おっさん銭湯に行く
遅くなりました。
今回も短めです。
ミニオーク亭に戻ったおっさんは、エプロンを着けた妙齢の美女がテーブルを拭いているのを見た。
その横でミリアが甘えながらも手伝っているのを見て、ミリアの母親であろうと当りを付ける。
「お仕事中にすみませんが、此方には剣術の練習が出来るような場所がありますでしょうか?」
「あっ、ユージさんお帰りなさい。」
「裏庭がありますので、宿泊される冒険者の皆さんにはそちらをお使い頂いています。 ミリア、案内して差し上げて。」
「ありがとうございます。」
おっさんはミリアに連れられて裏庭へと向かう。
「ミリア、今のはお母さん?」
「うん、そうだよ。」
「初日に来た時は居なかったから初めて見たんだけど。 どこかに出掛けてたの?」
「お母さんは普段は宿の手伝いはしていないの。 近くにお爺ちゃんの道具屋があるからそっちを手伝ってるの。 道具屋が休みの日だけ私と一緒に宿を手伝っているんだよ。」
「ふーん、そうなんだ。 ところでお母さんの名前は?」
「サリアだよ。」
何気なく会話をしていると裏庭に着いた。
綺麗に石畳が敷かれており、石造りの柵が宿屋の敷地を示している。
【12〜3畳分くらいの敷地やろうか? 一通りの練習はできそうやな。】
「ミリア、ありがとう。」
おっさんはミリアに礼を言うと、石畳の中央辺りに立ち静かに眼を閉じ瞑想を行う。
暫く呼吸を整え、徐に半眼にする。
しっかりと膝を曲げて腰を落とし右半身になり刀を鞘事捻ると鯉口を切り息吹と共に抜刀する。
おっさんは鎧組討術、小太刀術、槍術を含む流派の技を習った。 戦国乱世で鍛えられた介者剣術である。
しっかりと腰を落とし両足で踏ん張り技を出す。
流派の変遷で素肌剣術に対応する様に踏ん張らず自然体で立ち、構える事も習ったのだが鎧を着用した冒険者が多いのを見て介者剣術で腰を落とし踏ん張り、技を出す練習を行った方が良いかもと判断したのだ。
おっさんは師に己の影を斬るのが最も修練になると諭されていたので、それを思い出し己の影を幻想し刀を振るう。
集中して練習を行っていた為薄暗くなって来ていた。
練習を切上げ噴き出す汗を拭い、食堂部分に戻ると随分と店が賑わっていた。
おっさんは風呂に入りたいとは思ったが、先に食事を済ませ宿近くの公衆浴場に行く事にする。
以前、宿の周りを散策した時に公衆浴場を発見していたのだった。
夕食は銅貨8枚のポークチャップ定食で、パンと野菜のスープにサラダ、ポークチャップであった。
食事を済ませたおっさんは部屋からタオルと石鹸を手に公衆浴場へ赴いた。
中に入ると、昭和の古き良き銭湯と見間違う光景がおっさんの目に飛び込んだ。
入口に暖簾があり、下駄箱、男女各々の入口、番台、脱衣場と日本の銭湯そのままである。
【これも日本人の影響やろな。】
おっさんは30歳位まで安い文化住宅住まいだった為、銭湯歴は長い。 召喚される迄住んでいたマンションに引っ越してからも週に1度は銭湯に通っていた。
【銭湯に日本人がおらんと、外人の容姿の人間ばっかりやと何か変やな。】
番台のおばちゃんに入浴料銅貨3枚を払うと脱衣場てさっさと服を脱ぎタオルと石鹸を持って風呂場へ向かう。
【入浴料が300円と考えると昭和の終わり頃か平成の初め頃の値段やな。 高いんか安いんか判らんな。 これ位の値段やと毎日でも通えんで、良かったわ。】
カランで木桶を手にすると桶の中に赤い文字で『ケロ○ン』と書いてあった。
【これはいくら何でもふざけとるやろ。 ケロリ○桶は薬の宣伝で黄色いブラスチック桶に赤い字が特徴でどこの銭湯に行っても置いとるもんなんやけど・・・ それに桶がデカすぎるわ。 いくら此処の人間が大きい言うても掛湯し辛いやんけ。 このノリはいちびりの関西人やと思うたけど桶の大きさから考えたら調子ノリの関東者やな。】
おっさんはゆっくりとお風呂を使った。
一応帰り際に番台でケロ○ン桶の事を聞いてみると過去の勇者が銭湯の桶には赤い文字でケロリ○と書くのが決まりだと伝えたようで、それが伝統的に今も続いているそうだった。
おっさんは風呂に入った爽快感とは裏腹に疲れた面持ちで宿へと帰った。
【今日は早よ寝よ。 何か判らんけど疲れたわ。】
こうしておっさんの一日は終わるのだった。
作中「いちびり」なる言葉が出てきますが、関西の方言です。
「悪ふざけしてはしゃぐ」「お調子者」と言ったニュアンスの言葉です。
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過去の文章も時々手を入れる事がありますのでご了承下さい。




