消した。
もちろん既にベヒモスは拘束から解放したし、シルフちゃんも起きた。
今はまだ早朝の時間なので、街には人がいないし、城の警備も薄い。
しかしここで問題がある。
城門に門番がいないと同時に門はしっかり閉まっていて、城に入る事が出来ない。
そこで私は教えてもらった魔法の一つを実践する事にした。
私は門から数歩ずれて壁の前に立つ。そして気を集中させて、魔力を足元に送る。
すると足元が浮き始める。そのまま上昇。どんどん上がって行く。
私がやっているのは浮遊魔法。オリジン様から教えてもらったのだ。
浮遊魔法が出来るようになった時はもう嬉しすぎて興奮した。ファンタジーじゃ定番の浮遊魔法が使えるなんて興奮しないわけがない!
話を戻して、私は軽々城壁を超えて城内へ入った。
別館のロビーまで行くと、アテーナとアルテがいた。
「おかえりなさい。アイラ様」
「おかえりなさい。時間的にはおはようございます」
「ただいま二人とも。出来ればおやすみって言いたいところね」
二人とも早くに起きて私の帰りを待っていたみたい。
そんな二人と会話しながらリビングへ向かうと、シャロルとノワールがいた。
「おかえりなさいませ!お嬢様!」
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
シャロルは心配していたのか、私を見た途端に安堵の表情を浮かべながら私の前に駆け寄ってきた。
ノワールも笑顔で迎えてくれた。
護衛二人と同じく、シャロルとノワールも朝早くからリビングで私を待っていたらしい。
「どわあぁぁぁぁ!!」
直後、寝室へ繋がる階段から叫び声とともに何かが転げ落ちるようなもの凄い音がした。
私も一緒にいる面々も驚いて、慌てて階段へと向かう。
階段の麓にはセリアが倒れていた。
「ちょっ!セリア!どうしたの!?」
私は慌ててセリアの傍に駆け寄る。
声をかけると、セリアはすぐに顔を上げた。
「アイタタタタ…。二階にいてアイラの声が聞こえたような気がしたから、帰ってきたんだと思って慌てて階段下りようとしたら、足踏み外して落ちちゃった…」
叫び声と物音の正体はセリアが階段から落ちた音だったようだ。
何をしてるんだか。この子は。
「気を付けてよ。まったく。大丈夫なの?動ける?ほら」
「何とか動けそう…。よいしょっと」
私はセリアに背を見せておぶさる姿勢をとり、セリアはそこに乗っかった。
そのままセリアを持ち上げて、セリアをおんぶした状態でリビングに戻った。
セリアは複数個所の打撲で済んだみたい。とは言っても、そもそも私と同様普通の人間の身体じゃないから、十分かからずに回復したけど。
「改めておかえり。どうだった?」
「ただいま。無事に契約完了よ。あと、精霊達と会う前に初めて魔物と戦ったわ。神力全開にしたら一撃で倒せたけど」
「魔物を一撃ですか!?お嬢様はすごいですね…。私も幼い頃一度だけ見た事がありましたが、恐ろしいばかりで何も出来ませんでしたよ」
「アイラ様はさすがですねぇ~」
魔物を倒した事にシャロルは驚き、ノワールは称賛してくれているものの、キラキラ笑顔が怖い。
「なんとなくアイラが魔物をぶっ飛ばすところが想像できるよ。アイラなら楽勝だろうね。
で、精霊と契約して何か変わった?」
「うんまぁ、魔法は使えるようになったわ。まだ訓練が必要だけど。あとね、ほら」
私は腕に紋様と謎の文字を再び表面に表した。
「おお~。なんかスゴイ。ファンタジーっぽい」
「なんですかそれは!?一体どうされたのですか!?」
「アイラ様のお美しい肌に紋様が…。より神秘的でお美しい…」
セリアは楽しむように見ていて、シャロルは驚いて慌てている。
ノワールは…、もう私の何を見てもこういう反応なんだろうな…。目を輝かせて食い入るように見てくるんだけど、それがなんか怖いのよ。
「精霊と契約したら刻まれてたの。どういう意味かは私も分からない。今は腕だけに表したけど、これ全身に刻まれてるのよ」
そう言いながら私は紋様を消す。
「おお~、消えてった」
「精霊様方もどういうおつもりなのでしょう。アイラ様のお綺麗な肌にそのような紋様を刻むとは…」
「私は良いと思いますよ?」
セリアは紋様が消えるのを見て再び関心している。
シャロルは文句言ってるけど、精霊達実はこのリビングにいるからね?精霊全員聞いてるよ。今のセリフ。
ノワールはもう何でもアリでしょ。あんた。
「ところでアイラ、眠そうな顔してない?一睡もしてないでしょ?寝る?」
「セリアの言う通り眠いし、寝ようとは思ってるけど、その前にセリア。あんた気付かない?」
今すぐ寝たいところではあるけど、その前に精霊を紹介しなくてはいけない。
セリアなら精霊達の気配に気付くはずだ。
「気付かないって何が……。いや、気付いたよ。複数いるね」
「この気配に気付けているのですね。優秀です」
「さすがですね。ハルクリーゼ様の眷属として相応しい察知能力ですね」
「えっと…、何がですか?」
「…?」
セリアは精霊達の気配を察した様子。
アテーナとアルテはそれを評価している。
シャロルは訳が分からないようで聞いてきている。隠密術を持っていて気配に敏感なはずのシャロルが察知出来ないんだから、精霊の気配消しはすごい。
ノワールも分からないようで、黙ったまま首を傾げている。
「シャロルとノワールは分からないだろうから一応説明するけど、私と一緒に精霊がここに来てるの。セリアに挨拶しに」
私の説明を聞いたシャロルとノワールが、驚きの表情を浮かべた。
「このお城に、精霊様方が来てらっしゃるということですか!?」
「まさか、今もこの部屋に…」
「二人ともご名答。私達の周りにずっといるのよ」
私には精霊達がずっと見えてるけど、こうして話している間も精霊達はあちこちでグウタラしてる。
オリジン様は私の真後ろで正座してるし、アグナさんはガスコンロを興味津々で見てる。
ネロアさんはキッチンの水周りを色々確認するように見ている。
シルフちゃんは床でうたた寝してる。となりでベヒモスもゴロゴロしてる。
ルーチェは照明に興味があるようで、浮遊して天井にいる。
パリカーは何故かゴミ箱を見てる。マーナはどこにいるか分かんない。
「オリジン様、シャロルやノワールがいる前で姿を見せて大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
ここで精霊達に出てきてもらって良いか分からなかったので、一旦オリジン様に確認した。
周囲に聞こえるか分からない程の小声で。
「アイラどしたの?なんか言った?」
「うん。ちょっとオリジン様とお話しただけ」
精霊達は姿を消している間、私以外の人には声も聞こえないらしい。
「それじゃそろそろ精霊方に出てきてもらいましょうか。現れて大丈夫ですよー」
私が声をかけながらパンパンと手を叩くと、途端にグウタラしてたり自由行動してた精霊達が集まってシャキーンとした。
それと同時に精霊達は姿を現した。
シャロルとノワールはあ然としたままフリーズしてる。
そりゃ伝説の存在がこんなに目の前に現れたら固まりもするよね。
「じゃあオリジン様、後はお任せしても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。お休みになってください」
「という事で私寝るわ。おやすみ~」
「じゃあ私も一緒に寝…」
「あんたが寝たら意味ないでしょうが。ここにいなさい」
私はみんなに後を任せてベッドで寝る事にした。
セリアは私と添い寝しようと一緒に付いて行こうとしたけど、それじゃ精霊達が来た意味がないので制止した。
あ~~!やっと寝れる!