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あの方に恋に落ちた。
けれど、私はこのルーベルトリア王国の五公爵家、サイ家の娘。それに現国王と血が近い。祖父の姉が先代の国王に嫁いだので父と現国王は従兄弟同士なのだ。現国王の子は王太子ただ1人なので、外交上の政略で他国に嫁いでいったのは私の姉たちだった。私は六人兄妹の末っ子で姉は三人いるのだが全員他国へ嫁いでいった。なので私も他国へお嫁に行くんだろうなぁと思っていたし、何より政略結婚は貴族の義務だと思うので、この恋を成就させたいなんて微塵も思っていなかった。ただ、政略結婚前に初恋を経験できて良かったなぁ。父に婚約者を決められる前に、あの方ともう少しお話できたら幸せだなぁとそんな思いしか持っていなかった。十三歳の私にはまだ婚約者がいなくて、婚約者が決まるまでの片想い。けれど姉たちの例を見るにおそらくあと一、二年だろう。そう、思っていたのだ。まさか十四歳になったばかりの年に父に、思いもしなかったことを言われるまでは
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家族で朝食を終え、そのままみんなでお茶を飲むのもいつもの風景だ。ティーカップを持ち上げると芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。口に含んで飲み込むとスッキリとした味わい。美味しい。
「本当にオリアーナは可愛い。お茶が美味しくて幸せって、満面の笑みで」
クロエ義姉様がちょっとからかうように言ってきた。
「もう、可愛いなんて言ってくれるのはお義姉様たちだけよ。私、なんだかキツく見られることが多いの。このつり目のせいかしら」
「オリアーナは美人だからね。みんな、キツいと思っているのではなくて、美人すぎるから高嶺の花だと思っているのよ」
「そうだオリアーナ。お前はとびっきりの美人だ」
クロエ義姉様にダリオ兄様までのってくるが、それは身内びいきというやつだ。大体、美人というのはまさにクロエ義姉様のことを指す言葉だというのに。隣国の貴族令嬢だったクロエ義姉様は赤まじりの金髪に、緑の瞳を持つ美人。しかも政務官であるダリオ兄様に助言をして補佐できるほどの才女なのだ。私も家庭教師の元、公爵令嬢がすべき勉強はしているが、なんていうか、庭のお世話をしたり刺繍をしたりするほうが性に合っているしすき。私のこれらの趣味を言うと、大抵の人は驚くみたいだけれど…。
はぁ…と軽くため息をついてぐるりと家族を見回した。
上位貴族特有の威厳を持つ父。黒髪は後ろに撫でつけ、同じく黒い目は今は閉じられている。難しい顔をしていることが多いので、こんな強面で外務大臣なんて他国に敵を作らない?なんて失礼にも思ったことがあるが、これがなかなか表情を読み取らせず切れ者と評判が高いらしい。
クロエ義姉様とまだ私について話していて、妹馬鹿を発揮しているダリオ兄様は父の生き写しだ。父と全く同じく黒い髪を後ろに撫でつけ、神経質そうな黒いつり目。妹馬鹿丸出しの発言をしているから今は残念極まりないが、普段は頭脳明晰、怜悧な王太子補佐官として王太子様の右腕である。
同じ黒髪黒目でも、短く整えられた黒髪にいつも大口を開けて笑うヒュー兄様はだいぶ印象が異なる。それでも、ふと真顔になる時はその眼光鋭いつり目がやはりサイ家、と言われる。
そう、そうなのだ。私がずっと気にしているつり目。目の色だけは黒ではなくて灰色だけれど、それ以外の顔はまさに、私は父たちにそっくりなのだ!迫力があって怜悧で眼光鋭いと言われる父や兄たちに!自分でも、こう、可愛らしさがない顔だなぁと思う。ドレスにしたって、私は桃色や淡い色に憧れているのに、どうにも似合わなくて濃い色を着ることが多い。それが更に年齢以上の迫力を醸し出しているんじゃ、と泣きついても、お嬢様を更に美しく見せる為に似合うものを準備しているのです!妥協はしません!とミナが取り合ってくれない。
こんな見た目のせいで、お酒や夜会好きだと誤解されることも多い。この国の成人は十六歳なので、十七歳の私は飲酒はできるけれど、付き合い程度にしか飲まないのに。夜会なんてとんでもない。もともと人見知りなのだ。一年前から多少改善はされて、公爵令嬢としての社交はできるようになったが内心まだまだ苦手意識がある。
とにかく、私は可愛い人に憧れている。可愛い人になりたい。花のお姫様のような…