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先ほどから兄様たちが言っている北、とは我が国の北に位置するガルリアド王国のことだ。我が国とガルリアド王国は山脈を挟んで隣接していて、約二百年前には領土を巡って戦争もしていた。そして二百年前の戦争は我が国が勝利し、ガルリアド王国との間の山脈は我が国の領土となった。しかしそれも二百年前の話で、現在は友好関係が続いている。少なくとも表向きは。
そんな関係のガルリアド王国の第二王子ー確か名前はベルナルト王子ー、が我が国の伯爵令嬢と結ばれて何か我が国に不利益があるのかしら?
まぁ、ベティ嬢はとても奔放な方のようなのでガルリアド王国では不利益がでるだろうけれど。
なかなか思い当たらず頭をひねる。
すると、クロエ義姉様も同じだったようで、困ったように手を挙げた。
「駄目ね、わからないわ。ベガルタ伯爵家は要職にもついていないし、王家の縁続きでもないでしょう。ベティ嬢を通じて王家にも何も要求できないし何か国に不利益がある?。あちらの王子がベティ嬢がいいというならやってしまえば、と思うわ」
するとヒュー兄様は肩を竦めて言った。
「全くその通りです義姉上。国が不利益になる問題は、ベガルタ伯爵家ではなくベガルタ伯爵領、領地のほうですよ。兄上」
ヒュー兄様の言葉に、ダリオ兄様ははっとしたように顔を上げた。
領地?ベガルタ伯爵領土…。必死で記憶の中から思い出す。
ベガルタ伯爵領は北方にある。けれど、ガルリアド王国との国境付近にあるわけではない。ガルリアド王国との国境、そして山脈一帯を管理しているのはステル辺境伯爵家だ。そして、ステル辺境伯爵家とはー、私の想い人、アルヴィン・ステル様の家である。
ちなみに、ただの伯爵家と辺境伯とは全く立場が違う。国に数家しかない辺境伯は国境付近の領地を管理する重要な立場で、名前は伯爵となっているが実際は侯爵と同じほどの力と身分を持つ。
北方の広大な国境付近を管理するステル領地の近くにある、ごく小さい領地がベガルタ伯爵領のはずだったけれど。
その領土が国に不利益?益々訳がわからなくなって困ってしまう。しかしダリオ兄様は完全に得心したようで
「そこに繋がるわけか。ー分かった。父上と母上は昨日の内にヒューバートから報告を受けたのですね?では、父上ー、」
「ああ。ヒューバート、クロエ、オリアーナ。私たちは書斎に移る。暫くしたら三人に話があるからこのまま待っていなさい。あぁ、クロエは無理しなくてもいい」
今まで静観していた父が、立ち上がりながら言った。母もダリオ兄様もそれにならって、立ち上がって移動しようとする。
やっぱり私はいったいどんなことか分からなくて、父の言葉にただ頷くしかなかった。
2.9 王子の名前を修正致しました。申し訳ありません