お風呂場からの異世界転移
---俺、何でこんなことしてんの?
今日もそんな事を言いながら自分の身長の二倍ぐらいある巨大な丸太を運んでいた。
俺は西島海斗、高くも低くもない平均的な身長にイケメンともブスとも言えないどこにでもいそうな顔。
見ての通り普通の男子高校生(年齢的に)である。
まぁ、唯一特徴があるとしたら趣味の筋トレで鍛え上げた体ぐらいだ。今やその体のせいで肉体労働を強いられているのだから全くもって役に立っていない。
ところで、今ごろ本当は高校生活を満喫中であっただろう俺がなぜ毎日巨大な丸太を運んでいるのかというと決してグレて高校に行かなかったわけではない。
では何故か、それはいつも通りの月曜日のこと、俺は今日も特に何もない平凡な1日を過ごしていた……。
「おーい!海斗!今日も部活お疲れ!」
「おぉ…お疲れ…」
こいつは斉藤和馬、幼い頃からの友達だ。
「どうした?浮かない顔してまたフラれたか!?」
「ちげーよ!疲れてるだけ!」
「そっか!あのさぁ、この前そこにできたカフェ行かない?」
「悪い、今日は用事があってね。また誘ってよ」
「オッケー!じゃあな!」
用事と言ってもゲームの新イベントが始まるだけなのだが…。
「は~風呂はいつでも気持ちな~」
俺は新イベントも一通りやり終わって風呂に入っていた。
「おっと、入浴剤忘れてた」
手を伸ばして入浴剤を風呂の中に入れた。
いつも通り「モワモワ」と泡が出てきた。
そう「モワモワ」と
「モワモワモワ!」と
「モワモワモワモワ!!」と。
「ど…どうした!これ普通の入浴剤から出る泡の量じゃないよな!顔まで飲み込まれそうなんですけど!!」
俺は慌てて立ち上がった。
そして風呂場のドアを開けようとした、だが…
「なんで開かねーんだよ!!! 」
何故かドアが開かなかった。本当に何故か分からない。
まぁ、今思えばこれも「異世界ファンタジー」の一つだったのだろう。
そうして目の前の今にも自分を飲み込みそうな大量の泡を見ながら、風呂場からの脱出という最初で最後の望みを断たれた俺の頭は「これは本気でヤバい…」という言葉で埋め尽くされていた。
それからというもの俺の意識は現実からどんどん遠くなり……
やがて意識を失った…。
「あ…あの、ご飯できたんですけど食べます?」
「え…え?」
そこには、
頭に半透明の輪を浮かべ、
背中に白銀の翼を生やし、
全身にキトンをまとった、
天使がいた。