おっさん何故か死す!
長編初投稿です。
誤字脱字等存在します。
推敲不足も存在します。
笑ってご覧下さいませ。
投稿後、改行を加えました。
おっさんは蓬髪に髷を結い、涅色の小袖と袴を着用し、刀を指していた。ちなみに涅色とは茶みがかった黒色を指す。
旗指物が刺さった乳母車を押している。
時代劇等では標準的に見られる浪人の格好ではあるが、現代的な乳母車はかなり奇異に映る。
この姿はVRMMORPG「Reincarnation」に於いておっさんが使っているアバターだ。
このゲームは決して和風RPGというわけではない。
普通に中世の世界観であり剣と魔法の世界なのである。
複数の職業を経て最上級職へと至る、ユーザー泣かせの長いゲームだ。
複数の職業があるゆえかアバターの見た目のみを設定することができ、ゲーム中の装備とアバターが一致しない事がこのゲームの特徴の一つなのだ。乳母車はゲーム中の見た目用に用意されているアイテムの一つである。勿論ゲーム中でアバターの見た目と装備を一致させる事もできるのだが。
おっさんは時代劇を好み、なんとなく侍に憧れ、着物を着て町を歩きたいのだが予算の都合や、着物を着て歩く気恥ずかしさがあるため現実世界でなく、ゲームの中でそれを行っている。
某有名時代劇「子連○狼」が好きで、拝○刀の様に箱車を押し「一殺五百両」の旗を掲げ再現したいのだが、ゲームにそこまでの自由度はさすがに無く、アップデートで侍職が出た時に見た目のアバターのみ今の格好に変更したのだ。因みに乳母車は箱車の代わりである。
この様な似非、拝一○の姿をしているが、ゲームの中ではおっさんは大賢者と呼ばれる隠れ最上級魔法職である。
おっさんはゲーム開始時は必ず魔法職を選ぶ。
現実ではできない職業だからだ。
このゲームは作れるアバターの枠は一つだけで、複数は作れない。
その代わり複数の職業を極めることができる。
逆に複数の職業を極めなければ上級職に変化できないので魔法戦士などの道も無くはないし、極論を言えば全ての職業になる事もできるのだが、ゲーム中の魔法の有用性、回復手段におけるゲーム内通貨の圧迫等を考慮すると、つい魔法系統の職を優先してしまう。
魔術士から大魔術師、呪術師から大呪術師、僧侶から僧正へと初期職業から上級職へと渡り歩き、3つの上級職をカンストとなるレベル100まで極め、賢者へ転職した。
賢者レベル100への長く苦しい道程を成し遂げ隠れ最上級職である大賢者へと至った。
大賢者になった途端のアップデートで足軽と言う侍に至る職業が実装されたのだが、貧乏性のせいか時間を掛けてレベル上げを行ったアバターを破棄し作り直すのも勿体無いと考え、侍に未練を残しながらもそのまま大賢者でレベルを上げ、現在のカンストであるレベル120まで上げた。
おっさんは、かなりやり込んでいるプレイヤーではあるが、トッププレイヤーではないし希少アイテムを手に入れている訳でもない。
廃人レベルに至ると全ての職業を網羅し複数の隠れ最上級職を経た者もいるのだが、おっさんは今のところ新イベントやレベル上限開放を待つばかりで特にやることも無い。
ここから侍も目指すのも一つの手なのだが、ここから先を考えると心が萎える。
今日も今日とて、なんとなくゲームにログインし、手に入れた不要アイテムをゲーム拠点としている街で自動の露店販売に設定し売り出し、アバターを使ってアイテム販売のユーザー露天を覗いている時に、部屋が揺れた様に感じた。
地震かと思った刹那におっさんの眼の前がブラックアウトを起こし、おっさんは倒れた。
大阪在住のおっさんは名を海東祐治と言い42歳の整骨院勤務の柔道整復師だ。
中高と柔道部に所属し、高校卒業後病院のリハビリ室で働きながら柔道整復師養成の専門学校に通い趣味で剣術と居合を習った。
今も剣術、居合共に続けてはいるが、月に2、3度程体力の維持のために軽く居合刀を振る程度で若い頃の取り憑かれた様な練習はしていない。
そんなおっさんは、どうやら死んでしまったようだ。
純白とも漆黒とも感じる場所に儂はいた。
寝ているのか、起きているのか今ひとつ分からない。
ぼうっとしていると声がかかる。
『まいど〜、機嫌はどないです?』
バリバリの関西弁である。
『あんたは、海東祐治さんで間違いありませんか?』
『自分が死んだん理解してはります?』
白い上下のスーツを着た胡散臭い格好の中年親父が顔を覗き込み訪ねてくる。
『一応通じやすいように関西弁をつこうとりますが、標準語の方がええでっか?』
「儂はあんたの言うとおり海東祐治やけど、死んだかどうかは分からんなぁ。 似非標準語やなかったら、使うんは関西弁でも標準語でも、どっちでもええで。 聞くんは慣れとるから。 儂は喋るんは関西弁以外は出来へんけど。」とつい、ドギツイ関西弁で返してしまう。
「ところで此処は何処や? それにあんたは誰? ついでに儂が死んだってどういうこっちゃ?」
自分でもよく分からない状況ながら意外と冷静である。
『標準語のほうが私が使い易いですので切り替えますね。』と言うと、中年親父の声が綺麗なソプラノへ変化し、同時に親父は白いワンピースを着た妙齢の女性へと変化する。
『ここは、貴方達が言うところの神の世界。私は世界の管理者、神の一柱となります。』
『貴方が死んだのは管理世界への不正アクセスによるバグが原因です。決して病気や怪我等ではありません。』
イマイチこの存在(女神?)の言っている事自体が理解不能ではある。
「何や、ようわからんけど、儂はバグか何かで死んだんやな? 神やっちゅうなら、さっさと生き返らせーや。」
若干ヤンチャ系のお兄さんのような口調であるが、関西弁では意外と普通口調であるので気にせずに。
『申し訳ないのですが、生き返らせる事は管理上不可能です。ただ、バグによって本来死ぬべきではない貴方が亡くなられましたので、補償を行おうとは思います。』