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もう間違えません  作者: アカイ葵
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4



アルヴィン様とのダンスも終わり、言われた通りにヒュー兄様の側にいることになった。

小間使いに頼んでヒュー兄様に話は通していたらしく、私たちのダンスが終わるとヒュー兄様の方からこちらに来てくれて。

どうやら私たちが踊っているのを見ていたらしい。

タイミングを見て迎えに来てくれた。


「ヒュー、ツェザーリ王子と話してくるよ。内容はすぐ父と公爵にも報告する。

まぁ、父ではなく僕に話をと言ってきたのは、おそらく内々にしておきたいからだと思うけど」


「だろうな。頼んだ」


ヒュー兄様の言葉に、うん、と頷いてから、アルヴィン様が私に向き直り


「急に勝手に離れることになり本当にすみません。

…ヒューの側にいれば大丈夫だとは思いますが、…行ってきます」


「はい、行ってらっしゃいませ」


笑顔でアルヴィン様の背中を見送ると、途端にヒュー兄様から、場所を移そう、と提案されて休憩用に解放されている小部屋に移動することになった。


「俺も最近忙しくて、あまりオリアーナと話せなかったよな。こんな場所でだけど、まぁ時間もあるし今まで気になってたことを質問するな」


部屋にあったソファーに、どかりと座って言うヒュー兄様。

そして真剣な表情でまっすぐに質問をぶつけてきた。


「で?ミナとやたら白熱して、アルヴィンを落とす作戦たててるみたいだけど?

急に積極的になってるのはステル領で何かあったのか?」


完全にばれている。

というか見透かされている。

「…サラ様って知ってる?

たぶん、アルヴィン様の恋人、だった方よね?」


ヒュー兄様の質問に、質問で返す形になってしまった。

でも、長年の友人であるヒュー兄様なら知っているかも。


「…なんでその名前を知ってる?

アルヴィンが自分からお前に話したのか?」


ヒュー兄様からも、質問に質問で返されてしまった。

私の口からサラ様の名前がでたことが意外だったのだろう、驚いた様に眉を上げるヒュー兄様の声はいつもより低い。

この反応は、やっぱり知っているみたい。


「なぁ、オリアーナ。全部話してみてくれないか」


真剣に静かに問いただされて、私はステル領に行ってからのことを洗いざらい全て兄様に打ち明けた。

リリーさんからきつく当たられていること。

私に対する変な噂があったこと。

サラ様といっしょになるはずだったという話を聞いたこと。

そして、アルヴィン様にはそれらのことを言えていないということ。



ヒュー兄様は、途中口を挟むこともなく最後まで静かに聞いてくれて。

そして、私が話終わるときっぱりと言った。


「まず、前から言っていたけどお前は自分に自信がなさすぎる。

そして、相手に対して遠慮しすぎるところがある。

だから、アルヴィンたちにリリー嬢のことを言えないでいるんじゃないか?

お前のその人を思いやる優しいところや、奥ゆかしいところは長所でもあるが短所でもある」


確かに昔から、ヒュー兄様には自信を持てとずっと言われてきた。

特に私は自分の容姿に自信がない。

可愛くてふわふわしたものなど、乙女らしいものが好きな反面、自分自信はそれらとは対極の位置にいると思うからだ。

小さい頃に令嬢のみのお茶会に参加したりすると、私が特に何も考えず立っていただけで、睨みつけられたとか怒っている、とか言われて泣かれたことがあった。

なかなかその容姿に対する劣等感が消えず拗らせているのも…あるかも。


「オリアーナ・サイ。お前はサイ公爵令嬢だ。

そのお前に対して喧嘩を売るっていうのはサイ家に喧嘩を売るようなもんだ。

今の話を聞いただけで、俺がそっちの家に出向いていきたいくらいだよ」


ヒュー兄様の口元は笑っているけれど、目は全然笑っていない。


「ヒュ、ヒュー兄様実はすごく怒ってらっしゃる?」


「当たり前だろー?お兄ちゃんとしてはたった一人の妹がすげぇ大事だもん。

リリー嬢からそんな扱い受けてるって、お兄ちゃん、怒り心頭よ。アルヴィンに対してもかなり頭にきてる。

くそっ、あいつ、確認もとったからしっかりとケリをつけてると思ったら…!

…リリー嬢に対してオリアーナが何も言えないなら、本当に俺が…」


「だ、だめ!!やめて!…ごめんなさい、心配してくれてありがとう。でも、ちゃんと私が」


思わず遮ってしまった私を、さっきまであんなに怖い顔で笑っていたヒュー兄様が、今度は優しく微笑んで


「だよな。これはオリアーナが自分の口ではっきりと反論して誤解を解いたほうがいい。

お前もそこのところは分かってるから、なんとかしようと侍女たちに噂を探らせてたんだろ?

それは正しい。

いいか、サイ家の誇りを決して忘れるなよ、きちんと言いたいことを主張しろ」


全部、ヒュー兄様の言う通りだわ。

五公爵家の誇りを持って、毅然としなきゃ。

それに、家内の問題をきちんとおさめるのも夫人の大事な仕事だ。次期辺境伯夫人となるのだもの、問題に向き合わなきゃ。

ステル領にいるエリカたちが、なぜそんな誤解があるのか調べてくれているのだもの。

私もそれらを聞いて、胸をはって説明するわ。やましいところは何もない。

決意を持って、まっすぐヒュー兄様を見て、はい、と答えた。


「元々、アルヴィンの妹って病弱気味でな。

だから一層あいつは妹を可愛がってた。

妹がすげぇ可愛いのはすごく分かるし」


「え?そうだったの?」


リリーさんが病弱だったなんて初めて知った。

あれ?挨拶とかも無視されていたのは別として、部屋にこもってばかりいたのって…。

てっきり私と顔を合わせたくないからだとばかり思っていたけど、もしかしてそれだけじゃなかったのかもしれない!?


「今はどれくらいまで回復してるのかは知らないけどな。でも、だからといってあっちだって伯爵令嬢なんだしきちんと厳しく教育されてたはずなんだけどなぁ…。

あくまでこれは俺の仮説なんだけど、ステル辺境伯もアルヴィンもここ数年、モカ山脈の件について忙しくしてて不在がちだった。

そして、辺境伯夫人も体調が悪くなってしまっただろ。

使用人たちもリリー嬢が不憫で甘やかしてしまったのかもな、叱るべき家族もあまり家にいないわけだし」


ため息をつきながらヒュー兄様が話したことは、とても納得がいくものだった。

うん、それならしょうがないよね、と言おうとしたところでビシッと指をさされる。


「今しょうがないとか思っただろ!だから!それがお前の悪いとこでもあるんだよ!

そうやって、相手を気遣えるオリアーナは優しい。

でも、だからといってリリー嬢が無礼を働いてもいいわけないし、お前も無礼を受け入れていいわけないだろ!

大体、これ全部俺の勝手な仮説だから」


もう、本当にぐうの音も出ないとはこのことだ。正論にただただ頭を下げるしかない。


「とにかく、リリー嬢や使用人から言われたことは全部アルヴィンに話せ。

負担になるんじゃ、とか私が解決するから、とかじゃなくて。

大体、ことの発端はあいつだろ、あいつが悪いんだから。

アルヴィンには知ってどうにかする責任がある。アルヴィンに話すことと、お前が直接リリー嬢に話をつけることは別問題だ」


いいか、それで何も変わらなかったら本当にサイ家が黙ってないからな、と念を押されて。

家族の確かな愛情を感じて嬉しくて、心の中がポっと暖かくなる。


「ありがとうヒュー兄様。大好きよ」


すると、兄様も満足そうにうなづいた。

けれどまた表情を改めて


「それで、サラのことなんだけど…」


サラ、と名前が出て自然体が前のめりになってしまう。緊張でごくっと喉が鳴る。


「俺が知ってるのは、サラは確か、学者の娘でアルヴィンとリリー嬢の幼馴染だっていうことだ」


「学者の…」


「それ以上のことは、俺の口からは言えない。

直接アルヴィンに聞け」


静かに告げられた言葉に自然と項垂れる。

そう、よね。恋人かもしれない人のことを他の人から聞くのは失礼かもしれない。


でも…正直に言うと、アルヴィン様から直接サラ様のことを聞くことには怖気づいてる。

もしかしたら、リリーさんと同じように、サラと結婚するはずだったのに邪魔だって言われたら。

…そう、悪い想像ばかりしちゃうの。


頭では、アルヴィン様はお優しいし、責任感がある方だからそんな事言うはずないって思っているし分かってる。

ひどい態度を取られたことだってない。

でも、どうしても嫌ことを考えてしまう自分もちょっとだけいる。

万が一にでも、そんなこと言われたら。

だからこそ、サラ様のことはあまり考えないようにして、ただただアルヴィン様に好かれようと努力していた。

これは、自分に自信がないからとかじゃなくて私がアルヴィン様に恋してるからだと思う。


「…アルヴィン様は私に対して誠実でいてくださるって約束してくれたの」


「うん」


「だから、今さら邪魔だとか出て行け、なんて言わないってちゃんと分かってるの」


「うん」


穏やかに相槌を打ってくれる。


「でも、私はまだアルヴィン様に好きになってもらえてないし…」


好きになってもらってないし、たぶんまだ完全には心を開いてもらってもいないかもしれない。

敬語や敬称がとれないこともそうだし、装飾店で見たような感情も上手に隠されている。


あぁ。だめだわ。

あの時も、アルヴィン様に好きになってもらってちゃんと夫婦になれば本心を話してくださるはず、と自分を鼓舞したのに。

一度後ろ向きな思考にはまってしまうと、悪い方悪い方へと落ち込んでいってしまう。


すると、ヒュー兄様がソファーから立ち上がり扉の方へ向かってしまった。

まだ話の途中だったのに。

驚きで目をパチパチさせるしかない。

困惑している私をよそに、ヒュー兄様は扉に手をかけ、振り向きざまニヤリと笑った。


「俺から見たら、もうけっこうアルヴィンはお前のこと好きだと思うけど。

あからさまに嫉妬までしてさ。

そんで、お前はこの勢いのまま全部アルヴィンに聞いちゃいな。そして全部話せ。

お兄ちゃんは応援してるよ!

そんで色々厳しいこと言ったけど、兄の愛だ許せ妹!」


そう言って開けた扉の先には、真剣な表情で立っているアルヴィン様!


いつからそこに!?

どこから聞かれていたの??


言うだけ言って、ヒュー兄様はするりと部屋を出て行ってしまった。

すれ違う際、けっこう力強くアルヴィン様の肩を殴っていたのは、本当に頭にきているからだろう。

でも、直接は何も言わず黙って行った。

入れ替わりに中に入ってきたアルヴィン様は、ヒュー兄様に殴られた肩を片手で押さえながらも怖いくらい真剣な表情で私を見つめている。


「近くにいっていいですか?」


アルヴィン様の静かな声が、二人っきりの部屋に落とされた。

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