二人の令嬢
しばらく心の中で叫びまくった後、周囲には分からないように落ち込みながら、講堂の入り口前の受付で入学者名簿の確認と席の案内を受けて会場へ入る。
本来、主席のとなりが二位の席となるのだけど、今回は主席が王子ということもあり、警備の都合で王子と一緒に入学する王子専属護衛が座ることになっている。そのさらにとなりに設けられた席が、私の座る席となる。
(まぁ、王族がいるともなれば当然よね。それにしても視線が痛いわね…)
指定された席に着いた時からずっと周囲の視線を感じ続けていて、全く落ち着かない。
しばらくすると私のすぐ後ろからとても強い視線を感じた。私の後ろの席に座った人からの視線のようなのだけど、他に感じる視線とは比べものにならない強さがある。
そして私の後ろに座っているということは……。ダメだ。気にはなるけど恐くて振り向けない。
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
「は、はい!」
振り向けずにいた私に、後ろにいた人が私の肩を軽くたたいて声をかけてきた。私は慌てて振り向く。私の後ろには二人の女性が座っていた。
一人は金髪の髪を上の方で団子に固め、淡い黄色のドレスを身に纏った女性。私を見ながらやさしそうな顔で微笑んでいる。
もう一人は黒髪をストレートに流して、私よりも胸を大胆に見せた真っ赤なドレスを着た女性。それなりに大きい方だと思っている私の胸よりもさらに大きい胸をドレスから見せている。胸囲どのくらいあるんだろう?
さらには髪がとても長く、おそらく私よりも長いだろう。多分、足のくるぶしくらいまではあるんじゃないかな?でもって私を睨むように見ている。強い視線は彼女からのものみたい。
私がその視線に内心アワアワしていると、金髪の女性の方が声をかけてきた。
「そう緊張せずとも大丈夫ですよ。別に嫌味言ったりしませんから」
やさしい口調でそんなこと言ってくる。声からして私の肩をたたいてきたのは彼女ね。でもやさしい感じにそんな発言をされる方が逆に恐い。
「急にお声かけしてごめんなさい。私はアルテミア公爵家令嬢、ティナ・アルテミアと申します。せっかく近くの席なわけですから、親しくさせていただこうかと思いまして」
既に私は分かっていたけど、微笑む金髪の女性こそ王子の婚約者候補の一人、アルテミア公爵家のティナ令嬢。
「こちらこそ、せっかくお声かけいただいたのにすぐにご挨拶出来ず申し訳ありません。リースタイン子爵家令嬢、アイラ・リースタインと申します。これからよろしくお願い致します」
相手は貴族界のトップである公爵家の令嬢なので、失礼のないように丁寧に挨拶する。
「はい、よろしくお願いしますね。ほら、あなたも」
ティナ嬢はとなりでずっと私を睨みつけている女性に声をかけた。しかし女性は私を睨みつけたまま。「お前から挨拶しろ」と言われているような気がしたので、とりあえず挨拶する。
「あの、リースタイン子爵家のアイラ・リースタインと申します。よろしくお願い致します」
「ふん!二位の座に割り込んできた者が堂々とイタタタタタ!!!」
「ホウ?悪口はいけませんよ?」
私に何か悪口を言おうとしたようなのだけど、それはすぐに悲鳴へ変わった。ティナ嬢が彼女の足を踏んで、ヒールのかかとでグリグリしている。しかも顔は微笑んだまま。
(なんだか、悪口を言おうとした彼女よりもティナ嬢の方がよほど恐い気がする)
かかとでグリグリから解放され、足を痛そうにおさえていた彼女だったけど、五秒程度で元の姿勢に戻った。復活早いな。
「オホン!わたくしはテミナガ侯爵家令嬢、ホウ・テミナガと申しますわ。子爵家かなんだか知りませんが、どうせまぐれで二位になれたのでしょうからいい気にならイタイ!イタイ!イタイ!」
王子殿下の婚約者のもう一人の候補、テミナガ侯爵家のホウ嬢は再びなにか悪口を言おうとしたようなのだけど、そこに再びティナ嬢が微笑みながらホウ嬢の腕をギリギリと強く掴んで握りしめ、ホウ嬢は再び悲鳴を上げた。ティナ嬢、握力強いな。
「悪口を言うな、悪態をつくな、偉そうにするなとあれだけ言っているではないですか」
「わかりました!わかりましたから!もう言いませんから!手を離してください!」
微笑んだままホウ嬢の腕を握り、ホウ嬢を叱るティナ嬢と、涙目になりながら悲鳴を上げるホウ嬢。王子婚約者候補である二人の喜劇のようなやりとりを前に、私は苦笑いするしかなかった。