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侍女頭のコンスタンスは、恰幅がよく、笑うと目尻に笑い皺が浮かぶ親しみやすい女性だった。
一通りの挨拶を受け、朝食を終えた後は、彼女先導のもと屋敷内の案内を受ける。
案内中にすれ違うステル家の使用人たちは皆一様に、私を見ては表情を改めて礼をしてくれる。
なんだか畏まりすぎな気がするけど、公爵家から来たばかりだからしょうがないのかも。
コンスタンスに、辺境伯夫人に挨拶とお見舞いに伺いたい旨を伝えると、すぐさま伝えてくれて了承の返事を貰えた。
「奥様、失礼します。サイ公爵令嬢オリアーナ様を
お連れしました」
「どうぞ、中に入ってちょうだい」
穏やかな声に促され室内に入ると、ベッドに起きて
明るい茶髪を片側に寄せて垂らした貴婦人が微笑んでいた。
その面ざしはびっくりするほどアルヴィン様に似ている。
アルヴィン様の、お母様、だ。
そしてベッド脇の椅子にはステル辺境伯も座っていた
「はじめまして、オリアーナ・サイでございます。
ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。
どうか、これからよろしくお願いいたします」
「私もはじめまして。メアリ・ステルです。
こんな格好でごめんなさいね、昨日もオリアーナ様をお出迎えにも出られず謝らなければならないのはこちらの方よ」
辺境伯夫人、メアリ様はそう言って困ったように軽く頭を下げた。
私は慌てて
「謝るなんてとんでないです。お体の具合はどうでしょうか、どうかご無理をなさらないでくださいね。
あと…昨日辺境伯にもお伝えしたのですが、どうか
オリアーナと呼び捨てになさってください。」
私の言葉にキョトンと目を丸くしたメアリ様は、次いでクスクスと笑いだした。
えっと…私何か可笑しなこと言っちゃったかしら?
内心青ざめていると、隣のステル辺境伯も面白そうにこちらを見てくる
「全く。本当に噂とはいい加減なものね」
「え?」
よく聞き取れなくて聞き返すと、メアリ様は首を振ってじっとこちらを見つめてきた。
「今日はとても体調が良いので大丈夫よ。
心配してくれてありがとう、オリアーナ。貴女も、私と主人のことは父と母と呼んでくれると嬉しいわ。
私たちはこれから家族になるのだしね」
メアリ様、いいや、お義母様が言ってくれた言葉に
とたんに嬉しくなった。
私も早くステル家にとけこみたい。
しばらく、お義父様とお体母様と談笑をしていると、アルヴィン様も部屋に訪れた。
「母上、お加減いかがですか?今日は顔色も良さそうですね。オリアーナ様、ゆっくり休めましたか?」
「ええ、今日はとても元気。オリアーナと楽しくおしゃべりをしていたのよ」
「はい、皆様に良くして頂いて」
笑顔で会話するお義母様とアルヴィン様は、二人が並ぶとやはりとてもよく似ていた。
反対にリリーさんは面ざしや瞳の色などが、お義父様に似ている。
まじまじと、談笑する親子を見ていると、アルヴィン様が私のほうに顔を向けて
「良ければ、これからいっしょに庭に出ませんか?屋敷の外の案内はまだと聞いたので」
と、とても素敵な提案をしてくれた。
もちろん絶対に嫌だなんて言うはずがない。
「ぜひ!行きたいです、お願いします」
意気込みすぎて答えた私を、お義父様とお義母様が微笑ましく見ていたことは、初めてのアルヴィン様からのお誘いにドキドキする私は全く気づいていなかった。