ファイブロライト 1
お義父様とアルヴィン様がステル領を立ってから一週間たった。
ステル領から王都までは約六日程かかるので、今ごろは王都に着いて一息ついているころだろう。
私はというと、それなりに忙しく日々を過ごしていた。
半月後に予定している式は、ごく身内な家族のみで執り行うものなのでそこまで仰々しくなくて大丈夫なのだが、問題はその後の結婚披露宴なのだ。
家族間だけの式と違い、結婚披露宴は交友のある各貴族、商人、実業家、外国の要人も招いての大掛かりなものとなる。上位貴族間の結婚ならなおさらだ。
なので、式と結婚披露宴を別日に行う貴族が多い。
私とアルヴィン様の場合は半月後に式を執り行い、春になったら結婚披露宴を執り行う予定だ。式と結婚披露宴との間がこんなに離れているのも珍しいのだけれど、これは北方にあるステル領が雪深い為雪がなくなってから、ということになったらしい。
結婚披露宴まではまだ日があるとは言っても、ステル家と付き合いのある人達を覚え、ステル家の歴史やしきたりなども勉強しなければならない。
忙しくも充実した日々を送ってはいたのだが…
「はぁ…」
「どうしたんですか?ため息なんてついて」
こっそりとしたつもりだったのにエリカに聞かれていたらしい。
もうすっかりと慣れてくれたエリカが、きょとんと尋ねてきた。
「あの、ね。私って…リリーさんに嫌われている、わ、よね?」
非常に言いづらい。けれどもう、確実だと思う。
初めて会った時からあまり友好的な態度ではなかったけれど、一週間たっても全く同じ態度で接されている。いや、むしろひどくなっている?まず、挨拶は無視される。当然リリーさんからの挨拶もない。お茶に誘っても来てくれたことはないし、夕食の席でも無視されて私の存在はないものとされている。
サイモンとコンスタンスがその場にいる際は、リリーさんに苦言を呈してくれるけどそんな二人にも、うるさわいわね!と叫んで態度を崩そうとしないし。
サイモンとコンスタンスの方がひどく申し訳ない顔で謝るので、気にしないで、と言うしかない。
そして…、リリーさんだけでなく、屋敷の使用人もなんだか素っ気ないというか…冷たい感じがするのだ。
最初は、公爵家から来たから畏まっているのかなぁと思っていたけど、やたらと冷ややかな感じがする。もちろん、使用人全員というわけではなくサイモンやコンスタンス、エリカをはじめとても友好的な人もいるのだけれど。
ちなみに、まだ床上げとまではいっていないお義母様はそんな様子を知らない。心配をかけたくないから言うつもりもない。
「私、このお屋敷でまだ日が浅いですし、リリー様ともそんなにお話したことないですけど…大好きなお兄様を取られると思って拗ねてらっしゃるとかじゃないですかね?」
エリカが無邪気に言った。うーん、そうなのかしら?
「エリカ…私、使用人の皆からも嫌われてない?」
恐る恐る聞くと、エリカはあっけらかんと
「オリアーナ様がお美しいので、皆気後れしてるだけですよ!皆オリアーナ様のことをもっと知ればお優しい方だって分かるのに!」
「あ、ありがとう…」
エリカの言葉は嬉しかったけれど、やっぱりなんだか釈然としなかった。
私、リリーさんや皆に何かしたかな?
夜。もうベッドに入って休んでいると、ふいに目が覚めた。
寝ぼけ眼でも喉の渇きを覚えて、ベッド脇の水差しを取ると、中身がない。
(ミナもエリカももう休んでるでしょうし)
なるべく音を立てないようキッチンに向かう。
すると、キッチン内に数人の話し声が聞こえて、思わず隠れてしまった。もう遅い時間だからか話し声は、抑えた声音だったがしっかりと聞こえる。
「リリーお嬢様、荒れてるわね」
「そりゃそうよ。サラ様と仲が良かったしね本当の姉妹みたいだったのに」
「本当の姉妹になるはずだったわけだしねぇ」
「アルヴィン様もお可哀想に。やっぱり公爵令嬢だけあって、気位が高いんじゃない?
あのツンと澄ましたような顔!」
「ちょっと!あんまり口が過ぎるとまずいわよ!」
「だって、あんたも思うでしょ?リリーお嬢様の話によると、夜会にも行きまくって色んな男性とーー」
中ではまだ話が続いていたけれど、そっとその場を離れ、部屋に戻る。
さっき聞こえた会話が頭から離れない。
ーサラ様?
ー本当の姉妹になるはずだった?
サラ様って誰…??