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ふらふらとソファに座りこんで、ぐるりと室内を見回してみる。私に、と準備してくれた部屋は陽当たりも良く品のいい調度品で揃えられていた。
「素敵なお部屋…」
つぶやいて、はぁーっと長いため息をつく。
なるべく柔らかい笑顔で挨拶するよう心がけたけど、大丈夫だったろうか。良い印象を持ってもらえただろうか。
これから、家族になるのだから仲良くなりたい。
それにしても、リリーさんの態度には首をかしげるしかない。
いくらなんでも、嫌われたにしては早すぎるわよね。
私が挨拶する前からなんだか怒っているような雰囲気だったし。
けれど彼女とは絶対に今日が初対面だ。
一人思案していると、扉をノックする音が聞こえた。
返事をすると、先程紹介してもらったサイモン、ミナを筆頭にサイ家からいっしょに来てくれた侍女が数人、そして見知らぬ若い女性が一人部屋に入ってきて頭を下げた。
「お疲れのところ申し訳ありません。新しく、オリアーナ様付きの侍女を紹介させて頂きたく参りました。こちらはエリカといって、年は若いですが大変仕事熱心ですので、お屋敷のことで分からないことがありましたらこのエリカに何なりとお聞き下さい。もちろん私にも御用があればいつでも」
そう言ってやはり完璧に美しい礼をするサイモン。
エリカ、と紹介された娘を見ると、赤毛を二つに結んでガチガチに緊張している様子だった。
年のころは私と同じくらいか、もしかしたらちょっと下かもしれない。
「ありがとうサイモン。エリカ、ね。私はオリアーナです。こちらのことはまだまだ分からないことばかりだから、私の侍女も含めてこれからよろしくね」
「は、はいっ!エリカ・ハントンです!精一杯仕えさせて頂きます!よろしくお願いします!」
エリカは勢いよく頭を下げた。
良い子そうで私も好印象を持つ。
それからサイモンはミナと少し話をして部屋を出て行った。
その後、湯浴みをして少し休もうとベッドに体を横たえた私は、そのまま夕食も取らずに翌朝まで深い眠りについてしまっていた。
体は自然と毎日の習慣を覚えているものらしい。いつもの様に朝日が昇る頃に目を覚ました私は、ベッドの上でぼんやりと思い返す。
(あぁ。そうだわ、私、ステル家に来たんだっけ)
これから、ここで、ステル家の一員として暮らしていくのよね。早くこの生活にも、ステル家にも慣れなくちゃ。式の準備も皆さんと進めなきゃいけないし、それに、アルヴィン様のお母様にもご挨拶したい。
決意も新たにベッドから起き上がり、普段通り自分で身支度を整えようとして、はたと気づく。
湯浴み中に侍女たちが、荷解きをして整えてくれたから、どこに何があるのかが分からない。
ああーと呻いていたら、丁度良く扉をノックする音。
返事をすると、やけにニコニコしたミナが
「おはようございます。よくお休みになられましたか?いつも私が言ってることですけど、今日こそは私たちで支度の手伝いをさせて下さいね」
と、笑顔なのに迫力がある顔で言ってきた。
ミナが私の髪を梳きながらを言う。
「こちらの家では朝食と昼食は、皆さま各々でとられることが多いそうです。夕食は皆さまごいっしょに。まぁ一般的な貴族のお屋敷といっしょですね。ですので、朝食はこちらに運んでもらえるようお願いしてあります。」
「え!?ミナ、もうステル家の使用人の人たちと仲良くなったの?さすがミナね!」
「いえ、まだ仲良くというほどでは…。私たちもまだまだこれからですよ。エリカも色々お屋敷のことを教えてくれるので」
私が感心して声をあげると、ミナが苦笑しながら答えた。
「そういえばエリカは?」
部屋に来たのはミナともう一人の侍女だけで、エリカを含め他の侍女たちはもしかしたらまだ休んでいるのかも、と思い聞けば、エリカからステル家のお屋敷内の配置や物の置き場など細かなことを教えてもらっているらしい。
「ミナたちも聞きに行かなくて大丈夫?後は私一人でやれるから」
「私たちは、昨日の内に侍女頭のコンスタンスさんから説明を受けましたから。昨日は、お嬢様様がお疲れだろうと遠慮して挨拶は控えさせてもらったそうです。もう少ししたら、挨拶に伺いたいと言ってましたよ」
確かに、昨日侍女頭とは会っていない。
侍女頭とは、執事と共に屋敷内の使用人を取りまとめている人なのだから、私も屋敷内なことを色々教えてもらわなくては。
本日着る服のことでミナと恒例の言い合いをしてー今日は屋敷のみんなとの顔合わせのようなものだから、ちょっとでも可愛く見えるようにレースのたっぷり着いた白いのが良いと言う私に対して、顔合わせだからこそ一番似合うものを。お嬢様の白い肌が映える赤が良いです!と主張するミナー。まぁいつも七割私が負けるので、大人っぽい赤いドレスを着て準備が終わったところで、侍女頭が部屋に挨拶に来てくれた。