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もう間違えません  作者: アカイ葵
11/24

5



ステル家の庭はそれは素晴らしいものだった。

全て完璧に整備されているというよりは、まるで自然の明るい森の中を思わせるような、そんな庭園。

実際、屋敷のそばには山や森もあるのでそれらの紅葉もあいまって、本当に美しい。


私とアルヴィン様はそんな素晴らしい庭園の石畳をゆっくりと散歩していた。

屋敷周辺や、庭の中も案内してもらいながら歩く。

「母を見舞ってくれてありがとうございます。母も喜んでいたようで、あんなに明るい母は久しぶりに見ました」


「わ、私もお義母様とお話しできて、とても嬉しかったです。アルヴィン様はお義母様似なんですね、

笑ったお顔なんて特に似ていてびっくりしました」


相変わらずアルヴィン様と二人きりという状況に緊張して言葉がつっかえてしまう。

それでもアルヴィン様とお話しできるのは嬉しい。

ああ、しどろもどろな私に呆れてらっしゃらないかしら、ミナが褒めてくれた、この赤いドレス派手すぎじゃないかしら。


ぐるぐると考えていると、アルヴィン様が小さく息をついたのが分かった。

「僕たちが初めてお会いしたのは、確か四年前でしたか。まさかあの時の子と…、ヒューの美しい妹と結婚することになるなんて。正直今でも驚いていて信じられないような気がします」


美しい、と言われたことにびっくりして天にも昇るような気持ちになる。

花のお姫様のような、可愛い女の子に憧れる私だけれど、好きな人から美しいと言ってもらえるなんて嬉しくてたまらない!


「オリアーナ様は二年間教会にいたんでしたよね」


「は、はい。なので、ある程度のことは自分でできるようになりました。もともと趣味だった刺繍と裁縫の腕も教会にいる間に更に上がったんですよ。あと、あ、あの、私、庭のお花の世話を教えてもらってできるようになったんです」


「花の?」


アルヴィン様は微笑みながら優しく促してくれる。


「…私、サイ家の庭でナディシアの花を育てていて。

アルヴィン様が好きな花だとおっしゃっていたので、アルヴィン様に見ていただきたくて…。

種を持参したので、もしよろしければこの庭の一角をお借りしてまた育ててもいいでしょうか?」


ダズリーと頑張って世話したナディシアの花は春に綺麗に咲いてくれた。本当はアルヴィン様にお送りしたかったのだが、お義母様が倒れられてアルヴィン様はこのステル領に戻っていたので、送ることができなかったのだ。


「……」


私の言葉にアルヴィン様が不自然に黙りこんだ。


顔は微笑んだままだが、じっと私を見つめている。


「あの…?」


不思議に思って声をかけると、一瞬目をそらした後ににっこりと笑って言った。

「もちろん良いですよ。庭師にも話しておきますね、僕の好きな花を植えてくれるなんて光栄です。ありがとうございます」


話しながら歩いていたら、庭の中に小さな四阿があって、アルヴィン様にどうぞ、と言われて二人でそこに入る。

アルヴィン様と向かいあう形になるが、やはり

とびっきり素敵な人だなぁと思う。

ヒュー兄様は特別美形じゃない、なんてとんでもないことを言っていたが、優しげな顔立ちで常に微笑みを絶やさない紳士的な態度、穏やかな性格、こんなに素敵な人と結婚できるなんて私のほうが信じられないくらいだ。


「実は、父とこれから王都に行かなければならなくなりました。昨日ここに着いたばかりのあなたを残して行くことになり、申し訳ない。

半月後には式ですし、なるべく早く戻れるようにしたいと思います」


まっすぐに目を見て、真剣に言われた。

ずいぶん突然だな、とは思ったが私もあえて

アルヴィン様の目をまっすぐに見て言う。


「分かりました。私は大丈夫ですので気になさらないでください。アルヴィン様たちが不在の間に、できるだけ式の準備を進めておきます。

こちらに来たばかりでこんなこと言うのはおこがましいですが…、お義母様のこともお任せください。

どうかお勤めをしっかりと果たして下さいますよう」


アルヴィン様は仕事、とは言わなかったがお義父様といっしょに王都に行くということは、何か緊急性の高い呼び出しがあったのかもしれない。

国政に関わる重要な事柄は家族にも機密だ。

昨日来たばかりの新参者の私が、お任せください、なんて言うのは図々しいかもしれないけれど。

それでも、妻になる身として心配はいらないと送り出したかった。

私がそう言ったことによほど驚いたのか、アルヴィン様は目を見開いて固まってしまった。


そして少し掠れた声で、ありがとうございますと返した。当然のことを言っただけなのに何故お礼を言われるのか分からなくて、首を傾げてしまう。


でも、そんな疑問より私はさっきからどうしても気になることがあった。

「あの、アルヴィン様、私に対しての敬語は必要ありません。どうか名前も呼びすてにしてください」


あと半月後には妻になるのだ。敬語も敬称も必要ない。


けれど私のその懇願に、アルヴィン様はただただ笑みを深くしただけだった。


あれ?それってどういうこと?




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