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もう間違えません  作者: アカイ葵
12/24

間 アルヴィン



王都にある、男性限定の会員制クラブ。

ソファで葉巻を咥えて商談している者、

酒を飲み交わし思い思いに語り合っている者、

カードで遊んで盛り上がっている集団。

身元がしっかりとして推薦がなければ入れない会員制クラブなので、皆寛いで団らんしている。しかしここは夜会とはまた違った社交の場でもあるのだ。


(ヒューに会うのも半年ぶりくらいか)

アルヴィン・ステルはワインを片手に、クラブで各々すごしている面々を、見るともなしに眺めていた。

親友のヒューバート・サイに呼び出されて来たはいいが、当の本人が見当たらない。

まったく、こっちは昨日領地から王都に着いたばかりだというのに。

ため息をつきたくはなるが、しかし呼び出された理由については察しがついているし、その緊急性についても理解はしていた。


(けど、やっぱり来たばかりのあの子を残してきたのは酷だったな)

親友の妹について思いを馳せていると、人なみの間をぬって、その親友がやって来る。


「悪い、遅れたか?いやぁ、手紙でやり取りはしてたけど顔合わせるのは久しぶりだな!」


「そんなには待ってないから大丈夫。半年ぶりくらいだね」


親友は鋭い目つきをしているが、くしゃっと笑うとなんとも愛嬌がある。

やっぱり兄妹なだけあって、顔は似ているけどだいぶ印象は違う、と思いながらヒューバートに席を勧め、二人はソファに向かい合って座った。

周りにも多少人はいるが、逆にこういった場のほうが密談には良い場合もあるのだ。


「オリアーナはどうよ?」


「どうよ、と言われても。あの子がうちに来て、翌日にはこうやって王都に向かったからね。

父と母はだいぶ気に入ったみたいだった」


「そっか、気に入ってもらえたなら良かった。あいつ公爵令嬢にしては色々できるから任せられるぜ。父上が教会に入れさせたし、他国に嫁ぐ可能性もあったから語学堪能だし、そこら辺の教育もばっちり。」


ヒューバートの言葉に、アルヴィンは微笑ましい気持ちになる。

妹溺愛を公言して憚らない彼だ。自分にも妹がいるから可愛いと思う気持ちは良く分かる。

それに、実際オリアーナはいい子だ。


「半年前にステル辺境伯とお前が殿下に報告をあげたあの話、やっぱり確実だったか?」


ヒューバートが表情はそのままに、声音だけ低く小さくして尋ねた。

アルヴィンも顎をひいて、それに同意する。


「前から学者によって可能性は言われてたんだけど、半年前に信憑性が増してきたから報告したしね。

…うん、その後の調査で確実だと断言できた」


「あああーやっぱりかぁ。北の狙いもそれだろうなぁくっそ」


「父は昨日着いてすぐに、その旨を殿下に報告に言ったよ。今ごろは陛下の耳にも入ってるんじゃないの」


「お前そんな澄ました顔してるけど、これから相当忙しくなるぜ。ステル辺境伯と、領地と王都を行ったり来たりすることになるだろ」


「それは仕事だからしょうがないでしょ。…それよりベティ・ベガルタ嬢についてはどうなったの?」


アルヴィンは手元のワインをぐっとあおって空にした。目の前のヒューバートはグラスをゆらゆら揺らして飲みもしないでいる。


「この国にいる、北のお方ゆかりの奴が匿ってた。ベティ嬢本人はわが国にいたよ。

やっぱ妊娠してて、もうちょっとで産まれるらしい。曰く北のお方の子がね。信憑性ないけど」


「ベガルタ伯爵は?なんて?」


「あの影が薄くて気弱な伯爵が何か言えるわけないじゃん。だからこそ一人娘もあんなにワガママ放題したい放題になったわけだし」


「あぁ、確かに。正直さ、北の方の行動って相当アレだと思うんだけど、ほら、勝手に婚約破棄しちゃうとか」


「アレって言うか馬鹿だろ」


正直すぎる親友の言葉に苦笑する。

アルヴィンもただただ阿保だなとは思っているが。

しかし…


「うん。でも、うちの状況を調べた上でベティ嬢に目をつけたならかなりの切れ者だよね。

それか、本人はアレだけどバックに第三者がいて入れ知恵してるか」


「まぁな。もうちょっと調べてみる必要があるな。殿下も言ってたけど、なるべく大ごとにならないようにしたいし」


ヒューバートの言葉はまったくその通りだ。

二百年の和平を崩したくはない。

ヒューバートが話は終わり、と立ち上がりアルヴィンもそれに倣ってソファから離れる。

軽く軽口を言い合って、アルヴィンが帰ろうとしたところ、真剣な口調でヒューバートが見据えてきた。


「アルヴィン、正直俺はお前がオリアーナとの結婚に同意するとは思わなかった」


アルヴィンは軽く瞠目する。が、いつもの微笑みを浮かべたまま言った。


「……僕らの結婚は親が決めるものだろ。反対するわけないじゃないか。オリアーナ様は、僕にはもったいないほど良い子だしね」


「あの娘はどうなったんだよ」


間髪入れずに聞き返してきたヒューバートの言葉は、その眼差しと同じく、アルヴィンをまっすぐに貫いた。








アルヴィンは、王都にある、ステル家が所有する屋敷の部屋にいた。

あれから、ヒューバートの問いには答えず、ただ表情を変えず微笑んだままで親友と別れたのだ。

気の良い親友は、アルヴィンが何も答えなかったことに怒ったりはしなかったが、色々思うところはあるだろう。

殊最愛の妹に関することは。


オリアーナが自分に好意を向けていることはすぐに分かった。

というか、あんなに顔を赤くして、そのくせ話しかければ途端に嬉しそうな顔ばかりされたらどんな阿保だって気づくだろう、とアルヴィンは思う。


艶やかで豊かな黒髪。神秘的な灰色の瞳は長い睫毛で縁取られ、肌が驚くほど白いからか、赤い唇がやけに蠱惑的に映る。本人はいたく目尻が上がったつり目を気にしているが、それもまた品良く誇り高く見える。

初めて会った時でさえ相当な美少女だったオリアーナは、彼女が成人してから再会してみると更に凄みを増した美女へと成長していた。

ただ、そんな見た目に反して、性格はというと優しく、大人しく、謙虚だ。

今はだいぶ克服したらしいが、昔は人見知りも激しかった。


だから、そんなオリアーナを慣れない地に一人残して行く際、正直泣かれるかな、と思っていた。

それがまさか、あんなに落ち着いて励まされておくり出されるとは。

あんまりびっくりしたせいか、アルヴィンは胸が痛くなり掠れた声でお礼を言うのが精一杯だったのだ。


まるで妹と彼女との反応とは違うー。


アルヴィンは咄嗟に彼女の姿を思い返して、唇を噛んだ。


ーアルヴィンっ ずっといっしょよー


彼女の言葉は今でも深くこびりついている。

何度も何度も言われた言葉だ。


そして、目を閉じてその残像を振り払う。

国の為、領地の為。

自分はオリアーナと結婚する。


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