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もう間違えません  作者: アカイ葵
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お義父様とアルヴィン様からの手紙の内容は、大体同じものだった。

やむを得ない理由があり、王都のお父様とも話し合った末、式を延期することにしたこと。

ステル領に来たばかりで申し訳ないが、どうしても私に来てもらいたい事柄がある為王都に戻って来てほしいこと。

謝罪と共に丁寧な文で書かれたそれを読んで、私はすぐに出立の準備をした。




一週間ほど前に来た道と同じ道を辿って、今度は王都に戻る。

お義母様にも話をしてしっかり挨拶をして出て来たし、 サイモンとコンスタンスを始めとした使用人たちもいってらっしゃい、と見送ってくれた。

やっぱりリリーさんは顔を見せてくれなったけれど…。

それでも、きちんとリリーさんにも出立の挨拶をしたくてリリーさん付きの侍女に伝言を頼んだ。

ひどく冷めた顔で、伝えておきます。とやけに慇懃無礼に受け答えされたので、やっぱりリリーさんと親しい使用人にも嫌われているらしい。


「ねぇミナ、私ね決めたのよ」


馬車の中。向かいに座るミナに、にっこりと話しかける。

今回の王都行きには、ミナだけに付いてきてもらっている。

急な私の発言にミナが戸惑ったような顔を向けた。


「ミナの言う通り、私とアルヴィン様との結婚は、お父様とステル家のお義父様が取り決めた政略結婚だわ。お父様は国内の結び付きを強くしたいって言っていたから、今ステル家と縁戚になるのに利益があるのよ。そして、ステル家もそれを受け入れたってことは同様にステル家にも利益があるのね。

リリーさんは公爵家をかさにきてって言っていたけど、サイ家がステル辺境伯家をどうこうできるはずないもの」


リリーさんから怒鳴られた時は、言われた内容にびっくりして只々呆然としてしまった。

けれどその後少し冷静になった頭でじっくり考えたのだ。

まず、お父様が圧力をかけたというのはないと思う。

最初は疑ってしまったけど、可能性は限りなく低い。

国に数家しかない辺境伯家はその役割の重大さ所以、いくら五公爵家の一つといえど、私利でどうこうできるはずがない。


「だから、私との結婚はアルヴィン様も納得のうえでのことだと思うの。…サラ様と、こ、恋人だったとしてもきっと、私との婚約話がでた時点できちんとサラ様にお話しをされたと思う。アルヴィン様はお優しい方だもの。不誠実なことはなさらないわ」


「お嬢様…」


「アルヴィン様は貴族の義務として、私と政略結婚なさるの。それを踏まえたうえで、私はやっぱりアルヴィン様とちゃんと夫婦になりたい。ミナには秘密にしていたけれどね、私、婚約前からずーっとアルヴィン様に片想いしてたのよ」


私のとびきりの告白にミナは苦笑した。

「知っておりますよ。というか、サイ家の屋敷中の皆知ってたと思いますよ。お嬢様の初恋には」


なんていうことだろう。クロエ義姉様がバレバレだとは言っていたけど、まさか屋敷中に知られていたなんて。

羞恥で狼狽えたけれど、気をとりなおして続けた。


「片想いが実るなんて考えてもいなかったけれど、婚約することになって、ちょっとだけ欲が出てきてしまっていたの。アルヴィン様に、できれば私を好きになってもらいたいって。

でもね、好きになってもらう為に何もしてなかった。唯一したのがナディシアの世話ぐらい。でもそれは余計なお世話だった」


私の言葉にミナのほうが苦しそうな顔になっている。

サイ家にいた時から、私が朝早く土まみれになってナディシアの世話をしていたのを知っているからだろう。


「だからこれからは、アルヴィン様に少しでも好きになってもらえるようにもっと色々しようと思う。努力するわ。何もしなくても好きになってくれるはずないものね。だから、どうかミナも協力してくれると嬉しいわ」


「勿論です!」

ミナは力いっぱい頷いてくれた。


ベッドの中でじっくり考えたこと。

アルヴィン様は政略の為、私と結婚する。

きっと納得のうえでサラ様と…おそらくお別れしたのだと思う。

そんな辛いことをして下さったからこそ、より一層私はアルヴィン様と幸せを築いていきたい。

ただ何もしないで相手からの好意を待つのではなく、好きになってもらえるよう、頑張る。頑張って、両親のような夫婦になりたい。

そして本当にステル家の一員になりたい。


「あと、ほかの問題はリリーさんの誤解をとくことね。少なくとも遊んでる云々とか」


「お任せください。私たちがいない間、エリカたちが色々調べておいてくれます。」


どうして全く事実無根なことをリリーさんを始めとした一部の使用人たちが信じてしまっているのか、ステル家に残っている侍女たちが調べてくれるらしい。

今回、リリーさんとの騒動はエリカたちも知ることとなった為、ひどく憤慨してくれてとても嬉しかったのだけれど、私を嫌っている使用人たちと表だって揉めないかだけがちょっと心配だわ。

サイモンとコンスタンスにもくれぐれもと頼んできたけれど、どうかお義母様の負担にならないように。



これから、王都に着いたらまずはサイ家に戻ることになっている。

休んでから、アルヴィン様たちから式の延期の理由と今回私も呼び寄せた理由が話されるらしい。

一体何を言われるのか緊張するけれど、それとは別に、アルヴィン様に好きになってもらえるようもっと積極的に行動すると決めた、そのドキドキもある。

でも頑張るって決めたんだ。

馬車の中で意気込んでいると、ずっと励ましてくれていたミナが不意に言った。


「私はお嬢様を全力で応援します。ですが…、お嬢様本当に大丈夫ですか?」


「確かに緊張するけれど、大丈夫!」


元気にミナに答えた。

しかし、ミナが私を心配して言ってくれた言葉の意味をちゃんと理解したのはもっとずっと後のことだった。


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